第1回:世界一クルマ好きといわれる国の最新モデル
輸入車チョイ乗りリポート~個性派ぞろいのイギリス編~
2019.02.20
JAIA輸入車試乗会2019
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輸入車の祭典「JAIA合同試乗会」の会場から、webCGメンバーが注目のモデルをご紹介! 記念すべき第1回は、コンパクトカーからスーパーカーまでを擁するイギリス編。「アストンマーティン・ヴァンテージ」「ジャガーXFスポーツブレイク プレステージ」「マクラーレン720Sラグジュアリー」、MINIの「クーパーD 5ドア」と「ジョンクーパーワークス クラブマン アドバンスドスタイル」の走りをリポートする。
何をさせても一流
アストンマーティン・ヴァンテージ……2138万4000円
JAIA合同試乗会の主たる試乗コースは、神奈川・大磯の市街地と制限速度70km/hの西湘バイパスである。今回記者は(担当編集サクライの陰謀により)スーパーカーやスーパースポーツばかりに乗せられたのだが、明らかにピントのズレたこの試乗コースにおいて、最も感銘を受けたのがアストンマーティン・ヴァンテージだった。
語彙(ごい)が貧弱で恐縮だが、とにかく超イイクルマ。借受場所から撮影エリアまで移動するだけでも、クルマのあまりの洗練っぷりに「アストンってこんなクルマだっけ!?」と意識を改めさせられた。
イグニッション時こそ「フヴァン!」と威勢のいい声を上げるものの、後はトーンを落として飼い主の指示を待つさまは優れた猟犬のごとし(ネコしか飼ったことないけど)。狭い場所での切り返しを試みても、こんな太いハイグリップタイヤを履いているのに、ハンドリングにほとんど違和感がない。
走らせるとサスペンションの動きはしなやかで、「ブレーキングからの下り坂からの急S字」という大磯港出口のカーブでも「すっすっ」とクルマが動くし、ブレーキからアクセルに足を移しかえるときにクルマが“すっぽぬける”こともない。ECUの人の心の読みが深い。マスプロダクトのスポーツカーに負けない洗練と、手作りカーならではの趣を併せ持つところが、ナウなアストンの魅力なのでしょう。
もちろん、510psの4リッターV8ターボを積んだスーパースポーツが“これだけ”なんてことはない。「ちょっとだけ……」とプチ加速を試してみると、「ふぁろろろ!」という高性能V8ならではの音を聞かせながらクルマが前へと突進し、たちまち法定速度にぶちあたる。ドライブモードを「スポーツ+」やら「トラック」やらに入れればさらに違った世界が見られるのだろうが、心置きなく試せるのはサーキットの中だけでしょう。
ケとハレを使い分ける二面性。流していても、いざ踏んづけても一流なのは、ナウなのに限らないアストンの魅力だと思う。
(文=webCG ほった/写真=峰 昌宏)
通が乗るべきスポーツワゴン
ジャガーXFスポーツブレイク プレステージ……775万円
「Fペース」や「Eペース」といったSUVが相次いでデビューしたものの、ジャガーといえば、やっぱりセダン。そんな英国ブランドに1車種だけあるニッチ……もとい、孤高のワゴンがXFスポーツブレイクだ。
メジャーなモデルじゃないとはいっても、2012年2月の初代誕生からは7年が経過。2代目となる現行型(2017年6月~)は一段とスタイリッシュになって、「XF」(セダン)の派生車種とはいわせないほど“主役感”がある。実際XFシリーズの国内受注は、直近(2018年4月~2019年1月)ではセダン44%に対してスポーツブレイクが56%。数の上でもワゴンが勝っているのだ。ユーザー像はどうかといえば、「ジャガーであれレンジローバーであれ、ゴロっとしたSUVは絶対イヤ」で、バブル期のワゴンブーム以来「荷室が広くて背の低いクルマがイチバン」と思われている方が多いそう。
