メルセデス・ベンツCLS220dスポーツ(FR/9AT)
“E”では飽き足らない人へ 2018.09.13 試乗記 欧州製4ドアクーペの元祖、「メルセデス・ベンツCLS」が3代目にモデルチェンジ。“新世代メルセデスデザイン”の嚆矢(こうし)として語られることの多い新型CLSだが、実車に触れてみると、ほかにも多くの特筆すべきポイントが見受けられたのだった。これが新世代メルセデスのデザイン
“4ドアクーペ”を標榜(ひょうぼう)するCLSが3代目にフルモデルチェンジした。ネーミングとはとても大事なもので、要はサッシュレスの4ドアハードトップだ。80年代には日本車でも一大ブームになったが、いまじゃ絶滅種になった。
一方で欧州メーカーは、「BMW 4シリーズ グランクーペ」や「アウディA5スポーツバック」をはじめ、各社が続々と新型モデルを投入しており、ひとつのセグメントを形成している。2005年に初代が登場したCLSは、その急先鋒(せんぽう)だったわけだ。
新型のエクステリアデザインはプレスラインやエッジなどを極力省いたシンプルなものになった。フロントまわりはサメのとがった鼻先をモチーフにしたというが、たしかに斜め前方の低い位置から新型を眺めてみると、サメに見えてくるから面白い。
デザイン責任者のロバート・レズニック氏は、「現時点で最高なだけではだめで、数年先を見据えてデザインしました。CLSはメルセデスデザインの新章の幕開けとなるモデルなのです」と述べていたが、次期型「Aクラス」などを見ても同様のデザイン言語が用いられていることがわかる。CLSも海外試乗会で乗ったAクラスも、最初は平たくて彫りが浅くて「ちょっと“しょうゆ顔”すぎるかな」という印象だったけど、じわじわとなじんで男前に見えてくるから不思議だ。試乗車は「ヒヤシンスレッド」という大人っぽい赤系メタリックカラーで、後ろ姿もなかなかに美尻だと思う。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
要望に応えてついに5人乗りに
車内に乗り込むと、パフュームアトマイザーのいい香りがする。12.3インチのディスプレイの下側には、ダッシュボードからドアに至るまで乗員を囲むようにカーブしたグレーのウッドパネルが張り巡らされており、浮かび上がった木目が上質感を高めている。その真ん中に4つ、左右に2つ、計6つが配されたエアアウトレットにはアンビエントライトが仕込まれており、妖しく光っている。なんと64色も設定があるというから、きっと日の目を見ない色もあるだろう。メルセデスはコネクト機能を使って人気色のデータを集めてみてはいかがだろう(もうやっているかもしれないけど)。エアコンの温度を上げると赤く、下げると青く光るギミックも用意するなど、いかにも単なるセダンじゃありません、という演出がきいている。
ステアリングは「Sクラス」譲りのもので、そこから手を放すことなくナビゲーションや車両の設定が行えるタッチコントロールボタンや、ディストロニック(ACC)の操作スイッチも備わる。試乗車にはオプションのエクスクルーシブパッケージが装着されていたが、それに含まれる背面が縦畝でデザインされたナッパレザー仕様のシートの座り心地も秀逸なものだ。程よいサポートで、長時間のドライブでも疲労は少ない。
そして、新型はCLSとして初めて5人乗り仕様になった。これは顧客から多く寄せられていたリクエストだったようで、4人乗りだからと諦めていた人にとっては朗報だろう。見た目はクーペルックでも、さすがに全長は5mに達しているだけあって後席も大人がしっかりと座れるものだ。トランク容量も標準で490リッターを備えており40:20:40の分割可倒式バックレストを使えば長尺ものの搭載も可能だ。
もはや“ACCナシ”なんて考えられない
「CLS220dスポーツ」のパワートレインは「Eクラス」譲りのものだ。最高出力194ps、最大トルク400Nmを発生する2リッター直列4気筒ディーゼルターボに9段ATを組み合わせる。欧州ですでに導入されている「Real Driving Emissions(実路走行試験)」規制に適合しており、日本のJC08モードでも18.6km/リッターと優れた燃費性能を誇る。耳をすませばアイドリング時にはかすかにディーゼル特有の音が聞こえるが、言われなければそれとわからないだろう。走りだしてしまえば、もうまったく気にならない。時速100kmでは7速までしか使えないのがなんともむずがゆいが、アクセルを踏みたい衝動をぐっとこらえて、前走車追従機能付きクルーズコントロール(ACC)を起動する。
