第491回:欧州で鍛えられたフラッグシップ
ファルケンの新タイヤ「AZENIS FK510」の実力を試す
2018.03.28
エディターから一言
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この2月に日本で発売されたファルケンの新製品「AZENIS(アゼニス)FK510」。同ブランドのフラッグシップを担い、欧州ではすでに高い評価を得ているというこのタイヤの実力を、キャラクターの異なる3台の試走車でチェックした。
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いうなればプレミアムコンフォート
いまや住友ゴム工業のグローバルブランドとして欧州や北米でその認知度を高めているファルケン。筆者のような40代中盤のクルマ好きのなかには、かつて“お値段以上”の性能を発揮するスポーツタイヤメーカーとして、ミニサーキット等で腕を磨かせてもらった経験がある方も多いのではないだろうか。
そんなファルケンがフラッグシップモデルであるAZENISをFK453からFK510へとモデルチェンジ。これを一般公道と高速道路で試すことができた。とはいえ、このFK510は既に欧州で先行発売されているタイヤであり、ファルケン自身も「ドイツの自動車専門誌『Auto Bild(アウト・ビルト)』のテストで総合2位の評価を得た!」と鼻息が荒い。それなら相応のテストフィールドを用意してほしいものだと思わなくもないのだが……。ちなみにテスト車は「フォルクスワーゲン・ゴルフR」(前=225/40ZR18、後ろ=225/40ZR18)、「ポルシェ・マカン」(前=235/60R18、後ろ=255/55R18)、「メルセデス・ベンツC180」(前=245/40ZR18、後ろ=265/35ZR18)の3台であった。
さて、ひとことで表すとこのAZENIS FK510、かなりしなやかなタイヤである。
「ファルケンのフラグシップ」というイメージから、かなりガッチリとした剛性感と若々しいグリップ感が際立つタイヤを予想したのだが、スタッフの方々に見送られながらゴルフRをそれこそ“ひと転がし”しただけで、その予想は大きく外れたことがわかった。そして会場から国道へ出る段差を乗り越えただけで、確信した。これはブリヂストンの「POTENZA S001」やヨコハマの「ADVAN SPORT V105」といったプレミアムスポーツタイヤとは若干趣を異にする、言ってみればプレミアムコンフォートタイヤなのだ。
極太の溝が目を引くトレッド面
海岸沿いの国道が観光地だからかそれほど荒れた路面ではなかったこと、横浜横須賀道路の路面も同様だったことを差し引いても、このタイヤは乗り心地がいい。そして音・振動面に関してもロードおよびパターンノイズが上手に抑え込まれている。そのしなやかさはコンパウンドと構造、どちらにも偏ることなくタイヤ全体で実現されている感があり、ラベリング重視の人肌を無視した印象を抱かせないところにも好感がもてる。
技術的にはアウト側のプロファイル(形のこと)をスクエアではなく円形にラウンドさせることに注力し、直進時のみならずコーナリング時にも適切な接地圧分布を保つことでその接地面積を確保。またコンパウンドはシリカの配合を巧みにコントロールすることで、ドライ・ウエット共に路面との密着性を高めたという。
面白いのはトレッド面における主溝の太さだった。そのものずばり「WIDE & DEEP GROOVE」と名付けられた3本の主溝は、見た目でも存在感を示すほどに極太で、その中央溝と外側溝、そして外側溝からアウトブロックへは水膜を除去するための細いブレードサイプが配置されている。これだけ大胆にトレッド面から接地面積が削り取られていたら、そのしなやかなコンパウンド特性と相まって確かにウエット性能は高そうだが、ステアリングレスポンスについてはどうなのだろう?
果たしてその印象は、今回の試乗内容では結論が出せなかった。
試走のたびに変わる印象
ことゴルフRに対しては、正直に言うとこれ(ステアリングレスポンス)が鈍い。もともとゴルフRは超ハイグリップタイヤを履きこなすだけのキャパシティーがサスペンションに与えられており、ダンパー特性はこれを柔軟に処理するために、極めてまったりとしている。そしてFK510も前述した通りの穏やかな特性を持っているため、互いが主導権を譲り合うかのように初期応答性がダルいのだ。そしてステアリングをさらに切り込むような場面になると、タイヤのグリップがぐっと立ち上がってくる。
きっと欧州でFK510の評価が高いのは、そのスピードレンジが今回の試乗よりはるかに高く、タイヤに効果的な荷重をかけられるから。ハイアベレージな環境においてはこの穏やかさが、むしろ過敏さを取り去りリニアリティーをもたらすからだと思う。
一方、これがマカンになると、ゴルフRよりも少ない舵角でグリップを立ち上げることができた。この要因をFRベースの4WD機構や、より日常域での回頭性に優れるマカンの運動性能に結びつけることもできるが、筆者としては同じFK510でもSUV用の方が、ややサイドウォール剛性が高く作られているのではないかと感じた。結果的にはそのしなやかな乗り味と、スポーティーなハンドリングがちょうどよくバランスされていた。
C180に関しては、純正サイズよりもタイヤの幅が広められており、その印象は一番頼もしいものであった。Dセグメントらしからぬ車体剛性の高さとよい意味での車体の重さがタイヤに掛かっても、タイヤが負けない。一般的な走行では、ゴルフRで感じたしなやかさを保ったまま、メルセデスらしい穏やかなハンドリングを実現してくれていた。こういうタイヤテストをするときに、メルセデスは本当によい判断基準となってくれるクルマである。
違うシチュエーションでも試したい
ただひとつ問題だったのは、高速道路で本線に合流する手前のループなど、それなりに回り込んだコーナーでの所作だった。タイヤにスリップアングルを大きめに与えた状況で、パーシャルでもいいからアクセルを開けてトラクションを掛けている状態なら、クルマは安定している。しかし、ここからアクセルをパッと離したとき、フロントタイヤのグリップが強く回復し過ぎて、ノーズが極端にイン側に巻き込み、操舵を不安定にしてしまうのだ。これはアクセル操作のラフなドライバーなら簡単に起こりうる状況であるし、ブラインドコーナーにオーバースピードで入った場合にも想定できるシチュエーションである。
ベースに戻ってタイヤの内圧を計ると、標準より0.2kgf/cm2ほど高かった。試走を繰り返すことで、タイヤの内圧変化が起きていたのだろう。むろん、0.2kgf/cm2の内圧上昇程度でタイヤの特性が大きく悪化することなどないから、今回は前後タイヤ幅のサイズアップが相乗効果となって、悪い方向に出てしまっただけだと思う。ファルケンとしては、フロントで225、235、245、リアで225、255、265幅と、多くのタイヤ幅のバリエーションを体感してほしかったのだろうが……。
ともあれ、通常領域では非常にコンフォートな乗り心地を見せたFK510。前作FK453を全方位的に上回ったというその性能を確かめるために、もっとじっくり乗り込んでみたいと思えるタイヤであることは確かだった。
(文=山田弘樹/写真=住友ゴム工業、webCG/編集=堀田剛資)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。