フェラーリ488ピスタ(MR/7AT)
乗れば乗るほどウマくなる 2018.07.02 試乗記 「フェラーリ488GTB」をベースに、その走行性能を徹底的に高めたスペシャルモデル「488ピスタ」。マラネロのエンジニアたちは、この新型スーパースポーツでどんな走りを実現したのか。最終量産型に聖地フィオラノで試乗した。常に人気のスペシャルモデル
シリーズモデルをベースに、より高性能な上位機種(今どきシリーズモデルでも、世間一般には十分過ぎるほど高性能だ)を、そのモデルライフの終盤に投入する。それは、このところのフェラーリの常とう手段となっている。中でも、主力シリーズとなるV8ミドシップモデルの通称“スペシャルシリーズ”は、そのパフォーマンスの高さや特有の存在感(スタイリング)と相まって、歴代モデルすべてがコレクターズアイテムになるほどの注目と人気を集めるようになった。
「360モデナ」をベースに、ワンメイクレース“チャレンジ”の技術を注入したその名も「チャレンジ ストラダーレ」が、定番としてのスペシャルシリーズの始まりである。その後、「F430スクーデリア」「458スペチアーレ」と歴代V8ミドシップモデルのスペシャルシリーズはリリースされてきた。いずれのモデルにも熱心なファンがいて、中古車市場においても非常に高く評価されるようになっている。
現行型のV8ミドシップクーペは488GTBで、フェラーリ久々のターボ搭載シリーズモデルとして、その性能の高さが評価されているマシンだ。そのスペシャル版が、今回の主役である488ピスタ。2018年3月のジュネーブモーターショーでデビューした。ピスタという名前はイタリア語でサーキットを意味する。その開発コンセプトもまた歴代スペシャルシリーズの中では際立っており、レーシングとの関係性が濃密なものとなっている。
ちなみに、スペシャルシリーズのベルリネッタ(クーペ)は、従来と同様に生産台数を限定したモデルではない。現行488シリーズの生産が続く限りという、言ってみれば期間限定である。もっとも、そもそもの生産枠は限られている。おのずと台数は絞られてしまうだろう。また、F430以降ではスパイダーのスペシャルモデルも造られてきた。こちらはごく少量の限定モデルで、中古車市場では大幅なプレミアムがついている。
皆にレーシング体験を!
488ピスタの開発コンセプトをワンフレーズで言うと、こうなる。「非プロフェショナルドライバーにレーシングエクスペリエンスを」 熟練のドライバーでなくとも、レーシングカーの性能領域でドライビングを楽しむことができるよう、さまざまな工夫が施されているというわけだ。
とはいえ、488ピスタは、いわゆるトラック専用モデルではない。日常利用に供されることも少なくないはず。そこは跳ね馬のロードカーとして十分成立するよう、開発陣は相反する性能と機能を高いレベルで両立するよう求められたのだった。
中でも注目すべきポイントは、大きく分けて4つある。「パワートレイン」「エアロダイナミクス」「軽量化」、そして「ビークルダイナミクスの制御」だ。
パワートレインの進化は、その数値を見れば明らかだろう。ベースモデル比でのパワーアップは、史上最高となる+50psを達成している。そこでは、IHIによる新たなターボ用技術(具体的には、タービン回転数を計測し左右の回転数を整えるセンシング技術)が大きく貢献した。
エンジン単体の変更点も多岐に及んでおり、488GTB用に比べて、実に5割ものパーツが新設計されている。もちろん、7段DCTトランスミッションも、エンジンパワーアップにあわせて進化した。
軽量化も徹底している。エンジン単体でも実に18kg軽くなっている。そのほか、これは空力にも関連するが、「488チャレンジ」や「488GTE」といったレースカーに由来するエクステリアデザインを積極的に採り入れ、それらを炭素繊維強化樹脂(CFRP)製とすることで、跳ね馬の量産モデル史上最高のパワーウェイトレシオ、1.78kg/psを実現した。具体的には、前後バンパースポイラーやフロントフード、リアスポイラー、そして20インチのオプションホイールなどが、CFRP製だ。
究極の走りは制御が決め手
さらに今回、フェラーリが最も力を入れたのが、エアロダイナミクスである。F1に由来するフロントSダクト、488チャレンジと同じ考え方のアンダーボディー、「FXX-K」に由来するリアアウトレットデザインに、488GTE由来のリアディフューザーなど、変更箇所は多岐にわたっている。488GTBに比べて+20%ものダウンフォースを得ており、また、冷却性能も大幅に向上している。
まるでレーシングカーのような高性能&高機能の数々を詰め込んだ488ピスタ。だからといって、ドライブに特別な運転テクニックが要るようでは、たとえ誰もがうらやむ跳ね馬の高価な上級モデルであったとしても、現代では商品として成り立たない。むしろ、その性能を誰もが楽しめるようにすることが、世界ナンバーワン・スポーツカーブランドの役目であろう。つまりは、“レーシングエクスペリエンスの民主化”だ(とはいえ、体験できる人は世界でもひと握りの幸せ者ではあるけれど)。
