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あなたはロボットに仕事を教えられる?
自動化された工場で求められる人の役割とは

2018.12.24 デイリーコラム 堀田 剛資

取材メモの上で踊る、機械と人のせめぎ合い

記者は生産技術の専門家ではないし、工場経営のプロでもない。人よりちょっと、たくさんの工場を見学する機会があっただけである。したがって、これから記すことはひょっとしたら全然お門違いかもしれないし、逆に当事者の間では「何言ってんの?」というくらい当たり前のことなのかもしれない。そのスジの関係者におかれましては、寛大な心でもって読み進めてください。

さて、分社化される前の日産九州工場に、栃木工場、今はなきブリヂストンの東京工場、マツダの広島本社工場、ホンダの寄居工場と、ホンダから車両生産を請け負っていた八千代工業ネクセンの昌寧工場、そして直近だとホンダの鈴鹿製作所。なんのことかというと、ここ7年ほどで記者が取材・見学した工場の例である。なんで7年なんて中途半端な数字かというと、手元にそれ以前の取材メモが残っていないからだ。ちょっと特殊なのも含めると、湘南のオーテックジャパンや航空機の部品を作るスバルの半田工場にも行っていたのか、私。

で、そんな記者の取材メモを見ると、いつも機械と人がせめぎ合っている。恐らくはどの工場でも、「○○の導入でタクトタイムが大幅削減!」と説明する係員に、「じゃあなんでここの作業は人がやっているの?」と尋ねていたのだろう。

今も昔も、工場見学では「自動化」による生産効率の改善が“花形”で、最近は「情報化」による品質管理もそこに加わった感がある。部品をRFタグやらバーコードやらで徹底的に管理し、ロボット君にシゴトを任せて生産効率と品質を高める。三菱の走行用バッテリーのリコール問題や、昨今の完成検査問題で露骨に感じてしまったのだが、大量生産の現場で足を引っ張るのは、悲しいけれど人間だ。管理された生産機械が不具合を起こすケースより、人がミスをしたり、不正を働いたりというケースの方が多い。

取材メモに残る、いちばん古い取材先は日産の九州工場。写真は2018年8月現在のものだが、記者が取材したのは2012年夏のことで、当時はまだ日産自動車九州として分社化されていなかった。
取材メモに残る、いちばん古い取材先は日産の九州工場。写真は2018年8月現在のものだが、記者が取材したのは2012年夏のことで、当時はまだ日産自動車九州として分社化されていなかった。拡大

それでも“人の手”が必要な理由

だからといって、目下日本全国の工場から人の姿が消えている、なんてことはないし、6~7年前と比べて極端に人が減ったという印象もない(多少は減ってると思うけど)。本当に「人、いねえなあ……」と戸惑ったのは、ネクセンの昌寧工場くらいだ。

今なお生産現場で人が活躍している理由は、「ものをより分けて、摘み取る」などといった、一見シンプルでも意外と機械が苦手とする作業、人がやったほうが効率がいい作業が少なくないからだ。ブリヂストンでは人がローラーにカーカスやインナーライナーといったタイヤの素材を巻いていたし、ホンダの鈴鹿製作所では、ドアパネル1台分の部品を運ぶ台車に、人が手作業で部品を配膳していた。

また混流生産のラインを持つ工場では、仕様の異なる製品の生産に柔軟に対応するために、人の能力を頼りにしている例が多かった。先述の工場の中だと、軽トラと「S660」が同じラインを流れていた八千代工業はその最たるもの。心象としては、マツダの広島本社工場も比較的その傾向が強かった。

ただ、それでもやはり工場のオートメーション化は進行する。先に触れたホンダの鈴鹿製作所では、「これは機械では難しいんですよ」と自ら説明していたエンジンとトランスミッションのドッキング作業についても、来年(2019年)には自動化に取り組むという。

そもそも、日本の工場が安価な労力と政府による強力な支援を得られる海外の工場と伍(ご)して戦うためには、生産性のたゆまぬ改善が必須であり、オートメーション化は避けて通れない。また急速に進む少子高齢化を鑑みても、自動化なくして長期的な生産能力の維持はできないだろう。問題は、高度に機械化された工場で求められる、人の役割である。

2018年の年初に取材した、ネクセンの昌寧工場。「世界的にも数少ないタイヤのスマート工場」というだけあって、本当に人が少なかった印象がある。
2018年の年初に取材した、ネクセンの昌寧工場。「世界的にも数少ないタイヤのスマート工場」というだけあって、本当に人が少なかった印象がある。拡大

機械化が進むほどエンジニアが重要になる

オートメーション化というと、「機械に人が取って代わられる」と手塚治虫的SF世界を想像して戦慄(せんりつ)する方もおられるだろうが、実際のところ、工場が機械化されたからといって人が不要になるわけではない。そりゃ100年先は分からないけど、少なくとも記者が、読者のアナタが生きているうちは、「工場から人がいなくなる」なんてことはないだろう。何でかというと、機械の操作や保守管理に人が必要だからだ。

例えば、実際に製造用ロボットに仕事をさせるためには、「『ホンダN-BOX』の屋根の溶接では、アームをこう動かして、このタイミングでレーザーを打ち始めて、ここで止めて……」といった一連の作業をロボット君に教えこむ必要がある(「ティーチング」というのだそうな)。誰が教えるのか? もちろん人だ。鈴鹿製作所でのトランスミッションドッキングの自動化についても、熟練の工員が四苦八苦しながら、ひょっとしたら何基ものエンジンやCVTをおしゃかにしながら、「ドッキング君1号」に作業を教えるのだろう。

確かに、自動化は工場からある程度の人を減らすことになるのだろうが、同時に工場で求められる人の役割も変えていく。恐らくは、よりエンジニアが、もしくはエンジニアの素質を持つ人材が求められるようになるはずだ。鈴鹿製作所の軸屋勇治所長いわく、そういう流れはずいぶん前からゆるやかに進んでおり、所内でも20代の若者から教育に取り組んでいるという。所内で育んだノウハウを海外工場に水平展開するときには、そうした人材が現地に派遣されるのだとか。これからは、デキるエンジニアは今まで以上にひっぱりダコになるに違いない。

では、日本の工場にそうしたエンジニアを引き止められるだけの雇用能力があるのか。あるいは、エンジニアを育てられる教育体制が整っているのか。自動化と情報化は当たり前の必須のハナシで、新興国が急速に成長する中で日本の工場が勝ち残るためには、今後はこうした人材確保と教育の能力も重要になってくるのかもしれない。

(文=webCGほった/写真=日産自動車、ネクセンタイヤ、本田技研工業/編集=堀田剛資)

ホンダの鈴鹿製作所にて、「N-BOX」(「N-VAN」かも?)のフロア部分を組み立てる溶接ロボット。“彼ら”の動きは、すべてロボットティーチングによって人が記録したものだ。
ホンダの鈴鹿製作所にて、「N-BOX」(「N-VAN」かも?)のフロア部分を組み立てる溶接ロボット。“彼ら”の動きは、すべてロボットティーチングによって人が記録したものだ。拡大
堀田 剛資

堀田 剛資

猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。

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