ボルボV60クロスカントリーT5 AWD(4WD/8AT)
アンタ、輝いてるぜ 2019.03.04 試乗記 ボルボ最新のミドルクラスワゴン「V60」をベースに、オフロード走破性能を高めた「V60クロスカントリー」。北極圏の街ルーレオで試乗した新しいクロスオーバーモデルは、厳しい環境下でこそ力を発揮する、頼りがいのあるクルマに仕上がっていた。いいクルマでしたわ
ボスニア湾の突き当たり、スウェーデンはルーレオで試乗したボルボV60クロスカントリーは、ひと言で申し上げてスゴくいいクルマだった。この手のクルマとしてあるべき機能をきちんと備えた、北欧的良心にあふれたクルマだったと思う。
ここで言う“この手のクルマ”というのはすなわち、普通のワゴンをかさ上げしてクロカン風に仕立てたクルマだ。古くはアメリカの「AMCイーグル」あたりを起源とするジャンルだが、認知が広がったのは1990年代も半ばに差し掛かってから。当時は本格的なSUVを持たないメーカーがお茶を濁すために……という意味合いもあったようだが、“機能<ファッション”なSUVが氾濫するようになった今では、むしろこうしたモデルのほうが中身に凝っていたりする。決して安いクルマではないし、ベースとなるワゴンとの差別化を図り、機能的にも付加価値を与える必要があるからだろう。
ニッチなジャンルだけに、ラインナップするメーカー/ブランドも、スバルやアウディ、フォルクスワーゲンにオペル&ビュイック、メルセデス・ベンツと、プレミアムどころや四駆イメージの強いところが多い。
ボルボもまた、そうしたメーカー/ブランドのひとつだ。記者の記憶が確かなら、彼らがこうしたクルマをつくり始めたのは1997年のことで、時期的にはスバルの後、アウディの前といったあたりだったはず。パイオニアとは言わないまでも、このジャンルでは先発組だった。
そんな「この道二十余年」のメーカーが手がけた最新作が、今回のお題、V60クロスカントリーである。
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氷雪路だからこそありがたい運転のしやすさ
あらためて言うまでもないが、V60クロスカントリーは現行型V60の派生モデルであり、その出来栄えは多分にベースモデルに依(よ)っている。特に今回の試乗で印象に残った“ベース車ゆずり”の美点は、後席の乗車環境のよさだった。と言っても、脚が伸ばせるほど広いとか、シートがめっちゃフカフカしてるとか、そういう訳ではない。外乱の多い氷雪路という悪条件下にあっても、前席とさほど乗り心地が変わらず、またちゃんと静かだったのだ。それこそ、運転席と助手席の会話が明瞭に聞き取れるくらいに。
もうひとつ、これもベース車ゆずり……というかボルボ「T5」ユニットの美点として感じられたのが、加減速のしやすさである。現地ではディーゼルモデルも存在し、将来的にはプラグインハイブリッド車も用意されるといわれているが、恐らくは今回試乗した純ガソリン車の「T5 AWD」が、ドライバビリティー的にはイチバンだと思う。あくまで想像ですけど。
アクセルペダルをじわ~っと踏み込んでいくと、その通りに駆動力が発生していく。などと書くと「そりゃ、どんなクルマでも同じでしょ」と言われそうだが、いやいや。ECUがちゃんとマッピングされていないのか、特定の回転域で細かな操作に反応しなくなるエンジンって、今でも結構あるんですよ。ペダル側の調律もうまくて、ガタゴトと揺さぶられた拍子にドライバーのペダルにかける踏力が変わって、それに応じてクルマがギクシャク……なんてこともなかった。
いやはや。同日試乗した「V60 T8 Twin Engine AWD」もなかなかに運転しやすいクルマだったが、この環境下では明らかにV60クロスカントリーに分がありましたな。当然だけど。
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厳しい環境で生きるしなやかな足さばき
一方で、乗り心地に関しては明確にV60と違い、どちらかといえばスポーティーなベース車に対し、こちらは路面からの入力を優しく丸めていなす風に仕立てられていた。単に“ソフト”というのともちょっと違って、大きなうねりに対しては、すいっ、すいっと車体を上下させながら、滑らかに走っていく感じだ(擬態語頼りで申し訳ない)。
