BMW 840iクーペMスポーツ(FR/8AT)
大人にこそふさわしい 2020.08.29 試乗記 BMWのフラッグシップクーペ「8シリーズ クーペ」に追加設定された「840i Mスポーツ」に試乗。同シリーズにおけるエントリーモデルという位置づけながら、3リッターの直6エンジンと後輪駆動が織りなすその走りは、実に味わい深いものだった。サイズを気にしない余裕
昭和世代の憧れのクルマは何といってもクーペだった。低くて長くていかにもスピードが出そうな形のクーペ、BMWなら「635 CSi」などがその代表格だった。四角い武骨なRV車あるいはクロスカントリー車(当時はSUVもミニバンという呼び名もまだ普及していなかった)は、その道の趣味人以外にはほとんど注目されていなかった。
それゆえに、こういう正統派クーペに乗ると、何だか実家に帰ってきたような安心感と懐かしさに包まれる……などと言っても、本当に私の実家がBMWのフラッグシップクーペたる8シリーズのように、豪邸なわけではない。
田舎に古い実家を持つ人ならば分かってもらえると思うが、狭い敷地を有効に使うという発想があまりない。おおらかというか、大ざっぱというか、台所も居間も座敷も親戚が大勢集まるような場合にも困らないように広々としており、隙間収納とか便利な家事動線など、効率的で合理的な設計などどこ吹く風といった造作である。もちろん、部屋が広すぎて冬は寒いなどという不都合も少なくないわけだが、大きく広いほうが安心できるという記憶が田舎育ちには染み付いているのだ。
堂々としたボディーサイズを伸び伸びと使った、昔ながらの正統派ラグジュアリークーペである8シリーズには大ざっぱなところなど微塵(みじん)もないが、何しろ全長およそ4.9m、全幅1.9m、ホイールベース2820mmという余裕の敷地を大人2人のために割り当てているのだから、贅沢(ぜいたく)このうえない。余裕を絵に描いたようなクーペである。
リアシートはレッグルームも窮屈だが、何より流麗なクーペスタイルのせいで天井が低すぎて(全高は1340mm)、普通の大人には到底無理な空間。普通に頭を上げて前を見ることもできない。小さな子供かペット用という典型的な+2シートである。「ポルシェ911」のほうがまだ何とかなるだろう。
ただし、潔くシャープに下るルーフラインと細くなったホフマイスターキンク(Cピラー基部)がフラッグシップクーペのスポーティーさとラグジュアリーを強調する。
ボディーはもちろんカーボンファイバーやアルミ、スチール材を組み合わせたカーボンコアボディーで、ボンネットやドア、ルーフパネルはアルミ製(このクルマはオプションの「Mカーボンルーフ」付き)だが、抑揚が強いリアフェンダーまわりだけは深絞りのためにスチール製だという。
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