BMW M850i xDriveクーペ(4WD/8AT)
源泉かけ流し 2019.05.29 試乗記 踏めば速いことは間違いないが、この「BMW M850i xDriveクーペ」にそうした乗り方はふさわしくない。真に味わうべきはスピードではなく、あふれ出るパワーと最新のテクノロジーがもたらす、ゆるりとした贅沢(ぜいたく)なひとときではないだろうか。復活した「8シリーズ」
いきなり身もふたもない言い方かもしれないが、1700万円あまりもするBMWのフラッグシップクーペに何かしら不足に感じるところがあるわけがない。何しろほぼ20年ぶりに復活した「ザ・8シリーズ」である。素晴らしくて当たり前、そうでなければBMWの沽券(こけん)にかかわるというものだ。ご存じのように、これまでは「6シリーズ」がハイエンドラグジュアリークーペの需要を受け持ってきたが、すでにこの2ドアクーペに加えて「コンバーチブル」も発表されており、また4ドアの「グランクーペ」が追加されることになっている。さらにサーキットではいち早くGTレーシングカー仕様が猛威を振るっている「M8」の登場も明らかにされており、今後、BMWの豪華高性能クーペシリーズは「8」で統一されることになる。
8シリーズのようなトップエンドモデルは、台数を売るというよりも、さすがはBMWの最高峰、と世の中をうならせ、羨望(せんぼう)のまなざしを集めることが第一の仕事である。それゆえに、伸び伸びとした優雅で大柄なボディーの中には、可変駆動力配分4WD機構の「xDrive」や後輪操舵システムから、最新の運転支援システムやインフォテインメントまで、BMWのほとんどあらゆる技術が詰め込まれている。
BMWのスポーティーさとラグジュアリーを象徴するフラッグシップクーペの全長はおよそ4.9m、全幅1.9m、ホイールベース2820mmで、そのボディーサイズを目いっぱいに使ったいかにも贅沢なクーペスタイルが特徴だ。シュッとシャープに下るルーフラインと細くなった「ホフマイスターキンク」(Cピラー基部)が新しい世代を感じさせる。ボディーはもちろんカーボンファイバーやアルミ、スチール材を組み合わせたカーボンコアボディーで、ボンネットやドア、ルーフパネルはアルミ製(ただしこのクルマはオプションのカーボンルーフ付き)だが、抑揚が強いリアフェンダーまわりだけは深絞りのためにあえてスチール製だという。
思わず声が出るような
つい先日、3リッター直6ディーゼルターボを積む「840d xDrive」も追加発売されたが、いち早く上陸したM850iは、Vバンクの間に2基のツインスクロールターボを配置した4.4リッターV8ツインターボエンジンを搭載、燃料噴射圧アップなどさまざまな改良を受け従来型(改良前の「7シリーズ」などに搭載)よりも80ps増しの530ps/5500rpmの最高出力と750Nm/1800-4600rpmの最大トルクを生み出す。
このエンジンのパワーの湧き出し方とワイドレンジ化された8段スポーツATの洗練度はさすがというべきもの。トップエンドの圧倒的かつきめ細かなパワーもさることながら、低中速域での滑らかな柔軟性が素晴らしい。例えて言うなら、源泉かけ流しの、浴槽いっぱいにあふれるぐらいのお湯を、本当にドバーッとあふれさせて体を沈めて「ああ、贅沢だ」と思わず漏らすあの瞬間に似ている。ふんだんで強力で打てば響くレスポンスを持ちながら、荒々しさや粗雑な感触はみじんもない。滑らかにあふれだすパワーは、すっきり透明な上に、ピリピリしないしっとりとした肌触りなのである。このようなラグジュアリークラスに求められるのはパワーだけでなく、ゆっくりと走る際のジェントルで融通無碍(むげ)のホスピタリティーだとあらためて実感させられる。もちろん、踏めば驚くほどのダッシュを見せる。4WDのトラクション能力もあって、ほぼ2tの車重にもかかわらず、0-100km/h加速は3.7秒でこなすという。
すっきり快適かつ抜群のスタビリティー
インストゥルメントは新世代BMWに共通するフルデジタルスクリーン式となり、メーターには12.3インチ、中央のディスプレイには10.25インチのスクリーンが採用されている。ATのシフトノブはキラキラ輝くクリスタルガラス製で、周辺のコントロールパネルはつややかにフラットに整えられている。最近流行とはいえ、つるりとしたスイッチをブラインドタッチするにはだいぶ慣れないと難しいが、BMWにはダイヤルが残されているのがありがたい(無論、音声やタッチ操作なども可能)。ちなみに大柄なボディーとはいえ、2人分の後席は大人にはまともに座れないスペースでしかなく、特に天井が低いため頭を抱えて潜り込むような体勢を強いられることは覚悟しておいたほうがいい。