エンジニア氏に聞いたところ、V60クロスカントリーはアシ側で60mm、タイヤサイズで15mm車高を上げており、また減衰を8%ソフトにしたスプリングに合わせて、ダンパーやスタビライザーも調整しているという。
この足まわりが、ルーレオの氷雪路ではまことにイイ感じなのだ。降雪地在住の方なら分かると思うが、氷雪路って常にデコボコしているだけでなく、アタリが硬くてザラザラしていて、滑らないシチュエーションでも厄介なものなのである。乗り心地開発のエンジニアからしたら、いやらしい路面の筆頭でしょう。そこをV60クロスカントリーは、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で穏やかに走る。凹凸やら路面状況やらといった必要な情報は伝えてくるものの、ナーバスではなく、怖くもない。もちろん鋭い突き上げや、ステアリングの微振動、内装のきしみ、だらしないボディーの“揺れ残り”などとも無縁だ。
「ぬた」っという路面に対するアタリ感は、試乗車が履いていたミシュラン製スタッドタイヤの恩恵だろうが、その分を差し引いても、見ず知らずの異国の雪道を終始安心して走れたのは、このクルマだったからだろう。
“日常系オフローダー”にとって大切なこと
せっかくなので、悪路で重宝するアシスト装備についても触れておきたい。今回の試乗ではルーレオ市街の公道に加え、氷海の上に特設コースも用意されていたのだが、そこにはちょっとした“アスレチック”が含まれていたのだ。
滑りやすい下り坂で重宝するヒルディセントコントロールは、単に“ある”というだけでなく「オフロードモードに入れとけばOK」という使いやすさも好印象。プレスリリースでは言及されていなかったが、リアタイヤにはちゃんと“疑似LSD”が付いていて、片輪が宙に浮くような状態でもそのタイヤの空転を防ぎ、ゆっくりと脱出してみせた。
取材陣をアテンドしたインポーターの担当者は、「こんな機能、使う機会はないとは思うけど」と謙遜していたが、日系メーカーのエンジニアからも話を聞く機会が多い記者の見解はちと違う。運転がへたっぴなワタクシのこと、もし降雪地に引っ越すことになったら、けっこうな頻度でこうした機能の世話になるだろう。自宅の敷地と道路をつなぐスロープや、除雪車が積み上げた道端のささやかな土手など、日常のいたる所にトラップは潜んでいる。
前項までで紹介した走りっぷりといい、記者がV60クロスカントリーに好印象を覚えたのは、そうした現実的なシーンにおいて頼りになりそうなクルマだったからだ。この手のクロスオーバーはもちろん、大抵のSUVにとって重要なのは、未踏の極地を走ることではない。日常において想定される悪条件の下で、いかにストレスなくドライバーを目的地に届けられるかだろう。
今回の取材では、まさにそうしたシチュエーションで試乗できたのがありがたかった。母国スウェーデンで、しかも冬にと、いろんな意味で“ホームグラウンド”な舞台において、V60クロスカントリーは実に生き生きとしていた。輝いてた。悪路をへっぴり腰で走る本末転倒なSUVどもに、ぜひともツメの垢(あか)を煎じて飲ませたい。
(文=堀田剛資/写真=ボルボ・カーズ、webCG/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ボルボV60クロスカントリーT5 AWD
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4784×1850×1499mm
ホイールベース:2875mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:250ps(184kW)/5500rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1800-4800rpm
タイヤ:(前)235/45R19 99H/(後)235/45R19 99H(ミシュランX-ICEノース4)
燃費:7.8-8.7リッター/100km(11.5-12.8km/リッター、WLTPモード)
価格:--円
オプション装備:--
※数値は欧州仕様
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:688km
テスト形態:ロードインプレッション/トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。