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プジョー508 GT BlueHDi(FF/8AT)

絶品の創作フレンチ 2019.06.14 試乗記 河村 康彦 端正なセダンフォルムから一転、最新の「プジョー508」はアグレッシブなクーペスタイルのDセグモデルへと変貌を遂げた。プジョーは「セダンの概念を革新する」と声高らかに宣言するが、果たしてその実力は? ディーゼルモデルの走りを確かめてみた。

セダンの概念を革新するという意気込み

ひと目で、誰もが「名前以外はすべてが変わった!」と納得するに違いないのが、2010年秋に開催されたパリモーターショーでの初代誕生以来、7年半を経て初のフルモデルチェンジが行われた、2代目の508だ。

すでに欧州ではステーションワゴン版である「SW」も発売されているものの、日本でまずローンチされたのは「セダンの概念を変える」と宣言しながら登場した大型テールゲートを持つ4ドアボディーの“ファストバック”である。

何ともスタイリッシュに変貌を遂げたボディーのBピラー付近を頂点としたルーフラインは、なるほどファストバックの名の通り、後端が軽くスポイラー状につままれた短いデッキ部分に向けて急降下。加えれば、前後左右のドアは昨今の4ドアモデルでは珍しいサッシュレス構造で、すなわちこれは典型的な4ドアクーペの要素にほかならない。「名は体を表す」とはよくぞ言ったものだ。

かくして同じ508を名乗りはするものの、明確なセダンデザインだった従来型と比べると、パッケージングは天と地ほども異なるのが新型。後席への乗降時には意図的に前傾姿勢を取らないと、前方へと強く倒れ込んだCピラーに頭を打ち付けて痛い思いをすることになりかねず、乗り込んだ後も残されたヘッドスペースはミニマムで、むしろ“2+2の4ドア”と紹介するのがより実態に即している。

実車確認をしたわけではないのでまだ断定はできないものの、写真から察する限り、乗降性にしてもヘッドスペースにしても、普通に考えると後席の使い勝手では前述したSWの方に分があるに違いない。後席を頻繁に使用する可能性があるユーザーは、「取りあえずSWを待つべし」とまずはそう言いたくなるのが、今度の508でもある。

一見、はやりの4ドアクーペに見えるが、プジョーはこのフォルムを“ファストバック”と呼ぶ。試乗車はディーゼルエンジンを搭載する、「508」シリーズの最上級グレード「GT BlueHDi」。
一見、はやりの4ドアクーペに見えるが、プジョーはこのフォルムを“ファストバック”と呼ぶ。試乗車はディーゼルエンジンを搭載する、「508」シリーズの最上級グレード「GT BlueHDi」。拡大
ライオンの牙をイメージしたという左右のLEDデイライトが、フロントデザインの特徴。初代「508」にはなかった車名を示すエンブレムが、フロントノーズに装着されている。
ライオンの牙をイメージしたという左右のLEDデイライトが、フロントデザインの特徴。初代「508」にはなかった車名を示すエンブレムが、フロントノーズに装着されている。拡大
プジョーの象徴であるライオンの爪痕がモチーフとなったリアコンビネーションライト。ライトの明るさは周囲の条件によって自動調整され、天候に左右されず優れた視認性をもたらすという。
プジョーの象徴であるライオンの爪痕がモチーフとなったリアコンビネーションライト。ライトの明るさは周囲の条件によって自動調整され、天候に左右されず優れた視認性をもたらすという。拡大
新型「プジョー508」のボディーサイズは、全長×全幅×全高=4750×1860×1420mm、ホイールベース=2800mm。試乗車に装着されていたパノラミックサンルーフは、「フルパッケージ」と呼ばれるオプションに組み込まれているアイテム。
新型「プジョー508」のボディーサイズは、全長×全幅×全高=4750×1860×1420mm、ホイールベース=2800mm。試乗車に装着されていたパノラミックサンルーフは、「フルパッケージ」と呼ばれるオプションに組み込まれているアイテム。拡大
プジョー 508 の中古車

