日産セレナe-POWERハイウェイスターV(FF)
家族には静かさを、パパにはパワーを 2018.04.09 試乗記 「日産セレナe-POWER」に試乗。高い効率性がうたわれる日産自慢の電動パワーユニット、e-POWER。500kmのドライブでその実用燃費を検証するとともに、ファミリーカーのあるべき姿について考えた。7km走ってブレーキを踏んだのは5回
「ちゃんと燃費をとってきてくださいね!」
セレナe-POWERの試乗にあたって下されたお題だ。要するに、長距離ドライブをしてこいという意味だろう。望むところである。高速道路で小田原まで走り、箱根ターンパイクから芦ノ湖スカイラインを抜け、国道1号線で御殿場を経由して須走へ。東富士五湖道路には乗らず、山中湖に突き当たったら右折して道志みちを行く。圏央道の相模原から高速に乗って帰ってくる。いろいろなタイプの道を組み合わせ、300kmぐらいは走れるはずだ。
ルートが決まったところで天気予報を見ると、時ならぬ雪が降ると言っている。東京都内でも雪の可能性があり、箱根方面は10cm以上の積雪だというのだ。試乗車が装着しているのは夏タイヤだから、雪の山道なんて走れない。ならば奥多摩とか秩父はどうかと調べてみたが、関東の山沿いはすべてアウト。残るのは千葉方面だけ。
翌朝になると、東京でも雪交じりの雨が降ってきた。急がなくてはならない。東京湾アクアラインで房総半島に渡ることにする。e-POWERで公道を走るのは久しぶりだ。「ノートe-POWER」ではかなりの距離を走ったし、少し前にセレナe-POWERもテストコースで走ったからすぐに感覚が戻った。街なかでは、ほとんどブレーキを踏む必要を感じることはない。
信号が赤になりそうだと思ったらアクセルペダルを緩め、停止線で止まれるように踏力を調節する。高速道路の乗り口までの7kmほどで、ブレーキを使ったのは5回だった。どうしても必要なのは、交差点の左折ぐらいなのだ。高速道路に乗れば、ブレーキの活躍する場面はさらに少なくなる。このイージーさを知ってしまうと、ペダルを踏み換えるのは本当に面倒な作業だったんだなという気持ちになるのは仕方がない。
雨の日はハンドル支援を諦める
アクセルペダルを踏むのさえ煩わしいと思うなら、アダプティブクルーズコントロール(ACC)の出番である。電動パワートレインのe-POWERと先進運転操作支援システム「プロパイロット」が同時に搭載されるのは、このモデルが初めてである。ステアリングホイールの右側に備わるスイッチで速度と車間距離を設定すれば、システムが作動。マイルドハイブリッドの「S-HYBRID」版のセレナでも試してみたことがあるが、e-POWERのほうが素早いレスポンスだ。やはり電気信号がダイレクトに伝わるモーターは有利なのだろう。
ただ、この日は何度試してもハンドル支援の機能が使えない。雨が降り続いているせいで、車線を認識できないのだろうか。土砂降りというほどの強さではないのに、システムが使えなくなってしまう。表示される警告文は「ハンドル支援は一時的に作動できません」と「レーンを認識できません。ハンドル支援を解除します」の2種類あった。調べてみると、意味合いが違っている。
「作動できません」のほうは「両側の車線を検出しなくなったとき」に表示されるということなので、やはり雨のせいで車線が見えていないことが原因のようだ。「解除します」のほうも車線認識の不調が関係しているが、もう1つ「ワイパーを低速で作動させたとき」という条件も記されている。フロントウィンドウ上部に設置されたカメラを、ワイパーがさえぎってしまうということなのだ。
以前「BMW 530e」に試乗した時、ゲリラ豪雨に見舞われて人間の目では前が見えない状況になってもシステムは車線を見失わなかった。BMWはステレオカメラとレーダーセンサーを組み合わせるという高度で高価なセンサーを使っているから、単眼カメラのプロパイロットは圧倒的に不利である。悪天候の際は、ハンドル支援機能を諦めるしかない。
走行中の静かさは特筆すべきレベルだ。ACCにまかせていれば無駄な加減速も少ないし、巡航中に聞こえるのはロードノイズと風切音だけ。家族が会話しながら移動できるのだから、静粛性というのはファミリーカーにとっては重要な性能である。S-HYBRID版では、エンジン音のせいでどうしても声が届かない場面が生じる。
30%はモーターのみで走行
重量増を避けるためにバッテリー容量が最小限に抑えられているので、電力が足りなくなればエンジンが始動する。走っている分には気にならないが、渋滞時などではまったくの無音からくぐもったエンジン音が響くと少々不気味な感じ。昭和の冷蔵庫が夜中に突然動き出したのと似ているような気がした。
加速時や登り坂では、エンジンがフル回転して電力を供給する。バッテリーからの供給では間に合わないのだ。そういう場面では普通のガソリン車と変わらない音がする。静かなEV走行とは別の顔だ。モーターのパワーを生かした強力な駆動力を発揮する。
ハイパワーで走りのいいミニバンということでは、対抗馬となるのが「ホンダ・ステップワゴン スパーダ ハイブリッド」だろう。トヨタの「ノア/ヴォクシー/エスクァイア」のハイブリッドは、パワーよりも燃費を重視している。加速の豪快さでは、ステップワゴンにアドバンテージがあるように感じた。セレナe-POWERの取りえは、加速力を秘めながらも通常時に静かでスムーズな走りができることだろう。燃費、価格も似ているからよきライバルなのだが、どちらも自動パーキング機能に難があるところまでソックリなのは余計だ。
アクアラインを渡ってからは南下し、高速道路を降りて房総半島中央部を北上した。かなりの距離を走ったと思い、トリップメーターを表示させようとしたが方法がわからない。モニターの切り替えスイッチを使ってようやくトリップという表示が出てきたが、数字は40kmを少し越えたぐらい。東京から川崎をまわって海を渡ってきたのに、この表示は変だ。よく見たら、これは「EVトリップメーター」の表示だった。