肝心のラゲッジスペースは、5人乗車時でも幅104cm×奥行き108cm(フロア実測)と広々していて、4:2:4分割可倒式の後席を倒せば2m+αの長尺物も積めるようになるから(フロア部分は奥行き173cm)、ユーティリティー性に不満はないはず。その気になれば、出先で車中泊もできてしまう。キャビンも広い。小柄な筆者(身長163cm)が後席に座ると、ひざの前には25cm(=こぶしが縦に3つ並ぶ)のニールームができて、ラクラク足も組める。オプションの特大ガラスサンルーフを付ければ開放感もバツグンだ。
エアサス仕様の割には乗り心地がコツコツするけれど、それもスポーティーさの演出かな? という程度。車重1800kgオーバーの車体に対して、最高出力250psの2リッターターボは十分パワフルに感じられ、どこにでも気軽に出掛けたくなる。もっと余裕が欲しければ、一段とトルキーなディーゼル車を選ぶという手もある。
欧州に比べれば、まだまだ日本ではマイナーというスポーツブレイク。オン/オフ問わず暮らしを豊かにしてくれそうなスポーツワゴンということで、通のクルマ好きなら注目に値するクルマと思いますが、いかがでしょ?
(文=webCG 関/写真=峰 昌宏)
既存の枠では語れない
マクラーレン720Sラグジュアリー……3502万円
撮影エリアの駐車場へ向かう道程にて、T字路で直進のクルマに道を譲ってブレーキを踏んだら、エンジンがストンと止まった。え、アイドリングストップ付いていたの? 君。幹線道路に出ようとして右後方を確認したら(試乗車は左ハンドル)、開放的な後方視界に拍子抜けした。ミドシップなのにいろいろ見えすぎじゃないか? 君。
記者にとってマクラーレン720Sの試乗は戸惑いの連続だった。幸運にも今までに触れる機会のあった3000万円オーバーのスーパーカーって、なんというか“お祭り野郎”ばかりだったからだ。
乗り心地はバキバキと硬い。が、「650S」や下位(?)の「スポーツシリーズ」などでスーパーカーとは思えない快適さをかなえてきたマクラーレンであるからして、これは確実に確信犯だ。段差の衝撃をイッパツで吸収するので、不快感もない。適度なニュートラル領域を残しつつ、過去のモデルより格段にクイックに感じられるハンドリングも以下同文。背後から聞こえる不穏なサウンドといい、濃厚な「特別なものに乗ってる感」は漂わせつつ、運転に際してホントにストレスがない。多分全部、徹底的に計算尽くだからだ。
加速については、70km/hまでしか出せなかった今回の試乗では到底説明のしようがない。アクセルをどんと踏んだら、背後から「シュワーッ」と何かを吸い込むような音がして、そしてバーン! とエンジンが炸裂(さくれつ)する頃にはもう法定速度である。どうしようもありません。
いろいろ消化不良のまま撮影ポイントに戻り、深海魚みたいなエクステリアをためつすがめつ。お値段3502万円のスーパーカー、ブランドを象徴するフラッグシップの試乗なのに、こんなディテールを積み上げるような話でいいのかしら? でも理詰めで話をさせようって雰囲気を漂わせていたのは君の方だよ? 720S。
恐らくこのクルマをああだこうだ言うには、記者には圧倒的にスーパーカーの経験が足りなすぎる。というか、このクルマはスーパーカーなの? どちらかというと、妥協を排した理想の移動体とか、そっちのほうがしっくり来る気がするんだけど。
(文=webCG ほった/写真=田村 弥)
日本で一番売れてる輸入車!?
