トヨタ・カローラ スポーツ ハイブリッドG“Z”(FF/CVT)
守るための革新 2018.09.07 試乗記 トヨタ伝統のロングセラーである「カローラ」シリーズに、久々のハッチバック「カローラ スポーツ」が登場。ライバルひしめくCセグメントのど真ん中に投入されたニューモデルの出来栄えを、ハイブリッドモデルの試乗を通して確かめた。そういう生き方もアリかもしれない
わが家に初めてマイカーなるものがやってきたのは1967年生まれの僕がまだ1歳にも満たぬ頃のこと。当時としてはちょっとぜいたくだったのかもしれないが、後日聞いた話だと、公立学校の教員だった父が週に幾度か離れた村区の学校に通わなければならないという事情があって、思い切って購入したそうだ。
最初のクルマは中古の「トヨタ・パブリカ」。そこから中古の「三菱ミニカ」とつないで3台めのマイカーとしてわが家にやってきたのは新車の「スプリンター」だった。なんでカローラにしなかったのかという話はこれまた後日聞いたわけだが、その勇ましき名前にほれたわけでもアンチメジャー的な判官びいきでもなく、ただ単にやんちゃな教え子が販売店=当時出来たてのトヨタオート店に就職したからだという。以降、僕が知恵をつけて「スカイライン」だの「カペラ」だのと騒ぎ立てる中、わが家のマイカーは一片もブレることなくトヨタで固められ、先ごろ父は「クラウン」にたどり着くことなく「プレミオ」を最後に免許を返納した。
トヨタにクルマの一切合切を委ねるほどつまらない人生はない……とクルマ好きには久しくそう言われてきたし、僕も普通にそう思っていた。道にあふれるカローラをみるたび、思考なき衆愚どもめと思っていたクルマ革命戦士はしかし、今やクルマ周り以前に胴回りとの戦いで精いっぱいの50歳超えである。トヨタの所業に逐一目くじらを立てるのも面倒なら、長いものにはとっとと巻かれて勝ち馬にせっせと乗り続ける人生も悪くはないという事例も数々目にしてきた。今や他人のトヨタ漬け人生をみても、そうだよねぇと理解もできる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
強力なライバルひしめくCセグメントへ
しかし、そんな最近の自分でさえ、2012年に登場した現行のカローラは理解の難しいクルマだった。どうしても5ナンバーでなければならないオジさんのためのセダンと、後席を頻繁に使う法人向けの「プロボックス」代わりのワゴン……と、街中で見かけるそれらからは積極的選択の気配がしない。時は移ろい国民車の座は「プリウス」と「アクア」で分かち合っている。もはやカローラという名前に特別な思い入れを抱く人もわずかになったということだろう。
が、トヨタ内部では今もってカローラの名前は会社の出世を支えた聖なるものだ。それは過去形ではなく、世界に目を向ければ100万台を超えるカローラが毎年生まれている。仕向け地によって形は異なれど、車名別でいえば「カムリ」との2トップであることは変わらない。その故郷である日本において、カローラの名がつくクルマがなくなることなどあってはならないという思いもあってのことだろう。新しいカローラシリーズは世界市場と同等のグローバルスペックで新たな門出となった。
「カローラ ランクス」以来のハッチバックとなるカローラ スポーツのネタ元は、欧州においてカローラの後継的位置づけで3代にわたり展開されている「オーリス」だ。日本でも定着しかかったその名を捨ててまでカローラを名乗らせるのだから、そこからもトヨタの意気込みは十分感じられる。オーリスは欧州市場において間もなくワゴンが発表されるが、それが「カローラ フィールダー」の後継的位置づけで展開される可能性は十分考えられるだろう。風のうわさではセダンの存在もささやかれているが、詳細は不明だ。が、5ナンバー枠という退路を断った新世代カローラの前方に広がるのは、日本車では「マツダ・アクセラ」や「スバル・インプレッサ」とがっぷり四つ、欧州Cセグメントともガチという、なかなかのいばら道である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
進化を続けるTNGAプラットフォーム
その中で、カローラ スポーツの大きな武器となるのはやはりハイブリッドだろう。ちなみにディーゼルにまつわる諸問題が噴出した欧州でも電動化シフトが著しく、コンシューマー向けでは苦戦していたハイブリッドにも商機が訪れている。プリウス→C-HRの流れをくむ1.8リッター&THS IIの総合出力は122ps。かつて苦手としていた130km/h高速巡航レベルでの燃費も含め、総合的に1.6リッターディーゼルと対峙(たいじ)する能力は備えているといえる。
