第131回:失敗続きのタイヤ選び
2019.04.16 カーマニア人間国宝への道“エリート特急”のタイヤ交換
我が愛車・エリート特急(BMW 320dスポーツ)のオドメーターが4万8000kmを超えた。車齢も5歳に近づき、タイヤも熟年。乗り心地やウエット性能の劣化を感じるようになったので、交換することにしました。
タイヤ交換は、カーマニアの大きな楽しみのひとつだ。「次はどんなタイヤにしようかな~」と考えるのは、クルマの買い替えの次くらいにわくわくする。
ただBMWの場合、ランフラットというシバリがある。
以前はランフラットから普通のラジアルにチェンジすると、乗り心地が良くなって値段もお安く、絶対そっちがイイ! と言われたが、近年は違ってきている。たぶん。
以前乗っていた「335iカブリオレ」(E90系)の時は、購入時(走行6万km強)にタイヤが2分山で、乗り心地もかなりドシンバタンだった。そこで買ってすぐに最高級ラグジュアリー系普通タイヤ「レグノ」に交換したが、今度はタイヤが柔らかすぎて、ポヨンポヨンのフワンフワンになってしまった。ランフラットから普通レグノへの交換は、あまりにも極端すぎたと反省しきりであった。
現在のF30系は、ランフラットでも極めて乗り心地がイイ。タイヤの進化もあるだろうが、これを普通のラジアルにしたら、おそらくバランスは崩れる。現在のBMWは、どのモデルもおおむね同様だろうと推察する。
かといって同じ銘柄を選ぶのは、カーマニアとしてあまりにも芸がない。せっかく高いカネ払ってタイヤを買うんだから、別のヤツを味わってみたい!
選択肢にはどんなもんがあるのか。
調べたところ、案外種類が少ないんですね。
ベンツ承認上等!
225/50R17のランフラット選択肢一覧(主なもの)
ブリヂストン・ポテンザS001(純正)
ミシュラン・プライマシー3
ピレリ・チントゥラートP7
ダンロップSP SPORT MAXX050+
ヨコハマ・アドバンスポーツZ・P・S
熟慮の末、「ミシュラン・プライマシー3」を選ぶことにした。ポテンザに比べるとコンフォート系だが、中高年だけにコンフォート上等。せっかく交換するなら乗り味をしっかり変えてみたい。世界的ブランドのミシュランなら、ハズレは絶対ないだろう!
タイヤ屋さんに相談すると、「プライマシー3のランフラットはベンツ承認ですけど」とひと言。ベンツ承認上等! BMWとベンツを組み合わせたらどうなるか興味津々だぜ!
お値段は4本で11万4000円。ランフラットだけにお安くないが、なにせ愛車は“エリート特急”だ。これくらいは仕方あるまい。ちなみにポテンザだと13万円也の見積もりでした。
タイヤ交換直後はエア圧が落ちるので、指定よりかなり高めの2.5kg/cm²に設定。乗り心地は固くなるだろうが、しばらく我慢だ。
交換が終了して、走りだした瞬間。
「げえっ、パワステが軽いっ!」
まるでサマータイヤからスタッドレスに替えたように軽い。いやそれ以上かも! 乗り心地も非常にソフトになった。まさかこんなに変わるとは……。普段乗りには悪くないが、重めのパワステの重厚な手応えがエリートっぽいと自慢だったエリート特急が、とっても普通のクルマになってしまった感がなきにしもあらず。
失敗! ポテンザが恋しい
早速箱根の試乗会に遠征してみたところ、以前のレグノの失敗同様、高速巡行でポヨンポヨンとピッチングの増大を感じる! 同行した担当Kも、「後席の上下動が明らかに増してます!」と断言。
ステアリングの応答性も、明らかに落ちている。ちょっと昔のスタッドレスみたいな腰砕け感! ポテンザ時代、切ればヒラリと軽快に向きを変えた我がエリート特急が、明らかにグンニャリしてしまった!
担当K:空気圧落としてみたらどうですか? 接地面積が増えるでしょう。
清水:いやー、まさか……。
そのまさかだった。2.5から2.3に、さらに2.1へと落としてみたら、ステアリングの手応えは明らかに増し、ソフトすぎなポヨンポヨン感も消えた! こんなにビンカンなのぉ!?
しかし、コーナーでの初期腰砕け感は相変わらず。高速巡行では直進性の悪化も鮮明で、ちょこまかと修正舵すら必要だ。BMWにメルセデスを合体させるとこんなんなるのか!? まるで水と油やんけ!
担当K:これはエリート特急からエリート準急に格下げですね……。
流し撮り職人:こんなケチがついたら、もうクルマごと買い替えたらどうですか。
人ごとだと思ってほざきやがって!
近年は、BMWとメルセデスの乗り味は非常に接近しているが、それでもやっぱりメルセデスのステアリングには、確信犯的にダルな部分がある。それがリラックスして巡行できるメルセデスの美点でもある。それに合わせて開発されたタイヤは、BMW承認タイヤとこれほど違うってことスか!? よくわかりませんが。
どうしよう。ポテンザが恋しい。でも11万4000円をドブに捨てるのはあまりにも悲しい。そのようにちっちゃい器の、57歳カーマニアなのであった。
(※注 すべて個人の感想です)
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。