ロータス・エヴォーラIPS 2+2(MR/6AT)【試乗記】
ハンドバッグじゃない 2011.06.15 試乗記 ロータス・エヴォーラIPS 2+2(6AT/MR)……1055万3000円
スポーツカー専業ブランドであるロータスのラインナップに、久々のオートマモデルが加わった。その名は「エヴォーラIPS」。本格スポーツカーとATとの相性やいかに!?
打倒!! ポルシェ
「ロータス・エヴォーラ」をギクシャク運転したくない日本のリチャード・ギアに朗報である。ロータスのV6モデルにオートマモデルが加わった。「エヴォーラIPS」と呼ばれるモデルがそれ。日本での価格は、2シーター、2+2モデルとも、MT版よりそれぞれ45万円高の895万5000円と937万5000円。「ポルシェ911」より100万円ほど廉価、と考えればいいか。もちろん、オプション装備によって、車両価格はいかようにも高騰するけれど。
プレス試乗会への道すがら、「女性にも乗ってほしいみたいですよ」と、『webCG』の美人編集記者が教えてくれる。「女の人は、他人と違うものを持ちたがるものだから」ということらしい。「人と違うにもほどがあるだろう……」とやや疑問に思いつつ、しかし久しぶりにロータスのスポーツカーに乗れると、心弾みながら箱根の道を行く。
ロータス・エヴォーラは、アルミモノコックから4輪ダブルウィッシュボーンの足を生やし、トヨタ由来の3.5リッターV6をミドに搭載、エッジの利いたFRPボディをかぶせたスポーツカーである。「エリーゼ」で「ボクスター」、「エヴォーラ」で「911」の市場を蚕食(さんしょく)しようというのが、ロータスの算段だ。
エヴォーラの全長は4370mm。911の4435mmよりわずかに短いが、ホイールベースは2570mmと、2350mmのポルシェよりずいぶん長い。エンジンを前後車軸の間に置くミドシップだから当たり前だが、さらにV6を横置きして+2のリアシートを設けたのが、エヴォーラの大きな特徴となる(後席を潰して荷物置きにした2シーター仕様もある)。
たとえ首を傾け、背中を曲げて座らなくてはいけなくても、エマージェンシーシートがあることは、スポーツカーを購入する理由付け(言い訳!?)として、重要だ。エヴォーラを手に入れたら、ぜひ一度、友人を後席に“置いて”、家から駅まで送ってあげてほしい。きっと後日、「あのときはひどい目にあったなぁ」と笑い話になることだろう。話題を提供してこそのスポーツカーであり、それが豊かなカーライフというものである。たぶん。
心身ともにラクチン
試乗会場の駐車場には、色とりどりのエヴォーラが5、6台、並んでいた。普段、なかなか見る機会のないクルマなので、さまざまなボディカラーを比較できるのがうれしい。個人的には、「ファントム・ブラック」と名づけられたガンメタ調のペイントがカッコいいかなぁ。エヴォーラには、「ソリッド」(+0円)「メタリック」(+13万5000円)「ライフスタイル」(+22万円)「プレミアム」(45万円)と、塗装オプションがそろえられ、ファントム・ブラックは3番目のライフスタイルペイントに含まれる。
エヴォーラのMTとATで、外観上の違いはない。「VVA(Versatile Vehicle Architecture)」ことアルミモノコックの幅広いサイドシルをまたいで、ドライバーズシートに座る。エリーゼより狭くなったとはいえ、絶対的には幅があるので、ある程度左右の足を広げないと乗り込めない。女性ドライバーには、ぜひスカートを履いていただきたい。
MTモデルではシフトレバーが伸びていた場所には、「R」「N」「D」、そして「P」「SPORT」のボタンが並ぶ。エヴォーラのATには、IPS(インテリジェント・プレシジョン・シフト)との名称が与えられたが、ようはトルクコンバーター式6段ATのこと。オートモードはもちろん、ハンドルの裏にあるパドルを使って、手動でギアを変えることもできる。「SPORT」ボタンを押すと、エンジンの特性とシフトタイミングが変更される。
シートとミラーを合わせて走り始めれば、なるほど、IPSは、心身ともラクチンなエヴォーラだ。乗り心地も悪くない。グレードまで含めて指名買いする人が多いエリーゼのユーザーと異なり、エヴォーラの潜在顧客には「BMW M5」や「マセラティ・クワトロポルテ」(!?)と比較検討する人もいるというから、ATモデルは、売買双方に待ち望まれたクルマといえよう。ただ、本当に女性ユーザーも視野に入れるなら、小柄な体格の人も考慮して、シートのスライドを、もう1ノッチ、前に出るようにしたほうがいいと思う。
拡大
|
拡大
|
拡大
|
楽しさそのままに
エヴォーラIPS、エンジン、足まわりにおいても、MTモデルとの違いはない。ただ、車重は大人約ひとり分、60kg増の1450kgとなっている。可変バルブタイミング&リフト機構を備える3.5リッターV6のアウトプットは、最高出力280ps/6400rpm、最大トルク35.7kgm/4600rpmと、目をむくようなハイスペックではないが、オートマとの相性は抜群。「D」で流しながら、ときにカーブの前でパドルを引けばギアが落ち、しかしすぐにオートマモードに復帰するので、気楽にドライブできる。
一方、締まった足まわりがもたらす乗り心地が、いかにもスポーツカーを運転している気分にさせる。峠道で「SPORT」ボタンを押し、すこしペースを上げてみると、4輪ダブルウイッシュボーンはむやみに突っ張らず、穏やかにボディをロールさせて「曲がる」楽しさを実感させてくれる。
パドル操作に対するトルコンATの反応は十分に速いものだが、ファイティングポーズを取ってからパンチを繰り出すまで一瞬の間があくことがある。つまりシフトダウンして加速する前に、わずかなラグが生じることがあって、クラッチを自動で合わせる2ペダル式のトランスミッションと比べると、「切れが悪い」と評価するドライビングオタクがいるかもしれない。
エヴォーラATを日常使いするにあたって注意が必要なのは、実用ギリギリの後方視界に加え、左斜め後方の視界が悪いことだろう。駐車場から左に出るときはあまり問題にならないが、道を横切って右方向へ行くときは気を遣いそうだ。
エヴォーラIPSは、コンベンショナルなトルコンATを備えたスタイリッシュなクルマだ。運転そのものに難しさはない。しかしそこは、モータースポーツにおいて(文字通り)血と汗で鍛えられたロータスの末裔(まつえい)である。人と違うハンドバッグを買うようなつもりでは購入しないほうがいい……というのは、むしろ贔屓(ひいき)の引き倒しか。
(文=青木禎之/写真=菊池貴之)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。











