メルセデスAMG G63(4WD/9AT)
過剰だからこそ面白い 2018.09.22 試乗記 古式ゆかしきラダーフレームのクロカン車に、585psのV8ツインターボエンジンを搭載した「メルセデスAMG G63」。無理やりすぎる商品企画の帳尻を、自慢の技術で合わせてみせた力業な一台に、無駄で過剰なクルマならではの楽しさを見た。(以前よりは)まっとうなクルマになった
登場から40年を経て刷新された新型「Gクラス」の最大の特徴は、フロントサスの独立懸架化を筆頭としたシャシーの全面刷新にある。それをもって、悪路走破性を損ねることなくオンロードでの操縦性が劇的に改善された。このフルモデルチェンジによって、がぜん存在価値が高まったのがAMGのモデルだ。
Gクラスの、いわゆるライフスタイル商品としての側面がクローズアップされた2000年代以降、多加飾高額なAMGモデルは富裕層の皆さんに好んで選ばれてきたわけだが、クルマ屋的な視点でみればそれは、持てる大パワーを使いこなせず持て余す、かなりいびつな存在だった。高速道路でぶっ飛んでくる豆腐のような姿をみるたび、「よくそんなので踏めるなぁ」と心配になるほどのそれを、だから僕は他人にはまったく薦めなかった。
が、今回のシャシーの刷新によって、Gクラスは500ps級のパフォーマンスを受け止める素地(そじ)が整った。そもそも「GクラスでAMGってそれ一体誰得なわけ?」と言われれば元も子もないが、日本だけではない先代AMGモデルの世界的な売れっぷり(特にアメリカ)をみていれば確実にそれを求める物好き……もとい好事家もいらっしゃるわけで、そういう方々に乗っていただくものとして望まれることはすべて盛り込まれたともいえるわけである。
ガソリンタンクはまさかの100リッター
新型G63のディメンションは標準系に対して全長が56mm長い4873mm、全幅が53mm広い1984mm、全高が3mm低い1966mmとなっている。Gクラスのサスはデュラビリティー(耐久性)を重視してすべてコイル&ダンパーの組み合わせとなっているから、この車高差はストローク違いというわけではなく、専用設定のサスとタイヤサイズからなる微妙な差異にすぎないと考えていいだろう。2890mmのホイールベースは悪路でのアングル確保やデザインの面から設定されたものと思われる。余談だが、「トヨタ・ランドクルーザー」のホイールベースは「80系」以降、30年近くにわたって2850mmのままだ。悪路走行を本気で考えているクルマにとって、その数字がいかに繊細なものであるかが伝わってくる。
搭載されるエンジンは4リッターV8のバンク間に2つのタービンを並列配置する“ホットVレイアウト”の「M177」型。最高出力は585ps、最大トルクは850Nmと、その額面に“泥グルマ”に積まれるものとしてのつつましさはみじんもない。ちなみに同じ4リッターV8ツインターボの「M176」型を搭載する標準系の「G550」と比べると、G63のパワーは163ps、トルクは240Nm大きい。この差分だけで軽自動車が3台くらいは動かせそうだ。燃費が悪くなるのは百も承知とみえて、G63の燃料タンクは標準系の75リッターに対して100リッターの容量を確保している。このエンジンに組み合わせられるトランスミッションは9段AT。トリプルデフロックを備えたトランスファーなどの装備は標準車と変わりなく、駆動配分も同じく40:60のフルタイム式だ。
劇的な進化を遂げたオンロードでのマナー
高性能エンジンの目覚めとしてはいささかデリカシーに欠けるブーブークッションのような始動音は、アメリカのユーザーに好まれるものとして「M156」系自然吸気エンジンの時代からAMGが意図的に聴かせているもの。しかしその音量はやや絞られたように感じられる。車内にいればその差はさらに明らかだ。これを望ましい変化とする日本のユーザーは多いのではないだろうか。
最大トルクの発生回転域は今日びのエンジンとしては比較的高い2500rpmになるものの、それ以下でも有り余るトルクを発していることもあって、G63の街中でのマナーは音の印象とは裏腹にかなり紳士的だ。9段ATのワイドなギアレシオを生かして、低回転域をうまく使いながら加減速を滑らかにこなす。先代を知るオーナーであれば曲がり角のたびに、操舵が劇的に楽になったことに驚くだろう。大径ブレーキのチューニングもこの期に及んでもオフロードを意識してかストロークでじわっとゲインが立ち上がるようにしつけてあり、制動Gのコントロールもやさしい。
こういうクルマがあってもいい
そして速度を高めるほどに際立ってくるのは乗り心地の良さと直進安定性の高さだ。先述の通りリアアクスルはリジッドのままだが、路面のうねりに対しての横揺れ感もうまく抑えられており、柔軟性が高まったフロントサスとのバランスもきれいにとれている。それはコーナリング時もしかりで、高重心な車体のロールを不自然に封じることなく自然で定常的な推移となるようチューニングしているため、ロール量にさえ慣れてしまえば自信をもって運転に臨めるだろう。この成り立ちに極太タイヤゆえ、わだちに対しては絶望的に弱そうだが、これが全く気にならないのはまさに独立懸架サスの美点だ。
G63とG550との価格差は500万円を切るくらいと、性能差に対する値付けとしてはさほど違和感はない。が、Gクラスというクルマのありさまに対しては明らかに過剰で、あってもなくても困らないと言われればそれまでのグレードでもある。
が、1日限定のにわかオーナーは、笑いながらアクセルを踏んづけては、その爆発力を何度も堪能してしまった。こんなナリをしたクルマが脱兎(だっと)のごとく山道を駆け抜ける、その意味のなさというかバカバカしさというかがクセになるという感覚を、心からは憎めない。自滅への道まっしぐらでヤケ飲みしている人に居酒屋で出会うと、そういう時ってあるよね……と心の中で同調してしまうその気持ちというのだろうか。人の道さえ外れていなければ、世の中的な本筋を個人のエゴが超えることがあってもなんとか許していただける。それが平和な資本主義だよなとあらためて思わせてくれる一台なのかもしれない。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
メルセデスAMG G63
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4873×1984×1966mm
ホイールベース:2890mm
車重:2560kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:585ps(430kW)/6000 rpm
最大トルク:850Nm(86.7kgm)/2500-3500 rpm
タイヤ:(前)275/50R20 113W/(後)275/50R20 113W(ピレリ・スコーピオンゼロ アシンメトリコ)
燃費:13.1リッター/100km(約7.6km/リッター、欧州複合モード)
価格:2035万円/テスト車=2161万円
オプション装備:ボディーカラー<designoマグノプラチナムマット[AMG世田谷専用色]>(0円)/AMGレザーエクスクルーシブパッケージ(78万円)/AMGカーボンファイバーインテリアトリム(48万円)
※数値は欧州仕様参考値。
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:4356km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:353.0km
使用燃料:67.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.2km/リッター(満タン法)/4.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。