山野が鍛えたスウェーデンの二輪ブランド
ハスクバーナ、115年の歴史を振り返る
2018.03.26
デイリーコラム
北欧が生んだ稀有な二輪ブランド
ロイヤル・エンフィールドとインディアンが1901年、トライアンフとノートンが1902年、そしてハーレーダビッドソンが1903年。これらは現存する二輪メーカーの創業年を古い順から並べたものだ。ただし、ハーレーダビッドソン以外は長きにわたる休業や倒産を経験し、いずれも90年代以降に本格的な復活を果たした新生ブランドでもある。
そういう意味で本当に古参と呼べるのはハーレーダビッドソンだが、実はそこに並ぶブランドがもうひとつある。それがハスクバーナだ。1903年に二輪の生産を開始したのも同じなら、わずかな空白期間こそあれ、115年にわたってその生産を継続してきたという点でも共通する、極めて稀有(けう)な存在である。
そもそもハスクバーナは、スウェーデン南部にある小さな街の名前だ。1689年、当時のスウェーデン国王カール11世の命令を受けて建設された銃器工場を社史の始まりとし、機械加工に必要な水源が豊富にあったことで産業が発達。やがて地名そのものがブランドになった。現在の街のスペルは“Huskvarna”だが、ブランド名を表す時は“Husqvarna”という古い時代の表記が今も使用されている。
そんなハスクバーナは王室向けの銃器製造を通して鉄の鋳造や切削技術を磨き、やがてそれをさまざまな分野へと派生させていった。ミシン、自転車、農林業器具・・・・・・と多岐にわたる中、最も大きな規模に成長したのが1903年に始まった二輪への進出だ。
モトクロスの世界で確固とした名声を築く
当初は簡易な原動機付自転車の車体造りを手がけていたものの、程なくオリジナルエンジンの開発にも成功し、スウェーデン軍に納められたモデルの走破性と耐久性が高く評価されて一躍その名が知られるようになった。レースに参戦を開始すると名声はさらに高まり、1930年代に入るとまずはロードレースで、次いでオフロードで目覚ましい成果をあげて、その地位を揺るぎないものにしたのである。
特にモトクロス世界選手権が始まった50年代からは圧倒的な強さを発揮し、これまで獲得した世界タイトルは70以上にのぼる。しかも4ストローク全盛の時代には2ストロークを、2ストロークが主流になると4ストロークを送り込むなど、多勢に屈しない姿勢で最前線に立ち続け、その存在感を印象づけるのと同時にスウェーデンが持つ技術立国というイメージにも貢献してきたのだ。
ただし、近年は幾度も経営の浮き沈みや紆余(うよ)曲折を余儀なくされ、時には消滅の危機すらあった。しかしそのたびにカジバ(1987年/イタリア)、BMW(2007年/ドイツ)、KTM(2013年/オーストリア)といった企業の庇護(ひご)のもと、文字通り国を転々としながらも生き長らえてきたのである。
プロダクトにはスウェーデンの美意識が息づく
しかし本当に稀有なのは、そういう難局にさらされてなおハスクバーナらしさを失わず、それどころかむしろ年々輝きを増しているところだ。特に今日では、KTMの傘下に入ったことで経営が飛躍的に安定。スウェーデン発祥のブランドであるというバックボーンは大切に守られ、送り出される製品には例外なく高い美意識がちりばめられている。
その成果は数字が証明している。2017年の世界販売台数は3万6883台に達し、4年連続で売り上げを伸ばすなど絶好調だ。その規模をドゥカティの同年データ、5万5871台と比較すると分かりやすい。数字に開きはあるものの雲泥の差と言うほどでもなく、ドゥカティ3台に対してハスクバーナは2台売れている計算になる。なのに、その姿をなかなか見かけないのは、ハスクバーナを好むライダーの多くが街中ではなく、オフロード競技やトレイルランを楽しむために山々を駆け回っているからに他ならない。
ただし、それも今年から変わる。なぜならハスクバーナにとって久しぶりのロードモデルがもうすぐ現れるからだ。ストリートを駆け抜けるバイクを見て、「なにか普通じゃない」と目が留まったなら、それは新しいハスクバーナの可能性が高い。近い将来、銃口と照準器と王冠を模した誇り高いロゴマークを街中でも目にするようになるだろう。それほどの勢いが、今のこのブランドにはある。
(文=伊丹孝裕/写真=ハスクバーナ、webCG/編集=堀田剛資)

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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