ADAS(先進運転支援システム)は、もちろん最新のSクラスと同等のものだ。ウインカーを操作するだけで自動的に車線変更してくれる「アクティブレーンチェンジングアシスト」や、走行中にドライバーの異常を検知した場合、車両を緩やかに減速し停止する「アクティブエマージェンシーストップアシスト」なども搭載。ACCは高速道路上では停止後30秒以内であればドライバーの操作がなくても自動的に再発進が可能になった。渋滞時にいちいちスイッチ操作をする必要がないのはやはり楽だ。慣れてしまうとこれなしではいられなくなってしまう。
“本家”の牙城を揺るがす存在に
先のエクスクルーシブパッケージには、エアサスペンションも含まれており、走行モードを「Sport」にすると、標準の「Comfort」に比べて明確に引き締まった乗り味になる。路面の目地段差などからの入力に対する収まりもよく、高速道路で、ACC頼みでなく自分で運転することを選ぶならこちらのモードのほうが気持ちよく走ることができる。
ハンドリングの素直さもメルセデスらしいものだ。切れ角によって操舵感に違和感を覚えるようなことがなく、指の腹にぐっと力を込めるような微細な入力に対してもじわっと舵がきく。コーナリング時の安定感もさすがのものだ。4ドアクーペという言葉に惑わされがちだが、Eクラスとプラットフォームを共にするわけで、出来がいいのは当然といえば当然である。上質なドライブフィールはまったく遜色ない。
ちなみにボディーサイズを見てみると、セダンの「E220dアヴァンギャルド スポーツ」と比べて、50mm長く、45mm幅広く、30mm低く、ホイールベースは2940mmで同寸。このスリーサイズのゆとりをもって、4ドアクーペのデザインを実現しているわけだ。そして価格は同セダンが769万円に対して、このCLS220dスポーツは799万円。その差30万円と絶妙な設定だ。Eクラスは定番でフォーマルにすぎるという人にとって、4人乗りという制限が解かれた新型CLSは、本家Eクラスの牙城にも迫るなかなかに魅力的な選択肢になったといえるだろう。
(文=藤野太一/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツCLS220dスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5000×1895×1430mm
ホイールベース:2940mm
車重:1860kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:194ps(143kW)/3800rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1600-2800rpm
タイヤ:(前)245/40R19 98Y(後)275/35R19 100Y (ダンロップSPORT MAXX RT2)
燃費:18.6km/リッター(JC08モード)
価格:799万円/テスト車=883万5000円
オプション装備:メタリックペイント<ヒヤシンススレッド>(11万4000円)/エクスクルーシブパッケージ(57万5000円)/ガラススライディングルーフ(15万6000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:2059km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:111.6km
使用燃料:9.7リッター(軽油)
参考燃費:11.5km/リッター(満タン法)/14.7km/リッター(車載燃費計計測値)
![]() |

藤野 太一
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
NEW
MTBのトップライダーが語る「ディフェンダー130」の魅力
2025.10.14DEFENDER 130×永田隼也 共鳴する挑戦者の魂<AD>日本が誇るマウンテンバイク競技のトッププレイヤーである永田隼也選手。練習に大会にと、全国を遠征する彼の活動を支えるのが「ディフェンダー130」だ。圧倒的なタフネスと積載性を併せ持つクロスカントリーモデルの魅力を、一線で活躍する競技者が語る。 -
NEW
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか?