“テスラキラー”の本命は!?
プレミアムブランドの最新EVを比較
2018.10.10
デイリーコラム
プレミアムブランドのEVが相次いでデビュー
いよいよ市販プレミアム電気自動車(EV)が出そろってきた。この9月には、メルセデス・ベンツが電動モビリティーを中心に据えたサブブランドとして展開するEQの市販モデル第1弾となる「EQC」が、そしてやはりアウディ初のEVとなる「e-tron」が相次いで発表された。また国内で、これらに先行したジャガーのEV、「Iペース」の発表もあった。プレミアムブランドの電動化の波、いよいよ到来である。
このムーブメントに火をつけたのがテスラであることは言うまでもない。「モデルS」「モデルX」は大成功を収め、世界各地でプレミアムカー市場に大きく食い込んでいる。そこにヨーロッパを襲ったディーゼルゲートもあり、一気にEVへの機運が高まったのだ。
では、これらの最新モデルたちはテスラに対抗できる、あるいは凌駕(りょうが)できるだけの実力を備えているのだろうか。現時点で試乗できているモデルはIペースだけだが、ここではまずスペックから考察してみたい。
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各車のスペックをおさらい
メルセデス・ベンツEQCは、全長4761mmの「GLC」などとプラットフォームを共有するSUVボディーに、前後合計で最高出力408ps、最大トルク765Nmとなる2基の電気モーターを搭載する。動力性能は0-100km/h加速が5.1秒、最高速が180km/h。リチウムイオンバッテリーは容量80kWhで、最大航続距離はNEDCサイクルで450km以上、WLTPモードでも400kmをクリアする。
これまで電動化パワートレイン搭載車にサブネームとして使われてきた名前をそのまま車名としたe-tronは、同じSUVでも全長4901mmと大きい。空気抵抗低減のため低く抑えた全高のおかげもあり、ルックスには「オールロード」系のような雰囲気も漂わせている。ボディーはASF(アウディ・スペース・フレーム)構造のアルミ製である。
電気モーターはEQCと同じくやはり前後2基で、最高出力も408psと同等。動力性能は0-100m/h加速が5.7秒、最高速は200km/hと、EQCより加速はおとなしいが最高速は伸びる設定だ。リチウムイオンバッテリーの容量は95kWhで、航続距離はWLTPサイクルで400kmを超えるという。
ひと足先に世に出たジャガーIペースは、個性的なフォルムを持つアルミボディーを採用。電気モーターの最高出力は前後合計で400ps、最大トルクは696Nm。0-100km/h加速は4.8秒、最高速は200km/hを実現する。リチウムイオンバッテリーの容量は90kWhで、航続距離はWLTPモードで最大470kmにも達する。
テスラにはすでにおなじみのモデルSとモデルX、そして日本未導入の「モデル3」の3車種が用意されている。今回は他のライバルたちに倣ってSUVのモデルXで比較する。
リアのファルコンウイングドアが特徴的なアルミ製ボディーは、全長5037mmというビッグサイズ。やはり全車、前後計2基の電気モーターを搭載する。リチウムイオンバッテリーは容量75kWhと100kWhの2種類が用意され、前者の75Dでは0-100km/h加速5.2秒、最高速210km/hを実現。航続距離はNEDCモードで417kmとなる。一方、最高峰となる後者のP100Dでは、航続距離が542kmに延び、0-100km/h加速は圧巻の3.1秒に。最高速も250km/hに達する。
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数字には表れないつくり込み
単純に動力性能を見れば、テスラ・モデルX P100Dが圧倒的。75Dでもパフォーマンスは極めて高い。Iペースは健闘しているが、ドイツ勢は後発の割にはそこまでのインパクトはないというのが実際のところである。しかしながらメルセデス・ベンツ、そしてアウディの開発陣に話を聞いたところでは、両者ともに「実際の」走りには相当な自信を持っているようだった。
例えばアウディは、コンポーネンツの冷却に凄(すさ)まじいほど力を入れている。それは高い動力性能を継続的に発揮するためだ。実際、0-100km/h加速を何度繰り返しても勢いが衰えることはないと彼らは胸を張る。確かに、テスラ車では2~3回ですでにその傾向が見られるだけに、そこにちゃんと差があるよと言いたいわけだ。
この中で唯一、すでに試しているIペースでの実感としても、バッテリーは想像以上に減らない。バッテリーからエネルギーを取り出し駆動力に変換する、さらには回生まで含めた効率が相当いいのだろう。
聞けばIペース、開発に当たっては200台以上のテスト車が作られ、その延べ走行距離が実に240万km以上にも達するほどの徹底的な作り込みが行われたという。EVであろうと、これは自動車。部品を組めばいいのではなく、そのコンポーネンツの力を最大限に引き出す開発が決め手になるわけだ。
今後、自動車メーカー発のEVが続々と世に出てくれば、きっとこうした差があらためてあらわになってくるだろう。ただし、テスラだって黙っているはずがない。実際、モデルSなど登場時と今とではあらゆる部分が別物のように進化しているだけに、今後はそうしたいい意味での性能競争が激化してくることは十分期待できる。
おそらく、これからの数年のEV市場は見ものだ。ただし、われわれユーザーにとっての問題は、一体いつ買ったらいいのか見えづらいことである。
(文=島下泰久/写真=ジャガー・ランドローバー・ジャパン、アウディ、ダイムラー/編集=藤沢 勝)
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島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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