第87回:目指したのは「海外でも通用する昭和」!?
2018.04.24 カーマニア人間国宝への道原点はヨーロピアンデザイン
そろそろブランド統一デザイン一辺倒から、多様化への揺り戻しが来るのではという、中村史郎氏の爆弾予言(?)がさく裂したところで、我が身(=カーマニア)と我が価値観を振り返ってみたい。我々カーマニアは、いったいどんなデザインを望んでいるのか?
清水(以下 清):カーマニアって、デザインに関して、基本的に保守的ですよね。なかなか新しいものを受け入れられない。
中村(以下 中):問題は、その保守的の“元”です。日本のカーマニアの多くは、ヨーロッパ車の価値観でしょう。その基準でデザインを判断していると思います。
清:そう! 私は完全にそうです。アメリカンデザインだっておおらかでいいとは思うけど、私にとってはやっぱり大味で異質なもので、どうしても洗練されたヨーロピアンデザインに惹(ひ)かれる。
中:僕もそうですよ(笑)。
清:ですよね(笑)!?
中:60年代はピニンファリーナ、70年代はジウジアーロ。僕にとってのデザインの文法はここから生まれてます。
清:私はそこらへんから一歩も動けてません。新しい異質なものを見れば新鮮さは感じるけど、欲しいとまでは思えない。例えば「ジューク」とか(笑)。
中:僕がいすゞの欧州スタジオでやったショーカー「4200R」や「ビークロス」は、ヨーロッパの価値観がベースになってます。しかも、ビークロスは完全にプロダクトアウトだった。
清:ヨーロピアンでプロダクトアウト。だからこそカーマニアは、ビークロスを支持したんでしょうね。
海外で通用する日本らしさ
中:逆に僕は日産に来てからは、そうでない文法を見つけようとしたんです。そのままの文法でやっていたら、いつまでたっても日本独自のデザインのクルマは生まれないと思っていたから。
清:そこですね!
中:例えば『西部警察』に出てくるクルマ。
清:鉄仮面のR30「スカイライン」とか、ガルウイング「Z」とか?
中:ああいうのも、好きな人は好きですよね。それは日本の文化や日本人の感性が生んだものだから、否定しちゃいけない。
清:今でも熱いファンはいますよね。私もR30を見ると胸がズキュンとします。あのダサカッコよさ。あれはヨーロピアンとはまた別の、昭和の原風景だから。
中:僕は、そういうドメスティックな良さを、どうやったらインターナショナルなレベルに持っていけるか、というのをやってきたつもりです。
清:昭和を洗練させた!?
中:「マーチ」のかわいいカッコ、「キューブ」のゆるさや「GT-R」のロボットみたいな形、「ジューク」のアニメ的な形。みんなそうです。
清:そうなんですね!?
中:そのまんまやると海外では受け入れられない。ポイントは、日本ではドメスティックな価値に基づいてるんだけど、海外でも通用するように骨格やプロポーションをしっかり作ってある。GT-Rはいい例です。
清:私は、GT-Rのデザインは、出た時から「こうでなきゃいけない!」と思いました。周囲はだいたいカッコ悪いって言ってたけど。
中:GT-Rは、ヨーロッパの価値観に対するチャレンジなんですよ。
清:それを強く感じました。GT-Rが流麗なヨーロピアンデザインだったら意味がない。いかついロボットだったからこそ存在感を発揮できたし、海外に熱狂的なファンも生まれた。ウサイン・ボルトとか。でも、日本ではあまり評価されてない。
日本のブランドとしてのデザイン
中:日本人は、日本的な良さに気が付かないじゃないですか。キューブだってそう。わかる人とわからない人がいる。恐らくカーマニアは認めないでしょう。
清:僕も、GT-Rはああじゃなきゃいけないと思いつつ、実際に欲しいのは、ピニンファリーナのフェラーリなんですよ~。どうしてもそこから抜けられない!
中:わかりますよ。
清:史郎さんはGT-Rに乗ってたんですよね?
中:オーナーでしたよ。でも性能的には手におえないし、ルックス的にも、自分が負けてる気がして(笑)、1年半くらいで手放しちゃいました。
清:そうなんですか!
中:デザインとしては正しいことをした、という確信はあります。ただ僕にはZのほうがいいですね。自分の形に近い。
清:それはすごい本音が聞けた気がします。史郎さんも、本当の本当は、昔のピニンファリーナやジウジアーロが一番好きということですね(笑)!?
中:僕は、デザインのヘッドは自分の趣味でデザインをしちゃいけないと思ってるわけです。日産は100年近い歴史を持つ日本の会社で、そこまでに作ってきたクルマがたくさんある。そういうものの延長線上でやらなかったら、何のための100年だったのか、ということになる。そういうのをブチッと切って、自分の好みで作ってしまったらとんでもない。もちろん自分の主張はしっかりと入るけれど、考え方のベースは、日産というブランド、日本のブランドとしてのデザインなんです。
(語り=清水草一、中村史郎/まとめ=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。