日本の環境であれば動力性能的な不満はもちろんないが、注目すべきはパワートレインの質感だろう。まずマネジメントがモーターを積極的に用いる側に振られていて、得たい加速に対してエンジン側がガッと吹け上がる無駄ぼえ的な稼働が少なくなっている。特に、街中から郊外路での穏やかな加速をみれば、以前との差は明らかで、静粛性や走行フィールなどでメリットを生んでいる。そしてTNGAプラットフォームも新型車ごとのアップデートの中で剛性向上が果たされており、それがマウントものの硬度選定や支持精度にもいい影響を与えているのだろう。エンジン稼働時の振動はプリウスやC-HRに対してさらに低減されている印象だ。
オーリスの名を捨てた是非
加えていえば、皆々が指摘する運動性能の高さについても、TNGAのアップデートによる影響は無視できない。バネ下の転がりの滑らかさや足まわりの精度感はカローラ スポーツの動的印象をひと回り上質なものとしている。乗り心地に関しても微小入力域から奇麗に動くアシがあるからこそ新しいダンパーも生かされるわけで、TNGAがもたらす好循環はソロバンより先にエンジニアの側に福音をもたらしている。
それに対して、すぐにでも改善を望みたいのは後席の快適性、ひとえに音環境の悪さだ。中高速域での盛大なロードノイズは音質も不快で、高速道路では前席側との会話もためらうほどだった。ハンドリングに費やす情熱の一片でも、後席の音消しに振り向けてもらえればと思う。
カローラ スポーツがもたらしたこの成果は、当然マイナーチェンジを控えるプリウスはじめ、今後登場する他のモデルにも反映されるはずだ。が、現時点で1.8リッター+THS IIのハイブリッドモデルを検討するなら、このクルマが最右翼の選択肢であることに疑いはない。“最新は最良”とは100%のクルマに当てはまるものではないが、カローラ スポーツに関しては、その体幹がカローラのイメージを激変させたと言っても過言ではないだろう。オーリスの名に別れを告げてまでカローラを生かしたトヨタの決定の是非は、このあと国内の販売台数が示すことになる。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
トヨタ・カローラ スポーツ ハイブリッドG“Z”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4375×1790×1460mm
ホイールベース:2640mm
車重:1400kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:98ps(72kW)/5200rpm
エンジン最大トルク:142Nm(14.5kgm)/3600rpm
モーター最高出力:72ps(53kW)
モーター最大トルク:163Nm(16.6kgm)
システム総合出力:122ps(90kW)
タイヤ:(前)225/40R18 88W/(後)225/40R18 88W(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:25.6km/リッター(WLTCモード)/30.0km/リッター(JC08モード)
価格:268万9200円/テスト車=340万1633円
オプション装備:AVS+ドライブモードセレクト 5段階[ECO/COMFORT/NORMAL/SPORT S/SPORT S+](10万8000円)/カラーヘッドアップディスプレイ(4万3200円)/イルミネーテッドエントリーシステム<フロントドアトリム、フロントコンソールトレイ、フロントカップホルダー>(1万0800円)/4:2:4アジャスタブルデッキボード+アクセサリーコンセント<AC100V・1500W、コンセント2個、非常時給電システム付き>(5万1840円)/サイドターンランプ付きカラードドアミラー<ヒーター付き>+オート電動格納式リモコン<ブラインドスポットモニター付き>+リアクロストラフィックオートブレーキ<パーキングサポートブレーキ付き[後方接近車両]>+ブラインドスポットモニター<BSM>+バックカメラ(12万5280円) ※以下、販売店オプション T-Connectナビ9インチモデル DCMパッケージ(26万0280円)/iPod対応USB/HDMI入力端子(9720円)/ETC2.0ユニット ビルトインナビ連動タイプ<光ビーコン機能付き>(3万2573円)/フロアマット<ラグジュアリータイプ>(2万8080円)/ドライブレコーダー(4万2660円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1953km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:458.8km
