シボレー・カマロLT RSローンチエディション(FR/8AT)
アメリカの良心 2019.03.20 試乗記 アメリカを代表するスペシャリティークーペ「シボレー・カマロ」が、日本導入から1年にしてマイナーチェンジ。2リッターターボエンジンを搭載した「LT RS」の試乗を通し、いまや希少なそのキャラクターと、良質なFRクーペならではの走りをリポートする。定石どおりのマイナーチェンジ
先ごろ日本に上陸したカマロのマイナーチェンジモデルは2018年11月の販売開始だったから、いわゆる2019年モデルにあたる。そんなことより、現行の6代目カマロがわが日本で発売されたのは2017年11月のことだ。つまり、カマロは上陸からたった1年(!)で、けっこう大規模な整形手術が施されたことになる。普通に考えるとこれは異常事態だ。
ただ、異常なのは日本にかぎったことである。米本国では、6代目カマロは2015年に2016年モデルとして初登場した。つまり、今回のマイナーチェンジは本国ではデビュー4年目というタイミングだから、まあ伝統的なルーティンワークといえなくもない。ちなみにカマロの宿敵である「フォード・マスタング」の現行6代目は2015年モデルでデビューして、2018年モデルで最初の手直し(カマロよりはプチ整形っぽいが)を受けている。昨今のカマロはマスタングをちょうど1年遅れで追いかけるようなカタチになっている。
こうして大幅に強力なイメチェン感を醸し出すことに成功したカマロだが、その手法やセンスはあくまでオーソドックスだ。
このLT RSではプレスパネル部品の変更はないようで、刷新されたのは前後のバンパーなどの樹脂部品と灯火ユニットだけだ。それに、フェイスの大半を覆う大開口(風)のグリルデザインは最近のハヤリである。それもよく見るとバンパー中央部分をブラックアウトさせた視覚効果が主体であり、実際の開口面積は従来とあまり変わっていない。
興味深いのはバンパー中央のボウタイエンブレムが“型抜き”されていることで、なるほど、抜いた分だけの開口面積ははっきり増えている(笑)。ただ、これだけで「エアフローが毎分3立方メートル増加。長時間のサーキット走行では冷却水/エンジンオイル温度を1.2度低減」できるそうだから、実際は笑いごとでない。
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本国仕様では直4グレードの“全部盛り”に相当
こうして最新モードに更新されたエクステリア以外に、今回の変更点はあまり多くない。リアカメラ映像が投影できるスマートルームミラーが多機能になって、インフォテインメント用ディスプレイの解像度が上がったり、内装細部を鮮やかに光らせる照明色が増えたり……といった程度である。V8エンジンの「SS」では変速機などが改良されたそうだが、この2リッター4気筒ターボを積むLT RSの場合、走行メカ方面の変更はとくに公表されていない。
ところで、この日本仕様LT RSの装備内容(オープンの「コンバーチブル」のそれも基本的に同じ)は、本国でいう「2LT」に外装オプションの「RSパッケージ」を追加したものと考えていい。2LTとは4気筒(や本国にあるV6)搭載車の最上級トリムグレードにあたる。そしてRSパッケージには、LEDヘッドランプや専用グリルメッシュ、20インチの5スポークホイール、トランクリッドスポイラー、ボディー同色シャークフィンアンテナなどが含まれる。含まれる。さらに細かくいうと、ブレンボ製フロントブレーキも本国ではオプションだ。
ただ、今回の試乗個体はマイナーチェンジ記念で20台(SSは30台)の限定発売となった「ローンチエディション」で、その価格はカタログモデルより税込みで32万4000円高い。ローンチエディションのローンチエディションたる部分はカラーリング関係にかぎられる。具体的には、外板色が「クラッシュ」というメタリックオレンジになるほか、ボンネットからルーフ、トランクリッドにかけた黒いセンターデカール、そして黒く塗装されたホイールである。
ローンチエディション専用装備はすべて本国にあるオプションから特別にセレクトされたもので、本国ではオレンジの車体色とセンターデカールがそれぞれ4~5万円、そして20インチのブラックホイールが20万円強。つまり、このローンチエディション価格の追加分(税抜きだと30万円)は米本国のオプション価格のほぼ額面どおりのお会計となっている。
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今時のGMならではの理知的なパッケージング
