第520回:商用車もブランドで選ばれる時代に
“VWグループ”としての次世代デザイン戦略
2018.08.18
エディターから一言
ポルシェのチーフが全13ブランドのデザインを統括
2016年のジュネーブショーで、フォルクスワーゲン(VW)グループはドイツ、中国、米国の3カ所に「VWグループフューチャーセンター」を開設すると発表した。ここには、未来のクルマを開発するため、ブランドの垣根を越えてデザイナーおよびデジタル化のエキスパートたちが集結し、“VWグループ”としてチームを編成する。
現在、VWグループは「フォルクスワーゲン」を筆頭に、「アウディ」「セアト」「シュコダ」「ポルシェ」「ランボルギーニ」「ベントレー」「ブガッティ」、二輪の「ドゥカティ」、商用車の「VWコマーシャル ビークル」「スカニア」「MAN」、さらに新しく加わったソーシャルモビリティーの「MOIA」の全13ブランドからなる。
そして2018年6月、VWグループによって「Shaping the future(シェイピング・ザ・フューチャー)」と名付けられたイベントが実施され、ドイツ・ポツダムにあるフューチャーセンターが公開された。グループのデザインを統括するのは、ポルシェのチーフデザイナーも兼務するミハエル・マウアー氏。フューチャーセンター、そしてこれからのデザインの役割について話を聞いた。
――13ものブランドを持つVWグループのデザインを統括する、というのはあまりにも壮大な役割に思えますが、具体的にどのような仕事なのでしょうか?
ミハエル・マウアー氏(以下マウアー):確かに大きな役割ですね(笑)。個別のブランドがどうすべきかを見るのではなく、デザインの方向性がおのおののブランドのポジションに合致しているのか、コンツェルン(VWグループ)としてコンサルティングを行うような役目になります。もう1つが、ブランド間におけるコンポーネントや技術の共通化を増やしつつも、いかにブランドごとの独自性を保っていくか、それを戦略的に見ていくということです。
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まずはレベル5の自動運転車を可視化した
――VWグループとして初めて手がけたクルマが「SEDRIC(セドリック)」ということになるのでしょうか?
マウアー:そうです。われわれは世界に3つのフューチャーセンターを設立しました。ここでは、ワークショップのようなかたちで、従来とは違うチーム、違う人材で、違うリソースを使って、新しい革新的なものをつくりあげていく。セドリックはその第1弾で、デザインやR&Dだけでなく、セールス&マーケティングやユーザーエクスペリエンスを担当する部門の人間も集まって学際的な協業として生まれたものです。
――完全自動運転の電気自動車(EV)というものが、VWグループとしての1つの未来だとして、セドリックが各ブランドにどのような影響を与えるのでしょうか?
マウアー:新しい電気自動車のプラットフォームをもとにした、レベル5の完全自動運転車を可視化する。まずそれが大きな目的でした。グループ全体がどういう方向に進むのかそのビジョンを提示するためです。ですからどこか1つのブランドにひも付いたものではなく、各ブランドにインスピレーションを与える役割を担います。これをもとに各ブランドは、インハウスで開発していくことになります。
――しかし、なぜフューチャーセンターのような組織が必要なのでしょうか?
マウアー:ブランドごとに開発をしていると、ブランドの枠にとらわれてしまい、それを脱することが難しいのです。われわれの思いとしてはより広範囲でオープンな開発ができるようにしたい。遠い将来を見通すことができるビジョナリーなものであって、インスピレーションを与えることが大切なのです。
各ブランドは、もちろん開発力を持っていますし、それぞれに強みがある。それをもって“明日”のクルマを開発することはできると思いますが、ブランドの垣根を越えた組織があることによって、“あさって”以降の未来のクルマにつながると信じています。
――セドリックは顕著な例だと思いますが、電動化や自動運転がデザインに与える影響はどのようなものだとお考えですか?
マウアー:電動化によって必要なコンポーネントが少なくなるので、デザイナーはもっと自由になると思います。セドリックのようなレベル5の自動運転車はステアリングを必要とせずインテリアは居住空間のような、まったく違うコンセプトになる。現在のデザインはエクステリアがあって、インテリアを決めていくが、まったく逆のアプローチが可能になるなど、可能性が広がるでしょう。
――マウアーさん自身、グループ全体を見るようになって、何か見えるものが違ってきましたか?
マウアー:13ものブランドを持っている企業グループはとてもユニークで、それまで見ていたものとスケール感がまったく違います。これまで以上にブランドポジションというものに興味を持っていて、学びも多い。例えばシュコダが欧州で、ベントレーが中国で、VWが北米で、どのように受けとめられているのか。さまざまなナレッジがあり、短期間で多くの情報量を得ることができました。
ブランドとは顧客との約束ごとである
――デザインする上で、マウアーさんが考える重要なこととはなんでしょうか?
マウアー:クルマをデザインすることだけではなく、スマートな会社というものは、すべてのものに対してデザイナーが深く関わっています。ブランドというのは顧客との約束ごとなのです。製品にとどまらない、例えばカタログやショールームなどをとっても、ユーザー体験がブランドにとってとても重要になります。
――そうすると、クルマにとどまらない広範な知識が必要になりますね?
マウアー:こうした試みはまだ始まったばかりで、デザイナーたちもその地平の広さに慣れていません。私がよく優れたブランドの例えとして挙げるのがAppleです。彼らは単に機能の優れたスマートフォンをデザインしたのではなく、ショップやパッケージなど、すべての面においてデザイナーの影響があります。
私のビジョンは、製品だけでなく、お客さまへ製品を届けるすべての段階においてデザイナーが関わるべきだし、それがブランドにとって大事なことだというものです。
――13ブランドの中には、商用車ブランドもありますが、そこにも乗用車ブランドと共通するエッセンスを取り入れていくのでしょうか?
マウアー:トラックデザインに関して興味深いのは、これまでトラックにとっては燃費などのランニングコストや信頼耐久性、安全性が大事で、デザインは重要ではないと考えられてきたことです。しかし、いま欧州では優れた運転スキルを持ったドライバーを雇用することが難しくなっている。仮に私が100台のトラックを所有する運送会社を経営しているとして、どうすればいいドライバーを採用できるのか。ドライバーはいいトラックを持っている会社を選ぶのではないかと思うのです。
――なるほど。トラックもブランドで選ばれる時代がくると?
マウアー:そうです。運送会社もブランドで車両を選ぶようになる。例えばAmazonの宅配にはスカニアしか使わない。それが顧客にとってよく見えることが、さらにブランドへと転換されていく。
私の強い信念として、例え商用車であってもブランドによるユーザー体験の重要性がこれからさらに増してくると思っているのです。
世界最多の自動車ブランドを抱えるVWグループが、未来を考える上で行う“フューチャーセンター”という取り組みは、各ブランドの個の力があるからこそ成立するものだ。ポツダムのフューチャーセンターの前に並んだ、各ブランドの象徴的なモデルを眺めるにつけ、その力をしみじみと感じる。そして近年は、いわゆる縦割りの、部署間の壁を越えて開発を進めるサイマルテニアス・エンジニアリングが主流だが、それをブランド間の垣根をも越えて、各ブランドにインスピレーションや刺激を与える先行開発部門として設立するという発想も、とてもユニークだ。果たしてここから何が生まれてくるのか、さらに注目していきたい。
(文=藤野太一/写真=藤野太一、フォルクスワーゲングループ/編集=藤沢 勝)

藤野 太一
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