第570回:“ふらつき”にサヨナラ!?
ダンロップのミニバン専用タイヤを試す
2019.04.25
エディターから一言
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背の高いミニバンでもふらつきにくく、安全・快適に寄与するというダンロップの新タイヤ「エナセーブRV505」が登場。最新のテクノロジーは、乗り味をどのように変えたのか。一般道とテストコースでの試走を通して確かめた。
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日本固有のクルマのために
国内マーケットの縮小を物語るかのように、次々と姿を消しつつある“日本メーカーによる日本市場のため”のクルマ。そうした中で、まだ何とか目立った存在感をアピールし続けているのが、「ミニバン」や「軽自動車」といったモデルたちだ。
それは、いうなれば、「日本独自の需要や規格に基づいた“ガラパゴスカー”」とも紹介できる。加えれば、これらが多くの日本のユーザーの好みを反映させた内容の持ち主であることも、良くも悪くも認めざるを得ない。
今回紹介するダンロップの新タイヤは、ずばりそうした“ドメスティックな売れ筋モデル”をターゲットとした、日本市場専売の商品。「より安全・快適が続く ミニバン専用は“ふんばり力”で選ぶ」というキャッチコピーを掲げ、2019年6月1日に販売開始となるエナセーブRV505だ。
車種別・用途別にさまざまなタイヤを取りそろえるダンロップの商品群において、「エナセーブ」という名称が与えられるのは、主に転がり抵抗の小ささに照準を合わせた、いわゆる“エコタイヤ”。販売のボリュームゾーンを占めるそんなエナセーブのラインナップには、ミニバンをターゲットとしたタイヤもすでに存在している。2015年に発売された「RV504」がそれだ。
商品名からも推測できるように、今回のRV505は4年前にデビューしたRV504の後継となるモデル。「現在でもミニバンが苦手とする“ふらつき”感をさらに抑制するのが、新タイヤの大きな狙いだった」と開発陣はアピールしている。
見かけからも違いがわかる
ミニバン特有の“ふらつき”を抑えながら、低燃費とロングライフも売り物とする――そんな開発の狙いはRV504とRV505で共通する一方で、「あ、これはちょっと考え方を変えてきたナ」と理解したのは、両者のトレッドパターンを見比べた時だった。
タイヤ中央部を境に左右で非対称のトレッドパターンを採用するのは両者共通。コーナリング時に大きな荷重が掛かるアウト側のブロックを大型化することでコーナリング時の“ふんばり力”を高めようという思想を、まずはこの部分から読み取ることができる。
一方でRV505では、最も外側となるブロック以外もRV504より大型化されている。この点からも「より高い操縦安定性を目指している」という考え方が明白だ。
RV505では縦方向のストレートグルーブが、215幅以上のアイテムでは3本、205幅以下のアイテムでは2本設定されており、グルーブが4本だったRV504に比べて、グルーブに挟まれた各ブロックの幅がよりワイド化されたデザインになっている。すなわち、一つひとつのブロックの剛性強化を図ったことが明らかで、まずはそうした新たなトレッドパターンを採用することによって、コーナリング時や横風を受けた際の“ふらつき”の減少を狙っていると予想できる。
さらに、目視では分かりにくいものの、195幅サイズ以上のセンターリブのブロック外側に、「プラスリブ」と呼ばれる新技術が盛り込まれたのも特徴。これは、特に残り溝が深い状態(新品に近い状態)でのブロック倒れ込みを抑制することで、“ふらつき”を防ぐ効果を狙ったものだ。
一方で、こうしたブロック剛性のアップや、荷重をしっかり支えるために新採用されたフィラー部分の強化などが影響を及ぼすと考えられる快適性の低下に対しては、接地面形状の角を落とし、中央部分から接地させることで衝撃を緩和する設計がなされている。ブロックの大型化で悪影響を受けそうなパターンノイズに関しても、配列の見直しで周波数を分散させることによって、耳に届くボリュームを低減させるといった新たな工夫が盛り込まれた。
“走り重視”のドライバー向き
そんな新タイヤを装着してのチェック走行は、トヨタの「アルファード」や「ノア」、フォルクスワーゲンの「トゥーラン」といったミニバンや、「ルノー・カングー」「スズキ・スペーシア」といったボディーの“縦(=高さ)横比”が大きいモデルを用いて行った。
いずれのモデルでもまずは共通して感じられたのは、大きめのブロックを採用することで危惧されたパターンノイズが、実際にはほとんど気にならないということだった。特に、2人のゲストとそれらの人間が持ち込んだ荷物を想定したトータル160kgのウェイトを2列目シートとラゲッジスペースに搭載した、RV504とRV505を装着したアルファード同士での比較では、むしろ新タイヤのほうが「静粛性は高まっている」と感じられた。車両個体の差が影響した可能性も完全には排除できないものの、「RV505を装着したモデルの方が、ステアリングに伝わる反力が強くなった」というのも、確かな印象の違いだった。
一方、RV505を装着しての単独での印象ではあるものの、トゥーランやノアでは「ちょっと乗り味が硬いかな」という印象を抱いたのも事実である。
そもそも、純正のタイヤを装着していても硬質な乗り味がひとつの特徴であるトゥーランの場合は、そうした印象もいわば“想定内”といえる。
一方ノアの場合は、車両そのもののボディー剛性の低さが振動の減衰の鈍さにつながってしまった印象だ。このモデルの場合、快適性は「“走り”を犠牲にしたタイヤを純正装着することで確保されていた」という感が強い。そのギリギリのラインを、やや“走り方向”に振って設計されたRV505を装着することで、越えてしまったという印象だった。
さらに、軽自動車のスペーシアの場合には「まだ“ふらつき”感が気になった」というのが正直な感想。トレッドに対して極端に背が高いというディメンションを持つこのモデルの場合、「もはやタイヤのみではどうすることもできない」というのが現実だろう。
こうして、全般的には「ノイズ面が悪化することなく、走りのしっかり感が向上する」と、そんな評価を与えたくなるのがRV505という新商品の仕上がりだった。裏を返せば、「多少の“ふらつき”感は許すので、とにかく路面への当たりがソフトなほうがいい」といったユーザーには、また別の選択肢がありそうとも感じられたということだ。
(文=河村康彦/写真=住友ゴム工業/編集=近藤 俊)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。