ホンダ・ヴェゼル ツーリング・Honda SENSING(FF/CVT)
ライバルはどこにいる? 2019.02.15 試乗記 ホンダのベストセラーSUV「ヴェゼル」に高性能グレード「ツーリング」が追加された。コンパクトなボディーを最高出力172psの1.5リッターVTECターボエンジンで操るうちに見えてきた、同車にとって最大のライバルとは!?デビューから5年で260万台をセールス
いま日本で一番売れているクルマは、軽の「ホンダN-BOX」だ。軽以外のホンダで一番売れているのは「フィット」、次に「フリード」、そして3番手がヴェゼルである。北米、欧州だと「HR-V」の名で販売されているヴェゼルは、ホンダの主要な世界戦略車でもあり、過去5年間でトータル260万台を売っている。
そのヴェゼルも2013年12月の国内発売からまる5年。2018年のセールスは年間6万台と堅調だが、「トヨタC-HR」などのライバルに押されて、ひところの勢いはない。そこで投入されたのが、1.5リッターのターボモデル「ツーリング・Honda SENSING」である。
1.5リッターVTECターボを搭載するこのクルマは、「ハイブリッド」ではないヴェゼルの最上級モデルにあたる。172psの最高出力は自然吸気1.5リッターの3割増し。220Nmの最大トルクは4割増し。それに合わせて剛性強化を施したボディーは、欧州仕様と同じものである。
これまでのところ、ヴェゼル販売の4WD比率は2割だという。ツーリングはFFのみ。ホンダセンシングを標準装備して、価格は290万3040円。一番高いハイブリッドの4WD(292万6000円)に迫る。
一頭地を抜く収容能力
雨模様の空の下に連れ出した新型ヴェゼルは、明るいブルーだった。「クリスタルブルーメタリック」という今回登場の新色だ。暗い色のバリエーションが多いヴェゼルとしては新鮮なカラーである。
内装は一転、シックなブラウン。ハイブリッドの最上級モデルにある茶色よりも濃い専用色だ。シートのほか、ダッシュボード、センターパネル、ドアパネルも白いステッチの入ったダークなブラウンのフェイクレザーにくるまれて、一見、本革内装風に見えるのがツーリングの特徴である。これでも飽き足らない人には、オプションで本革シートも用意されている。
リアシートから室内を一望しても、このブラウン内装が効いている。フィット派生のSUVとは思えない上質感がある。
ボディー全長は4330mm。ヴェゼルに代わってコンパクトSUVのベストセラーを快走するトヨタC-HRより少し小さいが、後席の余裕はトップクラスだ。
後席背もたれを倒すと、座面がダイブダウンして広い荷室になる。広いだけでなく、低床で、天地がたっぷりしている。センタータンクレイアウトのおかげだ。コンパクトSUVの中でもピカイチの収容能力を持つのは、いまだ色あせないヴェゼルの魅力である。
車名どおりの動力性能
1.5リッター4気筒VTECターボは、「ステップワゴン」初出の直噴ユニットである。ヴェゼル ツーリングのチューンは最近だと「シビックセダン」用(173ps)とほぼ同じだ。
試乗前のプレゼンで0-100km/hの加速性能について説明があった。ホンダは「NSX」ですら具体的な数値を教えてくれないが、ライバル車をABCでプロットした図表によると、ヴェゼル ツーリングはクラストップである。
その刷り込みで、てっきり高性能SUVかと思って走りだすと、それほどでもない。車重1360kgに対して172psだから、もちろんチカラは十分だが、60kg軽いシビックセダンのような快速は感じなかった。エクストラのターボパワーは、モデル名どおり、ツーリングを楽しむための余裕、くらいに考えたほうがよさそうだ。
ただ、エンジン音はけっこう勇ましいし、ステアリングの操舵力も手応えがある。ノンハイブリッドの1.5リッターシリーズにターボモデルを加えるのなら、もうちょっとはっきりスポーティーに振って、トンがらせてもよかったような気もする。いや、もうそんな時代ではないのかな。
せっかくなのでハイブリッドにも乗る
ヴェゼルのハイブリッド比率は6割だという。モーターなし1.5リッターも健闘している。しかも登場から歳月がたつと、フツーのほうがよく売れるという傾向がある。ツーリングもそうした追い風を当て込んだ高付加価値モデルだろう。
試乗会にはハイブリッドも用意されていた。運転支援機能のホンダセンシングが全車標準装備になった2018年2月以来のモデルなので、今回のネタではなかったのだが、比較のために「ハイブリッドZ・Honda SENSING」の4WDに乗ってみた。
試乗会場の出口には石畳があるのだが、まず乗り心地がいい。1インチアップの18インチホイールを履くツーリングより全般にしっとりした乗り味である。
車重は30kg重いが、パワーも遜色ない。低速でのトルク感はむしろツーリングをしのぐ。オンデマンド四駆だから、急発進時にぬれた路面で前輪が一瞬ホイールスピンすることもなかった。スポーティーに走るなら、ツーリングのCVTより7段DCTのほうが歯切れがよくて楽しい。というわけで、正味50分程度の試乗経験では、多くの点でハイブリッドのほうが好印象だった。
燃費は測れなかったが、スタート前に各車のトリップコンピューターをチェックすると、ツーリングの10km/リッター台に対して、ハイブリッド4WDは14km/リッター台だった。燃料経済性の優位は明確だ。それで価格は2万数千円の差。ヴェゼル ツーリングの最大のライバルは、やはりこの最上級ハイブリッドだと思う。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ホンダ・ヴェゼル ツーリング・Honda SENSING
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4340×1790×1605mm
ホイールベース:2610mm
車重:1360kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:172ps(127kW)/6600rpm
最大トルク:220Nm(22.4kgm)/4600rpm
タイヤ:(前)225/50R18 95V/(後)225/50R18 95V(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:17.6km/リッター(JC08モード)
価格:290万3040円/テスト車=319万4424円
オプション装備:Hondaインターナビ+リンクアップフリー+ETC(24万3000円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー(2万1384円)/フロアカーペットマット(2万7000円)
テスト車の走行距離:1264km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:10.2km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。