フォルクスワーゲン・ティグアンTDI 4MOTION Rライン(4WD/7AT)
“チカラ”だけじゃない 2018.09.30 試乗記 フォルクスワーゲンのSUV「ティグアン」にディーゼル+4WDの「TDI」が仲間入り。ガソリンモデルのティグアンと、先行してディーゼルが導入された「パサート」、いずれもドライブ経験を持つ下野康史が、その出来栄えをチェックした。パサート用とはチューンが違う
フォルクスワーゲンのSUV、ティグアンにディーゼルが加わった。ミニバンの「ゴルフトゥーラン」と同じタイミングで投入されたVWクリーンディーゼル第2弾だ。
エンジンは、第1弾のパサートと同じ2リッター4気筒ターボ。排ガス浄化にDPF(ディーゼル微粒子フィルター)、デュアルサーキットEGR、アドブルーを使う尿素SCRシステムなどを採用したコモンレールディーゼルだ。
チューンは異なり、水冷式インタークーラー装備などで190ps、400Nmまで上げたパサート用に対して、ティグアン/トゥーラン用は150psのパワーと340Nmのトルクを発生する。DSGの変速機も、6段から7段に変わる。
ティグアンTDIは、3グレードすべて「4MOTION」である。2017年1月以来の現行日本仕様ティグアンは、これまで2WDのみだった。先代モデルも、販売の半分以上は2WDだったというが、それにしても、ゴルフに「オールトラック」があるのに、こういう形のSUVに4WDがないのは画竜点睛を欠いた。TDIは待望の“四駆ティグアン”でもある。
今回試乗したのは、「Rライン」。車両本体価格524万円の上級スポーティーモデルである。
ガソリン車よりも実用加速に優れる
ひとくちにフォルクスワーゲンの2リッターディーゼルといっても、以前乗った「パサート ヴァリアント」は、190psで車重1630kg。今回のティグアンは150psで1730kgある。チカラはどんなものかと思ったが、ティグアンTDIも余裕しゃくしゃくだ。FFのパサートTDIは力がありすぎて、荒れた路面で急加速すると、前輪が一瞬グリップを失うことがあったが、ティグアンTDIは四駆だから、そんな破綻もみせない。いつも気持ちよく速い。
つい先日乗ったガソリン1.4リッターターボのティグアンと比べても、加速性能は遜色ない、どころか、町なかでのキビキビした速さはむしろディーゼルのほうが一枚うわてだ。低速トルクの豊かさを利して、ガソリンモデルよりタウンスピードでの“実用加速”にすぐれるのは、ティグアンも同じである。
ただ、ガソリンモデルとの違いは、“その先”がないこと。高速道路や上り坂での追い越しなど、スクランブル的にここ一発のパワーがほしいとき、町なかで感じていたほどのパンチは得られない。いつまでもあると思うなディーゼルのチカラ、である。
高速道路の100km/hは、7速トップで1700rpm。スピードをキープしたまま左パドルを引くと、2000、2500、3200、そして4500rpmまで上がった3速でエンジンの音がはっきり高まる。それくらい静かである。ディーゼルであること、というか、ガソリンエンジンではないことを耳で自覚するのは、アイドリングの車外騒音だけといっていい。
とにかく乗り心地がいい!
このRラインでいちばん感心したのは、乗り心地のよさである。試乗車にはアダプティブダンパーをメインとする「DCCパッケージ」(21万6000円)が載っていた。これを付けると、Rラインに標準の19インチホイールセットが20インチになる。試乗車のタイヤは「コンチスポーツコンタクト5 SUV」のヨンマル255。乗り心地にはさほど期待していなかった。
しかし乗ってみると、18インチ/ノーマルダンパーのガソリン「TSIハイライン」よりよかった。無用なゴツゴツ感はなく、さらにフラットでしっとりしている。しかも“悪い道”になるほど強い。トヨタ・センチュリーと逆である。長期工事で一時的な補修跡が連続するような都内の悪路などは、とくに得意である。乗り心地のフトコロが深いのだ。
ためしにキャッツアイのラインを踏んでみると、肩すかしをくらった。まったくといっていいほど振動がこないのである。SUVと銘打つタイヤもいいのだろうが、路面入力に応じて磁性体で瞬時に減衰力を変える電制ダンパーがなにより効いているのだろう。
ただし、ハイライン以上に設定されるこのDCCパッケージは、なぜかレザーシートパッケージとのセットオプション。総額では50数万円になる。
376.8kmを走って、30.0リッターの軽油を消費する。燃費は12.6km/リッター。山道を走ってもそこそこ楽しいので、高速道路をおりて、ふだんより多めに峠を越えた。トリップコンピューターが示す借り出し直後の通算燃費は14km/リッター台だった。
日本車顔負けのユーティリティー装備
先代のころから、ティグアンは使い勝手のいい実用SUVである。全幅1860mmのボディーは“コンパクト”とは言えないが、全長4500mmならファミリーSUVとして許せるサイズだろう。
リアシートは広く、見晴らしもいい。シートそのものもたっぷり大きい。背もたれは、荷物にスペースを譲った垂直位置から、人間がふんぞり返れる角度まで、細かくリクラインがきく。
後席にはトレー型のテーブルが備わる。SUVには珍しい装備だが、水平位置から下に向けて数段のノッチがつくってある。スマホやタブレットを置いて使うポジションである。日本の軽ワゴンあたりを購入して研究したんじゃないかと思うほど、小技もきいている。
後席背もたれは、荷室のレバーを引くとほぼ水平に倒れる。荷室側壁にはシガーソケットのほかにAC100Vのソケットも付いている。
車内には物入れが多い。ルーフコンソールもある。センターパネルのフタ付き物入れを開けると、ボタンがふたつあった。押すと、カシャッと部品が飛び出して、カップホルダーが出現した。しまいかたは、しばらく悩む。「ポルシェ911」と並ぶサプライズなカラクリカップホルダーである。
ティグアンTDIのスタートプライスは、17インチを履く「コンフォートライン」の408万6000円。ディーゼル+4WDのお代は、同グレードのガソリンモデルに対して一律45万円である。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ティグアンTDI 4MOTION Rライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4500×1860×1675mm
ホイールベース:2675mm
車重:1730kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150ps(110kW)/3500-4000rpm
最大トルク:340Nm(34.7kgm)/1750-3000rpm
タイヤ:(前)255/40R20 101V XL/(後)255/40R20 101V XL(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5 SUV)
燃費:17.2km/リッター(JC08モード)
価格:524万円/テスト車=589万3400円
オプション装備:ボディーカラー<オリックスホワイト マザーオブパールエフェクト>(6万4800円)/レザーシートパッケージ(31万3200円)/DCCパッケージ(21万6000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<プレミアムクリーン>(5万9400円)
テスト車の年式:2018年型
テスト車の走行距離:1512km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:376.8km
使用燃料:30.0リッター(軽油)
参考燃費:12.6km/リッター(満タン法)/13.2km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。