凝ったデザインの副作用

こうして、実際には「4ドアではあってもセダンからクーペへの宗旨替えによって、他の何にも似ることのない躍動感あふれる魅惑のスタイリングを手に入れた」と言えるデザインの新型508。エモーショナルなエクステリアの仕上がりに合わせるかのように、インテリアもやはりスタイリッシュで魅力的。いずれにしても今度の508は、見た目に関しては“外”も“中”も、思わず「ブラボー!」と快哉(かいさい)を叫びたくなるような出来栄えなのである。

一方、かくもダイナミックなルックスへと変貌を遂げた今度の508は、前述した後席への乗降性に加えて、インテリアの機能性に関しても、実はもろ手を挙げて賛同はできない。例えば、いかにも使い勝手が良さそうに見えるセンターディスプレイ手前に整然とレイアウトされた7つの鍵盤状のスイッチは、上からのぞきこまないと刻まれた絵表示が読みとれず、一瞬のうちに何のスイッチかを判別するのはかなり難しい。

高い位置に置かれたクラスター内のメーターを、ステアリングの上側から読み取るという昨今のプジョー車に共通の「i-Cockpit」も同様だ。メーターの視認性を確保するという目的のために採用されるステアリングホイールは、極端に小径でさらに上下方向がつぶされた形状となる。その操作には明らかな不自然さが拭えないのだ。

加えれば、ここまでやってもやはりメーター下部は“蹴られ気味”となって、それを回避するために、知らず知らずのうちに顎が前に出た運転姿勢になってしまうのも好ましからぬポイント。「慣れれば気にならない」「そんなことを言うのはモータージャーナリストだけ」という意見も聞かれはするものの、いずれにしても人間工学的な視点からすれば、ドライビングポジションにかなりの無理を強いる感覚は、どうしても避けられない。

スポーティーなハンドリングと良好な乗り心地の両立も、新型「508」のセリングポイント。最小回転半径は先代の5.9mから5.5mへと改善されている。
スポーティーなハンドリングと良好な乗り心地の両立も、新型「508」のセリングポイント。最小回転半径は先代の5.9mから5.5mへと改善されている。拡大
「i-Cockpit」と名付けられた運転席まわりで採用されている独自のデザイン。完全な円形ではなく、上下をフラットな形状とした小径のステアリングホイールや、その上に配置されているメーターパネルなどが特徴だ。
「i-Cockpit」と名付けられた運転席まわりで採用されている独自のデザイン。完全な円形ではなく、上下をフラットな形状とした小径のステアリングホイールや、その上に配置されているメーターパネルなどが特徴だ。拡大
メーター部分は12.3インチの液晶パネルで構成される。ダッシュボードの最も高い場所に設置されるこのメーターをプジョーではヘッドアップディスプレイと呼んでいる。6種の表示モードを持っており、写真のモードではタコメーターの針が時計とは逆回りに動くようになっている。
メーター部分は12.3インチの液晶パネルで構成される。ダッシュボードの最も高い場所に設置されるこのメーターをプジョーではヘッドアップディスプレイと呼んでいる。6種の表示モードを持っており、写真のモードではタコメーターの針が時計とは逆回りに動くようになっている。拡大
インフォテインメントシステムは8インチサイズの液晶パネルに直接触れてコントロールできるほか、その手前に並べられた鍵盤楽器を思わせるトグルスイッチでも操作できるようになっている。
インフォテインメントシステムは8インチサイズの液晶パネルに直接触れてコントロールできるほか、その手前に並べられた鍵盤楽器を思わせるトグルスイッチでも操作できるようになっている。拡大
 