最大の功労者が、さらに発展した制御システムである。ここでもまた、両立の難しい2つのテーマが開発陣に託された。ラップタイムに代表される“極限性能”の向上と、その“ファン・トゥ・ドライブ”との両立である。要するに、レーシングカー級に速いけれども、誰もが乗って楽しいと思えるロードカーを造れ、というわけだ。
特にソフトウエアの進化がファン・トゥ・ドライブを支援している。フェラーリ独自の横方向制御システムSSC(サイド・スリップ・コントロール)は第6世代となり、FDE(フェラーリ・ダイナミック・エンハンサー)と呼ばれる新たなヨーモーメント由来のステアリング制御を採り入れた。そのほか、縦方向ではギアシフトやブレーキ制御にも全く新しいロジックを採用しており、そこにエキゾーストなどの際立ったエモーショナル性能を付加することで、誰もが乗って楽しいと思える究極のロードカーが完成したというわけだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
乗り心地のよさに驚く
国際試乗会は、ご存じフィオラノサーキット(フェラーリのテストトラック)で行われたが、サーキットインプレッションを語る前に、このクルマが決してトラック専用モデルでないことを、まずは明らかにしておきたい。
マラネロ周辺には、快適な(=とばせる!)オープンロードがたくさんある。けれども、それらの路面はたいてい荒れている。でこぼこしているし、舗装のはがれや砂利化も激しい。イタリアの財政が健全でないことをよく物語っている。
そんな中でも、488ピスタのドライブは拍子抜けするほどに平穏だ。ステアリングホイールに備わったスイッチでドライブモードを「スポーツ」にし、変速も「オート」にしておけば、至って安楽なドライブを楽しむことができる。2000rpmを過ぎたところでちゃっちゃとシフトアップを繰り返し、それゆえサウンドボリュームも控えめで、“特別な488”を駆っていることを忘れてしまうほど。
何より驚くのは、アシもボディーも、ドライバーと混然一体となった筋肉のように引き締まっているから、バタツキや振動がなく、硬質ではあるけれども決して乗り心地が悪くないことだ。助手席に乗っていても、イヤな感じはまるでなかった。ただし、前後左右の動きがとても“素直”なクルマなので、ヘタなドライバーの横では低速域でも酔ってしまうかもしれない。
ともあれ、488ピスタの真骨頂はサーキットでの走りである。クルマもドライバーもモードを「レース」にセットして、フィオラノトラックに飛び出した。
クルマがミスを教えてくれる
ストレートで加速を試みる。5000rpmからのパワー感が、ベースの488GTBとは全く違っている。488GTBの調子でシフトアップすると、まったく間に合わない。何度かレブリミットに達してしまった。
サウンドもかなりワイルドだ。そして、路面がぐっと近くに感じられる。左右に振ってみれば、何か違う力で引っ張られているかのように、ノーズが向きを変える。少しだけロールを許すので、レーシングカーのような緊張感はない。乗りやすいという印象がとにかく先に立つ。けれども、レースモードでのシフトダウンはとにかく強烈で、ガツンガツンと腹に響く。ブレーキの利き、フィールともに驚くほど素晴らしい。
徐々に、どころか、見る見るペースも上がっていった。とても速いのに、車体がしっかりと押さえつけられているという安心感と安定感を常に得られるので、「コントロールできている」という妙な自信が湧いてくる。危険な兆候だ。
案の定、S字でリアがブレークする感じ、がした。ふつうならそこから一気に滑り出して、その先で制御が強制的に入って救われる、といった場面だ。ところが488ピスタでは、滑り出しが穏やかに感じられるため、素人でも腰でそれを感知して、体が反応するだけの十分な時間的余裕が持てる。失敗しているぞ、という瞬間を、クルマがそれとなく教えてくれるのだ。パワーステアリングもスロットルも、それに合わせて見事に調整されるから、失敗したことを自覚しながらも、そこから気持ちよく回避できてしまう。
そう、失敗もまた楽しい。だから、同じことを繰り返しトライするうちに、だんだんと自力でクリアする道筋を体が学んでいく。クルマそのものが、ドライビングコーチをしてくれているという感覚は、とても新しい。
史上最速の跳ね馬V8ロードカーにして、誰もがサーキットでその性能を十分楽しむことができる。488ピスタがもしわが家にやってきたら? タイヤ代に悩むことになりそうだ。
(文=西川 淳/写真=フェラーリ/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