取扱説明書には「モーターのみで走行した区間距離を表示します」と書いてあった。試乗を終えてから見てみると、総走行距離509kmに対してEVトリップメーターは153.8km。走っている間の約30%はエンジンが回っていなかったことになる。回生で得られた部分を除けば電力はガソリンによって得られているからEVという表現には疑問もあるが、エンジンが止まっている間は静かな走行であったことは確かだ。
ファミリーカーの優秀さはそのままに
最近、3列シートのSUVに乗る機会があった。流行のスタイリッシュなSUVを、ミニバン的に使うという欲張ったモデルである。人気上昇中のジャンルだが、やはり2列目3列目の快適性はミニバンには遠く及ばない。王道ミニバンのセレナに乗ると、あらためてファミリーカーとしての優秀さをひしひしと感じた。
2列目キャプテンシートはゆったりとした作りで、座り心地がいい。中折れ形状の背もたれパッドと両側アームレストのおかげで、リビングのソファのような快適さだ。690mmの超ロングスライド機構を使えば、足元には広大な空間が生じる。このクルマの中の特等席だろう。
3列目も、決して我慢を強いられる席ではない。超ロングスライド機構のおかげで、乗り降りはラクラクだ。シートがフラットな形状なのでサポート性には欠けるが、高い位置から見下ろす位置にあるのがうれしい。サイドウィンドウも広く、閉じ込められているという感じはしない。カップホルダーやUSBソケットが備えられているという気遣いにおもてなし感がある。荷室は広大で、デュアルバックドアが利便性を高めている。
家族のためのクルマという目的を明確にしたことで、セレナは優秀なファミリーカーになったのだ。確かに箱型のスタイルにはそろそろ飽きがきているかもしれないが、子育てを最優先するのなら、実用性、利便性、後席の快適さを重視すべきだろう。連続テレビ小説『あまちゃん』で天野アキが発した名言を借りるなら、「ダサいくらいなんだよ、我慢しろよ!」ということである。
ファミリーカーの優秀さをすべて備えた上で、e-POWERはパワーユニットの強みが加わる。パパが楽しく走れて、静かだから家族も上機嫌だ。確かにS-HYBRID版よりも高価格だが、プラス50万円の価値はあると思う。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
日産セレナe-POWERハイウェイスターV
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4770×1740×1865mm
ホイールベース:2860mm
車重:1760kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:84ps(62kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:103Nm(10.5kgm)/3200-5200rpm
モーター最高出力:136ps(100kW)
モーター最大トルク:320Nm(32.6kgm)
タイヤ:(前)195/65R15 91S/(後)195/65R15 91S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:26.2km/リッター(JC08モード)
価格:340万4160円/テスト車=430万4160円
オプション装備:ボディーカラー<ブリリアントホワイトパール/ダイヤモンドブラック 2トーン>(7万5600円)/セーフティーパックB(24万3000円)/オートデュアルエアコン+前席クイックコンフォートヒーター付きシート+ステアリングヒーター+寒冷地仕様<ヒーターダクト、高濃度不凍液、ヒーター付きドアミラー>(8万3160円) ※以下、販売店オプション ナビレコツインモニターパック<MM517D-L>(42万2259円)/フロアカーペット<e-POWER車用>(6万4584円)/ウィンドウはっ水<12カ月>(1万1048円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1775km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:509.0km
使用燃料:36.7リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.9km/リッター(満タン法)/14.7km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
NEW
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。 -
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか?
2025.10.10デイリーコラム満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。 -
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】
2025.10.10試乗記今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選
2025.10.9デイリーコラム24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。 -
BMW M2(前編)
2025.10.9谷口信輝の新車試乗縦置きの6気筒エンジンに、FRの駆動方式。運転好きならグッとくる高性能クーペ「BMW M2」にさらなる改良が加えられた。その走りを、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか?