スズキ・ジムニー/ジムニーシエラ 開発者インタビュー
このクルマを必要とする人がいる 2018.07.05 試乗記 スズキ四輪商品第二部 チーフエンジニア 課長
米澤宏之(よねざわ ひろゆき)さん
実に20年ぶりのフルモデルチェンジによって登場した、4代目となる新型「ジムニー」と新型「ジムニーシエラ」。ラダーフレーム、副変速機、パートタイム4WDという“伝統”をつらぬいた新型に込めた思いを、チーフエンジニアが語った。
いろいろな人が“思い入れ”を持つクルマ
――いささか不躾(ぶしつけ)な質問で恐縮なのですが、最初に「ジムニーの新型をやるように」と指示されたとき、どう思いましたか?
それはもう、「大変だな」と思いました(笑)。自分は(SUV系のモデルが属する)第2カーラインのチーフエンジニアですから、「いずれは来るかも」とは思っていたのですが、いざとなると「いよいよ来たな」と。
なにせ、いろいろな人の思い入れが(他の車種とは)違いますからね。設計も、担当したいという人がたくさんいたので、取りあえず「(やりたい人は)手を挙げて」っていう。……もちろん、全員にお願いできるわけじゃないのですけど。
――やっぱり、ジムにーにはこだわる人がいっぱいいるんですね。
社内社外問わず、いっぱいいます。皆コダワリが強い。ものすごくコダワリが強いです。久々の“次のモデル”ということもあって、「こうしたい」という意見はいろいろありました。設計も(意見を)持っていますし、乗っている人たちも当然持っています。営業も含め、現場の皆のそういう思いがあって、(窓外の新型ジムニーを手で示しながら)新型はこういうクルマになりました。
――その新型についてですが、今回は原点回帰というか、ずいぶん“クロカン”のイメージを強めてきましたね。特に駆動方式の切り替えは、従来のボタン式からレバー式に戻されていて驚いたのですが。
新型ジムニーでは、まず「プロの道具」というコンセプトがあって、デザインでも機能面でも一本筋を通したいと考えていました。その中で、トランスファーもやはり操作時に「入った」実感があるものにした方がいいと思い、電気式をやめて、こちらの方式にしました。
――これでサスペンションもリーフスプリングに戻っていたらビックリしちゃったんですけど。
(笑)さすがにそこまではしませんでしたが。デザインなんかも“無駄なことはしない”というテーマを徹底した結果、直線のシンプルな面に、シンプルなRを組み合わせるような形になりました。
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“プロ仕様”に特化できた理由
――それにしても思い切りましたよね。クロカンと呼ばれるクルマが減って、まわりのSUVがどんどん丸くなる中で、あえて従来モデルより道具感、オフロード感を出してくるというのは。
それについては、そういうジャンルをスズキはすでに持っていますから。「クロスビー」や「ハスラー」「イグニス」「エスクード」と。
――そちらに寄せる必要はないというわけですね。
ええ。「これ(ジムニー)にはこれの良さがある」という立場に立った上で、今あるものを継承し、機能を追加するようにしました。
プラットフォームとしては、やっぱりラダーフレームとトランスファーと、パートタイム4WD、それはもう残そうと。当然いろいろ議論はしましたが、それらはこのクルマの財産だと思うんですよ。だから全部残した上で、さらに進化させる方向にもっていきました。
私も、ジムニーは基本街乗りで使われるクルマだと思っています。ただ、趣味なり仕事なりで、実際「もうこのクルマじゃなきゃいけない」っていう人たちが確かにいます。お仕事で使われている方のところを見に行くと「ああ、やっぱり(こういうクルマが)必要だよね」という場所に分け入っていくんですよね、実際に。それを見ると、どうしても“これ”は捨てられないなと。
一方で、今回は久しぶりのモデルチェンジで外観も変わりましたし、ナビも入るようちゃんとインストゥルメントパネルを設計しています。クロカンに憧れを持つ一般ユーザーの方にも、「新しいクルマ」として選んでいただければと考えています。
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シンプルなのにも訳がある
――話は飛びますが、2013年の東京モーターショーで、ジムニーのドライブトレインをベースに、AGS(オートギアシフト、スズキ独自のシングルクラッチ式AT)とモーターを組み合わせた、ハイブリッド四駆のコンセプトカーが出展されていましたよね?
ええ。4WDではありませんが、あのシステムの考え方はそのまま「ソリオ」と「スイフト」のハイブリッドに生かされています。
――今回のジムニーは、普通のエンジンに、2ペダルはトルコンATの組み合わせですけど……。
(笑)今のところは、ジムニーは普通のエンジンでいいかなあと。
――トルコンATを残したのは、クロカン性能を意識してのことですか?
そうですね。やはりクラッチ式のAGSだと難しい。機能のことを考えると、そこは譲れませんでした。
――“エネチャージ”とか、マイルドハイブリッドも付いていないですよね。やっぱり、電気モノは水につかると危険ですか?
そういう訳でもないんですけど、……まあ、いろんな使われ方をしますからね(笑)。これについても、パフォーマンスとのバランスを見て「今回は要らないだろう」と判断しました。
――そうですか。あと、シエラのK15Bエンジンについては新型ですよね。これは今回が初出ですか?
いえ。まだ出たばかりですけれど、インドネシアの「エルティガ」というクルマに先に積まれています。もっとも、エルティガはエンジン横置きのFFなので、縦置きとしてはこれが初です。
――ターボエンジンの採用などは考えなかったのですか?
