ロータス・エヴォーラS(MR/6MT)【試乗記】
ロータス純度高まる 2011.07.19 試乗記 ロータス・エヴォーラS(MR/6MT)……1165万5000円
「ロータス・エヴォーラ」シリーズに加わった、ハイパフォーマンスモデル「エヴォーラS」。ワインディングで、その走りを試した。
350psのスーパーエヴォーラ
外から見るかぎり、ノーマル「エヴォーラ」と「エヴォーラS」を見分けるのは簡単ではない。フロントはほとんど同じ。あえていうなら、ドアミラーがボディ同色ではなく、黒くなっているくらいの差でしかない。しかしリアに回れば、違いがはっきりする。ボディの下部には迫力のあるディフューザーがのぞいており、テールパイプが2本ではなく、大径の1本出しになっているからだ。なるほど、追い抜かれて初めて「S」だったのか、とわかるわけだ。
「エヴォーラS」最大の見どころは、キャビン直後に横置きされたエンジンである。3.5リッターのトヨタ製V6ユニットには、スーパーチャージャーが装着されて、実に350psと40.8kgmにまでチューンされているのだ。エンジンフードを開けて、「LOTUS PERFORMANCE」と記されたエンジンカバーを外してみると、エンジンの直上にドンッと大きなスーパーチャージャーが現れた。
じっくり見回すと、「HARROP」という聞き慣れないブランド名が刻印されていた。調べたところ、これはオーストラリアのパーツメーカーのようだ。さらに調べてみたら、コンポーネント自体はスーパーチャージャーのメーカーとしては有名な米イートン社のものであることがわかった。思えば、イートン製を使うイギリス系メーカーは多い。先代のミニや、ジャガーなんかもそうだった。ということは、「ミャー」と盛大に鳴くのか(最近はそういうにぎやかなのは減ったけど)、なんて考えてみる。
とまあ、そんな感じでじっくりいろいろ見回してから、おもむろにドアを開け、運転席に着いた。その瞬間、「あっ、これはロータスだ」とピピッときた。
いいオトナをその気にさせる
ドライビングシューズを履いてきてホント良かった。太いサイドシルのせいでABCペダルが全体的に左に寄せられて配置されているうえに、3つのペダルが互いに近い配置になっているので、幅広のナイキなんか履いてきたら試乗などまともにできないところだった。
そして、思いのほかペダルまでの距離が遠く、ダッシュボード下に潜り込むようなポジションになるのが、いかにもロータスというか英国のスポーツカーだ。ちょっと前に試乗した「ロータス・ヨーロッパ スペシャル」(1970年代のオリジナルのほう)もそうだったが、ペダルまでの距離が思いのほか深い。もっとも、エヴォーラはオリジナルのヨーロッパほど寝そべった姿勢にはならないけれども。
以上はロータスに対する不満ではない。褒め言葉である。だって良くも悪くもこの時代、ドライビングシューズを履いて乗ろうなんて気にさせるスポーツカーは、ロータスぐらいしかないのだから。ポルシェもフェラーリも、もう別のところに行ってしまった。そういう意味で、ロータスは貴重な存在である。
エンジンは荒々しいものを想像していたが、実際はだいぶ違った。もちろん映画『プリティ・ウーマン』のワンシーンみたいに(あれは「エスプリ」だったが)スロットルペダルを乱暴に踏み込んだら、とんでもない加速をする。日本ではほんの一端しか試すことはできないが、資料によれば、最後まで見届けるとメーターの針は277km/hに達するそうである。一方で、0-100km/h加速は4.8秒。これは「ポルシェ911カレラ」や「アウディR8 4.2」あたりに近い加速性能だ。
そうではなく、このエンジンの日常的な表情の話をするなら、とても静かで、スムーズで、ジェントルである。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
軽さは万物に効く
トルクのピークは4500rpmとなっているが、1000rpm台の後半でかなりの割合のトルクがわき出ているように思う。たとえば4速で40km/hだと1500rpmにちょっと欠ける回転数でしかないが、3速に落とす必要なんてまったくない。スロットルを丁寧に踏み込むと、スーパーチャージャー特有の分厚い加速が始まる。もちろんイートンは「ミャー」なんて鳴かない。「ファーン」と乾いたハスキーサウンドがキャビンの後方からうっすらと響いてくるにすぎない。
このいつなんどきでもトルクの山に居座っていられるようなこのエンジンは、ワインディングロードでもとても有効な武器になる。操舵(そうだ)とともにノーズがピッと内側を向いたら(このシャープなハンドリングは本当に痛快だ)、強力な横Gに耐えながら旋回して、コーナーからの脱出で、一気にトルクを路面にたたきつけることができる。回して乗る自然吸気ユニットのように、トルクバンドから外れないよう気を配る必要はない。
そして加速の逆、ブレーキングも見事である。アウディR8にしろポルシェ911にしろ、このクラスのスポーツカーはだいたい車重が1.6トンクラスだが、エヴォーラSはそれより大幅に軽い1440kgしかない。とにかくスッと見事に止まる。そして絶対的な制動性能もさることながら、ドライバーがブレーキペダルを抜いたり、逆に踏み増したりするニュアンスをとても忠実に反映してくれる。ああ、ブレーキングにもクオリティというものがあるのだなあと痛感させられる瞬間だ。軽いボディと締まった足まわりのおかげで、山道におけるヨーダンピングも素晴らしい。
パワーアップしたスポーツカーの中には、残念ながら「直線番長」になってしまうものもある。けれど、エヴォーラにとってさらなる力は悪玉コレステロールにはなっていない。もっとロータスになるための350psであった。
(文=竹下元太郎/写真=荒川正幸)

竹下 元太郎
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。