MINIクーパーD 5ドア……347万円
大きくなったといわれることの多いMINIだが、このクーパーD 5ドアでも全長は4000mmにすぎず、絶対的には小さいといってもいいサイズではないだろうか。調べてみると「日産ノート」よりも10cm短かった。
そのノートは日産車としては48年ぶりに登録車販売台数1位を獲得したそうだが、昨今、モデル別に見た輸入車国内販売台数で1位を獲得しているのはずっとMINIである。「3ドア」や「クロスオーバー」「クラブマン」もひっくるめた数字ではあるものの、2018年には約2万6000台が販売されている。その中にあって販売の主力となっている5ドア、さらにはBMWグループ(ジャパン)が注力しているディーゼルエンジン搭載モデルであることを考えると、今回のテスト車は、あるいは「日本で一番売れている輸入車」ということになるかもしれない。
1.5リッターディーゼルターボエンジンの最高出力は116ps、最大トルクは270Nm。1280kgのボディーを走らせるには十分以上で、アクセル操作に対する反応は鋭い。少し硬めの足まわりも相まって「ああ、MINIに乗っているんだ」と、こちらをやる気にさせてくれる。
細かなところでは、丸いヘッドランプをグルリと囲むデイタイムランニングライトがかわいらしい。古来より“丸目”を特徴としているMINIだが、これによってそのレベルが一段上がったといえるだろう。何しろ、ウインカーも丸く光るのである。
車両本体価格は347万円だが、テスト車には141万6000円分のオプション装備が付いていて、しめて488万6000円となっていた。ラインナップ全体でクルマの姿かたちが似ているので、こうした“トッピング”を豊富に用意することで、オーナーが自分だけのMINIを作れるように配慮されている……好意的にとらえるならば、こういう解釈もできる。
(文=webCG 藤沢/写真=田村 弥)
なぜか気になる!
MINIジョンクーパーワークス クラブマン アドバンスドスタイル……538万円
理由はハッキリしないけど、どうにも気になるクルマ。私にとってMINIクラブマンは、そんな一台のようである。
「ようである」ってまるで人ごとみたいである。なぜそう思ったのかは、去年のJAIAでも試乗していたから。そして、去年試乗していたことを、すっかり忘れていたからなのだ。
気になっているのは、その見た目なのか? はたまたその走りなのか?
MINIファミリーのルックスは“エラそう”じゃなくて好感がもてる。「こんなに大きくなってもミニなの?」とか、「バリエーション広げすぎでは?」とか、いろいろご意見はおありでしょうが、どのモデルもパッと見で「MINI」とわかるのがエラい。
なかでもクラブマンは、長~いボディーが“ぬぼーっ”とバランス悪くて(?)、長く乗ったら愛着が湧きそう。伝統を大切にしすぎた感じの観音開きのリアドアも、好きになれる要素のひとつ。アルカンターラのシートや各部にあしらわれた赤いステッチなど、手のかかった(=お金のかかった?)感じも、わかりやすく表現されている。
走りについては、クラシックMiniから受け継いだというゴーカートフィーリングを“BMW流に解釈”し、うまく表現していることが最大の特長だ。今回の試乗車は過激仕様の「ジョンクーパーワークス」だけに、足まわりは明確に「硬い」と言うべきセッティングだったけど、運転している限りにおいては「スポーティー」と言い換えられるレベルにとどまっている。231psと350Nmを発生する2リッターターボエンジンは、洗練を極めた8段ATと組み合わされ、いまや「元気な」というより「上質な」フィーリングで、MINIの走りを支える。
結局のところ、私にとってのMINIクラブマンの魅力とは、見た目と走りの妙なアンバランスさが、絶妙なところでバランスして、唯一無二の個性となっていること。言い換えれば、「愛すべきヘンさ」なのでしょうか?
(文=webCG こんどー/写真=田村 弥)

webCG 編集部
1962年創刊の自動車専門誌『CAR GRAPHIC』のインターネットサイトとして、1998年6月にオープンした『webCG』。ニューモデル情報はもちろん、プロフェッショナルによる試乗記やクルマにまつわる読み物など、クルマ好きに向けて日々情報を発信中です。