というわけで、ローンチエディションも走りだしてしまえば、手触りや味わい、そして走りはカタログモデルのLT RSと選ぶところはないはずである。この最新カマロの4気筒クーペは、なんとなれば本格スポーツカーを名乗ってもおかしくない程度には速く、それなのにとがったところがまるでなく、どんな道でどう運転しようが心地よい。そして、今回のようにまる2日間も生活をともにして慣れてしまえば、日本の交通環境でもすばらしく乗りやすい。
この種のアメリカンクーペをいまだに20世紀当時のイメージのまま見ている人にとっては、最新カマロは意外なほど小さい。最新のカマロは前記のように通算6代目だが、その車体サイズは2世代連続で少しずつダウンサイジングしている。そうしてたどり着いた4785mmという全長は、日本だと「日産スカイライン」より短い。まあ、1900mmの全幅には身構えてしまう向きもあろうが、それでも、たとえば「レクサスES」より35mm幅広いだけということもできる。
見るからに天地に薄いキャビンと小さなウィンドウゆえに、室内のオーラに流されてドラポジを決めてしまうと、どうしても寝そべったストレートアーム姿勢になって、実寸以上にクルマを大きく感じてしまう。しかし、各部をきちんと理詰めで調整すれば、どんな体形でも正しくアップライトな運転姿勢を取ることが可能。そうすれば、カマロのサイズは体感的にも大きく感じなくなる。このあたりの理知的なパッケージングは、キャデラックも含めて、GMがグローバルに問うべく高級車や高性能車を想定して開発したアルファアーキテクチャーの効能だろう。
雰囲気だけのクルマではない
かつてはアメリカンマッスルの代名詞だったカマロが4気筒……なんて表現をすると、キバをぬかれたと錯覚するかもしれない。しかし、実際のカマロLT RSがかなりの俊足馬であることは、数字で容易に想像できる。
キャデラックでも主力エンジンとなっている2リッターターボは「LTG」と呼ばれるもので、カマロでのピーク性能は275ps/400Nm。この数字をたとえばBMWにあてはめると、新型「330i Mスポーツ」とほぼ同じだ(出力が10ps低いだけ)。
しかも、カマロは意外に軽い。その1560kgという車両重量は同等性能のエンジンを積む330i Mスポーツより成人男性ひとり分=70kgも軽いことになる。全長や全幅はカマロのほうが大きいのに……である。
まあ、カマロは2ドアで3シリーズは4ドアだし、装備のちがいもあるので、どっちのクルマが技術的にどうこう……と優劣をつけるつもりはない。しかし、このクルマが雰囲気だけのプロムナードカーではけっしてないことは、これで納得いただけると思う。さらにいうと、8段あるギア比も全体にカマロのほうが低い。
手元のスイッチで各部の味つけを統合可変する「ドライブモードセレクター」には、「ツーリング(=ノーマル)」「スポーツ」「雪/凍結」の3モードがあり、このクルマではパワーステアリングやスロットル、変速機の制御が変わる。ただ、そのセッティングはけっこう生真面目だ。
前記のようにエンジンはそもそも十二分にパワフルだし、上級グレードのSSのような可変ダンパー(は、その気になれば乗り味を激変させられる部品である)も備わらないから、ツーリングモードでも走りはかなりスポーツカー的で、エンジンを回すとけっこう練り込まれた快音を奏でる。そして、逆にスポーツモードでも極端なジャジャ馬になるわけでもない。つまり、どのモードも真面目につくりこんだからか、結果的にあまり差がない。
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良質なFRならではの走り味
カマロで感心したのは、シャシーやパワートレインに特別な電子制御ハイテクがあるわけでもなく、またオールシーズンタイヤを履いていながら、このパワフルな動力性能を完全に支配下に置いていることだ。
サスペンションの仕立てはいかにも最近のスポーツ物件らしく、ロール剛性が高くて上屋の動きは基本的に少なく、あらゆる場面でソリッドな手応えに終始する。市街地では少し硬めに感じる乗り心地も、100km/h近くなるといよいよ本領発揮としなやかさを増す高速タイプだ。以前試乗したコンバーチブルと比較しても、当たり前だが、クーペのほうが硬質でタイト、そして軽快にして俊敏である。
ただ、そういう表面上の味つけ以前に、この4気筒カマロは完全なシャシーファスターカーである。それと同時に、正確でリニアなステアリングと、それに追従するようにきれいに曲がっていくコーナリングライン、そして前にきっちり蹴り出すトラクション……といった良質なFRならではの味わいが、街中を軽く流しているだけでもにじみ出る。