フェラーリ488ピスタ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4605×1975×1206mm
ホイールベース:2650mm
車重:1280kg(乾燥重量)/1385kg(空車重量)
駆動方式:MR
エンジン:3.9リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:720ps(530kW)/8000rpm
最大トルク:770Nm(78.5kgm)/3000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20/(後)305/40ZR20(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:11.5リッター/100km(約8.7km/リッター、HELEシステム搭載によるECE+EUDC複合サイクル)
価格:--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードおよびトラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
アウディA6アバントTFSIクワトロ200kW(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.5 今も昔もアウディの中核を担うアッパーモデル「A6」。その最新世代の「アバント」に試乗した。堂々とした優雅なボディーに最新のハイブリッドシステムを搭載したステーションワゴンは、いかなる走りを見せてくれるのか。その実力をリポートする。
-
ホンダN-BOXカスタム ターボ コーディネートスタイル2トーン(FF/CVT)【試乗記】 2026.10.3 フロントグリルとメッキパーツの面積が大きくなって迫力が増した最新の「ホンダN-BOXカスタム ターボ」に試乗。マイナーチェンジで進化した内外装の仕上がりと、軽四輪車の販売で11年連続の首位を誇る“絶対王者”の走りを報告する。
-
日産エルグランドG e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.9.30 日産のプレミアムミニバン「エルグランド」がフルモデルチェンジ。その動力を担う第3世代の「e-POWER」は優れたドライバビリティーとともに、懸案だった高速燃費の改善もうたう。ロングドライブで進化のほどを確かめた。
-
NEW
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.10.8試乗記フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。 -
NEW
「アプライドD」で何が変わった? スバルの「インプレッサ」と「クロストレック」の進化を探る
2026.10.8デイリーコラムスバルが「インプレッサ」と「クロストレック」の改良モデル「アプライドD」を発表した。モデルライフの折り返し地点となる今回の改良では、ラインナップの刷新がトピック。その内容とスバルの狙いを、スバリスト玉川ニコ氏が解説する。 -
“クルマづくりのプロ”の話をライブで配信! 「あの多田哲哉のクルマQ&A」公開収録のお知らせ
2026.10.7From Our Staff元トヨタの多田哲哉さんが、自動車に関するさまざまな疑問・質問に答える「あの多田哲哉のクルマQ&A」。その話がライブで聞けて質問もできる公開収録を、10月15日(木)の夜、19時半から実施します。 -
咆哮なき電気自動車「ジャガーTYPE 01(タイプ01)」に“ジャガーの魂”は宿るのか?
2026.10.7デイリーコラムいよいよ正式デビューを飾った、新生ジャガーのラグジュアリー4ドアGT「TYPE 01(タイプ01)」。いったいどんなクルマなのか、従来のファンも納得できる“ジャガーらしさ”はあるのか? 先行チェックした西川 淳がリポートする。 -
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】
2026.10.7試乗記新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。 -
第131回:新型三菱パジェロ(後編) ―レトロブームには頼らない? 最新のデザイントレンドを追求した三菱の思惑―
2026.10.7カーデザイン曼荼羅正式発表を間近に控え、ますますファンの間で話題が盛り上がっている新型「三菱パジェロ」。歴史的な旗艦の復活だというのに、三菱があえてレトロブームに乗らなかった理由とは? カーデザインの識者とともに、新型パジェロに見る最新のデザイントレンドを探る。



