試乗車には、235/45ZR18サイズの「ミシュラン・パイロットスポーツ4」タイヤが装着されていた。写真の「SPERONE」と呼ばれるデザインの18ホイールは「GT BlueHDi」専用のアイテム。
試乗車には、235/45ZR18サイズの「ミシュラン・パイロットスポーツ4」タイヤが装着されていた。写真の「SPERONE」と呼ばれるデザインの18ホイールは「GT BlueHDi」専用のアイテム。拡大
エンジンは最高出力177ps、最大トルク400Nmを発生する2リッター直4ディーゼルターボ。シフトパドルを備えた8段ATと組み合わせられている。
エンジンは最高出力177ps、最大トルク400Nmを発生する2リッター直4ディーゼルターボ。シフトパドルを備えた8段ATと組み合わせられている。拡大
写真のナッパレザーシートは「フルパッケージ」オプションを選択した際に装備される。前席は8ウェイの電動シート(運転席メモリー付き)となっている。
写真のナッパレザーシートは「フルパッケージ」オプションを選択した際に装備される。前席は8ウェイの電動シート(運転席メモリー付き)となっている。拡大
後席の背もたれは6:4の分割可倒式になっている。クーペスタイルの影響もあり、ヘッドルームの余裕はミニマム。
後席の背もたれは6:4の分割可倒式になっている。クーペスタイルの影響もあり、ヘッドルームの余裕はミニマム。拡大
凹凸のあるダッシュボードデザインはドアトリムの形状とも連動し、キャビンの一体感を表現している。「GTライン」以上のグレードでは「FOCALプレミアムHiFiシステム」オーディオが標準装備となる。
凹凸のあるダッシュボードデザインはドアトリムの形状とも連動し、キャビンの一体感を表現している。「GTライン」以上のグレードでは「FOCALプレミアムHiFiシステム」オーディオが標準装備となる。拡大

ADASのレベルは高い

というわけで、“初見”ではルックスの良さが印象に残る一方で、いざ付き合い始めてみれば一部に「見栄えのために使い勝手は後回し」という開発のスタンスも感じさせることになるのがこのモデル。

ところが、走り始めると今度はこうして芽生えたネガティブな印象が、たちまち一掃されることになるのだから、今度の508は奥が深い。すなわちその走りは「プジョー車史上で最良!」と認定したくなる上質なものであったということ。良くも悪くも“見た目だけでは分からない”のは、人もクルマも一緒なのである。

現時点で8段ステップATとの組み合わせで日本に導入されるエンジンは、2タイプ。いずれも直噴システムを用いたターボ付き4気筒で、1.6リッターガソリンもしくは2リッターディーゼルである。前者が180ps、後者は177psとその最高出力は同等のレベルながら、前者の250Nmに対して後者は400Nmと、最大トルクはやはりディーゼルが圧倒的だ。

テストドライブを行ったのは、492万円というプライスタグを下げて508シリーズの頂点に立つディーゼルモデルに、ナッパレザーシートやパノラミックサンルーフ、ナイトビジョンなどからなる65万円ナリの「フルパッケージオプション」を装着した豪華バージョンだった。

実は今回、テスト車を最初に受け取ったのは日没後。「細かい機能は帰宅してから取説をチェックして……」とヘッドライトに浮かぶ首都高を降り一般道を走っていると、突如メータークラスター内に「ナイトビジョン」の割り込み画面が出現。

しかも、それは極めて適切なタイミングで現れると同時に、ヘッドライトの光が届きにくい歩行者や自転車を赤枠で強調表示してくれることにも感心した。これは明らかに「さまざまなシチュエーションを実際に相当走り込みながら開発やチューニングを行った」ことが想像できるプログラムだ。

この種の暗視アイテムで「これなら欲しい」と思えたのは、個人的にはこれが初めての経験。その他、ストップ&ゴー機能付きのACCやレーンキープアシスト等々と、実はADASの領域でもなかなか頑張っているのが新型508なのである。

素晴らしいフットワーク

ブランドのフラッグシップモデルでもあるだけに、静粛性は全般に優秀。一方で、低回転域を中心に特有のノック音はキャビン内でも意外に鮮明。ディーゼル車に乗っているという感覚は明らかだ。

もっとも、それでも「騒々しい」という印象は皆無なので、これは特にマイナス項目には当たらない。ちなみに、100km/hクルージング時のエンジン回転数は1600rpmほどだったが、実はこれ、7速ギアでの値。さらに8速へとアップシフトされるのはメーター読み113km/hほどのポイント。すなわち高速道路の一部区間で制限速度が120km/hへと引き上げられた日本では、「ようやく合法的にそのすべての恩恵にあずかれるようになった」と言えるのが、508のトランスミッションのセッティングでもある。

ガソリンモデルよりも120kg増しとなる車両重量を「相殺して余りある」動力性能も、確かに見どころのひとつである。しかし、それにも増して称賛する気持ちになったのは、フットワークの上質さだった。

