第96回:カーマニアがマツダに真に望むこと、それは倒産だった!?
2018.06.26 カーマニア人間国宝への道ロータリーは日本の宝
マイナーチェンジした「CX-3」の試乗会場にて、マツダ置き去りのロータリー待望論で盛り上がり始めた、モテないカーマニアの2名(『週刊SPA!』副編Kと、流し撮り職人・池之平昌信)。
彼らはカーマニアでありながら、自動車業界の現実がまったく見えていないのだろーか!? 私は軽い怒りすら感じつつ反論した。
清水(以下 清):いまさらロータリーを復活させるメリットなんかあるわけないよ。排ガスも燃費もまるでダメなんだから。
流し撮り職人(以下 職):いやぁ、そういうことじゃないでしょう。これは心意気の問題ですよ。
副編K(以下 K):そうですよ! 逆に、なんで清水さんはそんなにロータリーに否定的なんですか? 3年前「RX-8」に試乗したとき、「こんなに気持ちよかったのか!」って言ってたじゃないですか。
清:そりゃ気持ちよかったけど、もうビジネスとして成立しないから。ロータリーなんか復活させたら、マツダはつぶれるよ。せっかくカーマニアが大好きないいクルマをいろいろ作ってくれてるのに、その会社がつぶれるんだよ?
職:僕は、ロータリーは日本の宝だと思ってるんです。発明したのはドイツのヒトですけど、日本の宝です。
K:そうですよ! それがこのままだと消えちゃうんですよ! それでもいいんですか?
思わぬ強烈な反撃であった。
魂と根性ではどうにもならない
清:それはまぁ、消えちゃうだろうね。もともと耐久性がないから、そのうち車両本体30万円くらいのポンコツばっかりになって、ほぼ地上から消滅するだろうね。
K:それは切ないじゃないですか! 復活を待望するのがあたりまえじゃないですか!
清:いやだから、いまさら復活させるにはあまりにも多くの技術的な壁があって、それを克服するにはいくらかかるかわかんなくて、そんだけお金かけてもそんなに売れないだろうってことなんだよ。
職:そこは、マツダのズームズーム魂で、なんとかできるんじゃないですかねぇ。
清:魂とか根性じゃどうにもならないことはいっぱいある。マツダはさ、この規模のメーカーなのに、ロータリーの代わりにスカイアクティブDとか、スカイアクティブXとか、いいエンジンを開発してるわけで、それだけでアッパレじゃない!
同席したマツダのエンジニア氏たちは、相変わらず一言も発せず、このカーマニアたちの口プロレスを傍観していた。
職:でも、日本の宝ですから……。
清:じゃキミたちは、ロータリーが復活すれば、マツダが倒産してもいいの?
職:倒産してもいいとは思ってませんけど、仮にそれで倒産しても、マツダの名前は永遠に残るでしょうねぇ。
K:残りますね! 虎は死して皮を残しますね!
カーマニアよ、現実を見よ!
その瞬間、私はようやく理解した。
カーマニアは、ホントのホントの本音では、マツダに倒産してほしいのだ!!!!!
カーマニアは、「売れなかったけど志の高いクルマ」みたいなのが大好きだ。それは、負けを覚悟で討ち死にした忠義のサムライのように、最も気高い。
例えば楠木正成。負けるとわかっていながら湊川に出陣し、小勢で足利尊氏の大軍と奮戦、「七度生まれ変わっても朝敵を滅ぼす」と誓って自刃(じじん)した。涙が出る。
その正成の旗印は“菊水”。太平洋戦争末期、それにあやかって「菊水一号作戦」と名付けられたのが、戦艦大和の沖縄特攻である。負けるとわかっていながら出撃し、米軍機の猛攻を受けて撃沈された。涙が出る。
カーマニアは、マツダに対しても、負けるとわかっていてもロータリーを復活させ、楠木正成公や戦艦大和のように、見事に散華してほしいのだ。滅びの美学である。
が、本当に滅んでいいはずがない! それはダメ! その思想が日本を誤らせる! 国家や企業のかじ取りには、言うまでもなく現実的な合理性が必要! ロータリーはダメ、ゼッタイ! と私は思う。
マツダの皆さま、カーマニアが何をほざこうと無視してください! 彼らはマツダに滅んでほしいんですから! それでいて、コミコミ60万円のポンコツRX-8すら買えずに、保身を図ってるんですから! そんなんで倒産したらムダ死にです! 敬礼!
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。