ランフラットタイヤの標準化を見直しているBMWだが、このM850iは20インチのランフラットタイヤを標準装備する。とはいえ、「アダプティプMサスペンション・プロフェッショナル(アクティブスタビライザー付き)」と称する可変ダンパー付きサスペンションを備えるM850iは、それに起因するデメリットを感じさせない。ソリッドだがラフな突き上げなどはきれいに取り除かれており、すっきり優雅で上質な乗り心地である。ハンドリングも同様、違和感のない後輪操舵システムを統合した「インテグレーテッド・アクティブ・ステアリング」に「Mスポーツ・ディファレンシャル」も備えたM850iは、コーナーで目いっぱい頑張ったとしても、後輪は根が生えたようにグリップを失う気配すら感じさせず、ただただがっしりと安定したまま横Gだけが高まっていく。
ハンズオフ機能も用意あり
8シリーズは新しい「X5」や「3シリーズ」とともに高速道路での「ハンズオフ機能」を搭載していることもトピックだ。この夏以降にデリバリーされるクルマには最初から装備されるという。実はシステム自体はこの試乗車にも搭載されており、ステアリングホイールにはそのためのボタン(左スポークのモードボタン)も備わっているが、実走テストを入念に行ったせいで遅れ、現時点ではまだ作動しないという。ただし、後日有償でシステムを有効にするアップデートが可能だというのはありがたい。
ハンズオフ機能は “自動運転”ではなく、あくまでいわゆるレベル2の渋滞時運転支援機能という位置づけであり(60km/h以下)、たとえステアリングホイールから手を放すことができたとしてもドライバーには監視義務があり、それをモニターするためのカメラも装備されているという。例えばドライバーが5秒以上わき見をしたり、居眠りをしたりするのを検知すると、警告を発するという。ちなみに首都高速の一部区間(左右からの合流が連続する銀座周辺など)では、万一のために作動しない設定になっているらしい。安易に“同一車線自動運転”などとアピールするのではなく、念には念を入れて日本向けに開発したというわけだ。
「8」を運転していると何だかおおらかな気持ちになる。またも身もふたもないが、金持ちけんかせずというものだろう。そう感じさせる性能こそラグジュアリーなのである。
(文=高平高輝/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW M850i xDriveクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4855×1900×1345mm
ホイールベース:2820mm
車重:1990kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:530ps(390kW)/5500rpm
最大トルク:750Nm(76.5kgm)/1800-4600rpm
タイヤ:(前)245/35R20 95Y/(後)275/30R20 97Y(ミシュラン・パイロットスポーツ3)※ランフラットタイヤ
燃費:9.9km/リッター(JC08モード)/8.3km/リッター(WLTCモード)
価格:1714万円/テスト車=1860万8000円
オプション装備:ボディーカラーメタリックペイント<バルセロナブルー>(10万3000円)/BMWインディビジュアルエクステンドレザーメリノ(6万7000円)/Mカーボンファイバールーフ(40万3000円)/Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドオーディオシステム(59万9000円)/BMWナイトビジョン(29万6000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1467km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
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