走り始めた瞬間からこれはなかなか“優しい乗り味”だなと、そう感心させられたこのモデルのフットワークのテイストは、有り体に言ってしまえば「シトロエンから“ハイドロ”を譲り受けたかのような感覚」でもある。街乗りシーンでは路面の凹凸への当たりは優しく柔らか。と同時に、速度が高まるとそんなしなやかさにしっかりとしたフラット感が加えられることになるのだ。

高速クルージングで、ちょうど最もおいしいトルクバンドへと差し掛かるパワーユニットに、優しくしなやかなのにしっかり感にも富んだ、どこまでも走っていきたくなるフットワーク。さらに条件次第ではあるが、満タンで1000km近い足の長さという組み合わせは、まさにプジョー車とはしてはかつてないGTカーとしての資質の高さをもたらす結果になっている。

セダンの再定義というよりは、むしろプジョー車の走りの再定義――そんなキャラクターこそを、心底感じさせられることになった新しい508なのである。

(文=河村康彦/写真=荒川正幸/編集=櫻井健一/撮影協力=河口湖ステラシアター)

プジョー・シトロエングループの新世代プラットフォーム「EMP2」をベースに開発された「508」シリーズ。ボディーにはアルミニウム合金も使用され、同等装備の初代モデルとの比較で、約70kgの軽量化を果たしているという。パノラミックサンルーフを装着する試乗車の車重は1660kg。


	プジョー・シトロエングループの新世代プラットフォーム「EMP2」をベースに開発された「508」シリーズ。ボディーにはアルミニウム合金も使用され、同等装備の初代モデルとの比較で、約70kgの軽量化を果たしているという。パノラミックサンルーフを装着する試乗車の車重は1660kg。
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後席使用時の荷室容量は487リッター(欧州仕様値)。折りたたみ式の後席背もたれのほか、長尺物を収容しやすいトランクスルー機構も採用され、積載物に応じたアレンジが可能になっている。
後席使用時の荷室容量は487リッター(欧州仕様値)。折りたたみ式の後席背もたれのほか、長尺物を収容しやすいトランクスルー機構も採用され、積載物に応じたアレンジが可能になっている。拡大
後席の背もたれをすべて倒すと、荷室容量を1537リッター(欧州仕様値)にまで拡大することができる。テールゲートは、ハンズフリー電動式で、足をバンパー下にかざすだけで開閉が行える。
後席の背もたれをすべて倒すと、荷室容量を1537リッター(欧州仕様値)にまで拡大することができる。テールゲートは、ハンズフリー電動式で、足をバンパー下にかざすだけで開閉が行える。拡大
ディーゼルエンジン搭載モデルの場合、燃料満タン(タンク容量は55リッター)で条件が許せば1000km近い航続距離をもたらすのも魅力といえる。「508 GT BlueHDi」の燃費はWLTCモード:16.9km/リッター、JC08モード:18.3km/リッター。
ディーゼルエンジン搭載モデルの場合、燃料満タン(タンク容量は55リッター)で条件が許せば1000km近い航続距離をもたらすのも魅力といえる。「508 GT BlueHDi」の燃費はWLTCモード:16.9km/リッター、JC08モード:18.3km/リッター。拡大

テスト車のデータ

プジョー508 GT BlueHDi

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4750×1860×1420mm
ホイールベース:2800mm
車重:1660kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:177ps(130kW)/3750rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)235/45ZR18 98Y/(後)235/45ZR18 98Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:16.9km/リッター(WLTCモード)/18.3km/リッター(JC08モード)
価格:492万円/テスト車=566万1800円
オプション装備:パールペイント<アルティメット・レッド>(9万1800円)/フルパッケージ<ナッパレザーシート+ナイトビジョン+フルパークアシスト+360度ビジョン+パノラミックサンルーフ>(65万円)

テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:4217km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:339.0km
使用燃料:14.6リッター(軽油)
参考燃費:23.1km/リッター(満タン法)/16.1km/リッター(車載燃費計計測値)

プジョー508 GT BlueHDi
プジョー508 GT BlueHDi拡大
リアドアのガーニッシュに「GT」のエンブレムを装着。前方に傾斜したCピラーがクーペフォルムを印象付ける。
リアドアのガーニッシュに「GT」のエンブレムを装着。前方に傾斜したCピラーがクーペフォルムを印象付ける。拡大
河村 康彦

河村 康彦

フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。

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