そんな基本フィジカル能力の高いFRシャシーに、グリップ力がほどほどのオールシーズンタイヤと、53:47という絶妙な前後重量バランス(50:50よりわずかに前寄り配分のほうがステアリングレスポンスは軽快になる傾向)が与えられたカマロは、とにかく軽快に曲がる。しかも、エンジンもタイヤグリップもあくまで寸止めが効いているので、4輪もろともヒョイッと曲がっていく……。高速や山道を7~8割のペースで流して、こんなに心地よくカタルシスが得られるFRは最近めずらしい。
カマロLT RSはすべてがちょうどいい。2ドアでありながら、後席が大人の実用に耐えるレベルであることも、これ1台ですべての生活をまかなう向きにはちょうどいい。
文化財として保護すべき
考えてみれば、こういう大きすぎず小さすぎず、大人が4人乗れる実用性があって、そこそこにスポーツカーではあっても激しすぎない2ドアクーペは、あらためて貴重である。
アメリカでは、カマロにマスタング、そして「ダッジ・チャレンジャー」という御三家がいまだ現役ではあるが、日本ではマスタング(というか、フォードそのもの)はすでに撤退し、チャレンジャーにいたっては一度も導入されていない。日本メーカーでも「レクサスRC」が残ってはいるが、さすがに存在感が薄れつつあるし、かつての「スカイラインクーペ」はその最新型が今も日本で生産されているのに日本では売られない。
これ以外の日本の2ドアは、復活した「トヨタ・スープラ」も含めて2人乗りだったり、後席があっても2+2だったり、やけに本気すぎるスポーツカーばかりだ。まあ、こういう軽妙なスペシャリティークーペというジャンルそのものが斜陽なのだから仕方ないところではあるけれど。
カマロ以外で唯一残されたクーペの選択肢はドイツ御三家だ。御三家にはなるほどBMWの「4シリーズ」に「メルセデス・ベンツCクラス クーペ」、「アウディA5」と、機能的にはカマロと比較できるクーペがそろう。
ただ、このカマロLT RSはカタログモデルなら車両本体価格529万2000円。対して、ドイツ御三家の同クラスクーペは安くても500万円台後半で、ボリュームゾーンは600万円台以上。性能的にカマロLT RSに近い「430iクーペ」にいたっては700万円台である。価格だけでいえばBMWだと「220iクーペ」がガチンコに近い価格になるが、これだとサイズもエンジン性能も明らかにカマロより格下である。
まあ、シボレーはあくまでポピュラーブランドであり、ドイツ御三家クーペの各部の質感や高級感を見れば、単純に割高と断ずることもできないが、カマロの性能や存在感、品質を考えると、これは素直に安い。しつこいようだが、こんなクルマは日本ではもはや唯一無二だ。積極的に保護すべき自動車文化である。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
シボレー・カマロLT RSローンチエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4785×1900×1350mm
ホイールベース:2810mm
車重:1560kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:275ps(202kW)/5500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/3000-4000rpm
タイヤ:(前)245/40ZR20 95V M+S/(後)245/40ZR20 95V M+S(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック)
燃費:シティー=22mpg(約9.4km/リッター)、ハイウェイ=31mpg(約13.2km/リッター)(米国EPA値)
価格:561万6000円/テスト車=566万4600円
オプション装備:フロアマット(4万8600円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1996km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:617.9km
使用燃料:67.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.1km/リッター(満タン法)/10.9リッター/100km(約9.2km/リッター、車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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