小型車用のパワートレインは、われわれもいろいろなバリエーションを持っていますが、シエラについては「全世界ひとつのエンジンで勝負したい」と考えました。そうすると自然吸気(NA)で1.5リッターの方が扱いやすいし、全体での燃費や走行性能のバランスも取れるんです。
もちろん、パワートレイン(の設定)には時代の変化が大きく影響します。10年先はどういう景色になっているか。環境がまた変わっているでしょうから、これから長く作っていく中で、小改良などで対応する必要は出てくるでしょう。
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大切なのは安心して使ってもらうこと
――ところで、車両重量についてなんですけど……?
重くなっています。そこは、否定しません(笑)。シエラの方はさほど上がっていないんですけど、軽自動車の方はやっぱり。
――いろいろ付きましたからね。さっきステアリングホイールを見て、「おお、クルーズコントロールが付いてる」とビックリしました。ヒルディセントコントロールとか、ブレーキLSDなんかも装備されていますが、そうしたオフロード機能については、コアなユーザーから「自分の足でやるから要りません」などと言われたりしなかったのですか?
いいえ。こういう機能は、要らないと思えば使わなければいいだけですから(笑)。ただ、やっぱり市場を見ると「自宅の前だけやたらと勾配がきつい」というシチュエーションにも出くわすんですよ。そういう場所は凍結すると本当に困るのですが、ヒルディセントがあるだけで、もう普通に下がっていけます。だから、オフロード用の特別な装備というわけではなく、本当に生活で必要になる、安心安全機能という扱いですね。あるとやっぱり安心してクルマを使っていただける。ジムニーは、仕事や趣味はもちろん、普通に“生活の足”として乗られるクルマでもあるので。
ジムニーにとって最も重要なもの
――1970年にデビューして以来、フルモデルチェンジは今回を含めても3回だけです。とはいえ、これまでに数えきれないほどの小改良がありましたし、さまざまなボディータイプも作られてきました。米澤さんは、どの型が一番好きですか?
ずっと見てきた中だと、前の前の、JA(2代目の中~後期モデル)ですね。
――そういえば、見た瞬間「似てるな」と思いました。ヘッドランプを囲む一体型のフロントグリルとか、リアバンパーに付いた四角いテールランプとか。
2代目ジムニーのものも含め、(スズキの歴代SUVの)アイコンはちりばめていますね。そういうディテールを見ていると、「これは長く生かしていきたいな」という気持ちになります。やっぱり通常の、モデルサイクルが短いFFベースのSUVとは違うものを、ジムニーは持っていますね。
――長く作り続けるクルマ、長く使われるクルマとして特に気をつけたことはありますか?
「基本性能はキッチリ作る」というところですね。今回は衝突安全や歩行者保護といった、法規に対応するためのモデルチェンジではあったのですが、どうせ変えるなら、基本骨格のフレームと足まわりはしっかり作りたいと思っていました。ここでいいモノを作れば、そのままずっといけると。
もちろん、将来改良が必要になるときが来るとは思いますが、今すぐ何かをする必要はない。今はこれで十分勝負できると考えています。
――先代(3代目)は20年でしたね。次にこのクルマがモデルチェンジするとき、自分はいくつだろうと思うと気が遠くなります。それどころか、インドではまだ2代目が売られているっていう……。
まだありますか、「ジプシー」(笑)。
――少なくともオフィシャルサイト上には。新型ジムニーも、20年どころか、30年40年しても世界のどこかで作られ続けるかもしれませんね。
そうですね。実は私たちの製品の中でも、商用車にはそういうクルマがあります。商用車は息がものすごく長い。適切なサイズや手ごろな値段、荷物を積める、そしてもちろん壊れない。目的がハッキリしていて、そこに特化できれば、目新しいクルマでなくても十分にやっていけるんです。ある意味、ジムニーにもそういう部分があるので、デザインも大事ですが、やっぱりこのクルマは“機能”が重要なのだと考えています。
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半世紀前の原点に通じるものがある
――ところで、今回久しぶりにフルモデルチェンジするというので、ちょっと昔のことを調べてみました。前回のモデルチェンジは、なんというかずいぶんこざっぱりした扱いだったんですね。個別の発表会もなかったようですし、プレスリリースも「ワゴンR」とかと一緒くたで。
あの時は新規格の軽が同時に立ち上がりましたから(※)、その影響もあったのではないかなあと。
※1998年10月に軽自動車の規格が改定され、全長・全幅が現在の寸法となった。これにともない、スズキは「アルト」「アルトワークス」「ワゴンR」「ワゴンR RR」「ジムニー」「Kei」を同時にモデルチェンジ。翌年1月には「キャリイ」「エブリイ」もモデルチェンジしている。
――ただ、今回は周囲の空気感が全然違います。国内での注目度の高さもそうですが、海外のメディアもこぞってスクープを取り上げています。なんというか、この20年でジムニーのポジションが変わったような実感はありますか?
いや、むしろジムニーだけが変わってない気がします。先代のときは他社さんから競合モデルが出ていたこともあり、ちょっと乗用車っぽくする方針で作りましたが、そのジャンルも衰退すると、今度はみんなFFベースのSUVに切り替わってしまいました。それでもジムニーには「やっぱりこれがいい」というコアな方が残ってくれて、最後まで販売台数をキープすることができました。
――20年たっても月販1000台キープって、恐ろしいクルマですよね。
そうですね(笑)。特に何か宣伝しているわけでもないし、新しいものが追加されているわけでもないんですけれど。やはりこのクルマを必要とされる方がいるということでしょう。そうしたユーザーを裏切ってはいけないし、そこはやっぱり、半世紀前のジムニーの原点にも通じるものがあると考えています。
(文=webCG堀田/写真=荒川正幸、スズキ/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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