使用燃料:23.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:19.9km/リッター(満タン法)/19.5km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2026.2.23 「BYDシーライオン6」は満タン・満充電からの航続可能距離が1200kmにも達するというプラグインハイブリッド車だ。そして国内に導入されるBYD車の例に漏れず、装備が山盛りでありながら圧倒的な安さを誇る。300km余りのドライブで燃費性能等をチェックした。
-
アルファ・ロメオ・トナーレ ハイブリッド インテンサ(FF/7AT)【試乗記】 2026.2.22 2025年の大幅改良に、新バリエーション「インテンサ」の設定と、ここにきてさまざまな話題が飛び交っている「アルファ・ロメオ・トナーレ」。ブランドの中軸を担うコンパクトSUVの、今時点の実力とは? 定番の1.5リッターマイルドハイブリッド車で確かめた。
-
トライアンフ・トライデント800(6MT)【海外試乗記】 2026.2.20 英国の名門トライアンフから、800ccクラスの新型モーターサイクル「トライデント800」が登場。「走る・曲がる・止まる」のすべてでゆとりを感じさせる上級のロードスターは、オールラウンダーという言葉では足りない、懐の深いマシンに仕上がっていた。
-
マセラティMCプーラ チェロ(MR/8AT)【試乗記】 2026.2.18 かつて「マセラティの新時代の幕開け」として大々的にデビューした「MC20」がマイナーチェンジで「MCプーラ」へと生まれ変わった。名前まで変えてきたのは、また次の新時代を見据えてのことに違いない。オープントップの「MCプーラ チェロ」にサーキットで乗った。
-
アルファ・ロメオ・ジュリア クアドリフォリオ エストレマ(FR/8AT)【試乗記】 2026.2.17 「アルファ・ロメオ・ジュリア」に設定された台数46台の限定車「クアドリフォリオ エストレマ」に試乗。アクラポビッチ製エキゾーストシステムの採用により最高出力を520PSにアップした、イタリア語で「究極」の名を持つFRハイパフォーマンスモデルの走りを報告する。
-
NEW
右も左もスライドドアばかり ヒンジドアの軽自動車ならではのメリットはあるのか?
2026.2.25デイリーコラム軽自動車の売れ筋が「ホンダN-BOX」のようなスーパーハイトワゴンであるのはご承知のとおりだが、かつての主流だった「スズキ・ワゴンR」のような車型に復権の余地はないか。ヒンジドアのメリットなど、(やや強引ながら)優れている点を探ってみた。 -
NEW
第950回:小林彰太郎氏の霊言アゲイン あの世から業界を憂う
2026.2.25マッキナ あらモーダ!かつて『SUPER CG』の編集者だった大矢アキオが、『CAR GRAPHIC』初代編集長である小林彰太郎との交霊に挑戦! 日本の自動車ジャーナリズムの草分けでもある天国の上司に、昨今の日本の、世界の自動車業界事情を報告する。 -
NEW
ルノー・グランカングー クルール(FF/7AT)【試乗記】
2026.2.25試乗記「ルノー・グランカングー」がついに日本上陸。長さ5m近くに達するロングボディーには3列目シートが追加され、7人乗車が可能に。さらに2・3列目のシートは1脚ずつ取り外しができるなど、極めて使いでのあるMPVだ。ドライブとシートアレンジをじっくり楽しんでみた。 -
NEW
第862回:北極圏の氷上コースでマクラーレンの走りを堪能 「Pure McLaren Arctic Experience」に参加して
2026.2.25エディターから一言マクラーレンがフィンランド北部で「Pure McLaren Arctic Experience」を開催。ほかでは得られない、北極圏のドライビングエクスペリエンスならではの特別な体験とは? 氷上の広大な特設コースで、スーパースポーツ「アルトゥーラ」の秘めた実力に触れた。 -
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2026.2.24試乗記ボルボの電気自動車「EX30クロスカントリー」に冬の新潟・妙高高原で試乗。アウトドアテイストが盛り込まれたエクステリアデザインとツインモーターからなる四輪駆動パワートレイン、そして引き上げられた車高が織りなす走りを報告する。 -
エンジニアが「車検・点検時に注意すべき」と思う点は?
2026.2.24あの多田哲哉のクルマQ&Aすっかりディーラー任せにしている車検・点検について、ユーザーが自ら意識し、注視しておくべきチェックポイントはあるだろうか? 長年トヨタで車両開発を取りまとめてきた多田哲哉さんに意見を聞いた。













































