第576回:ちょっと懐かしいあのタイヤも復活!
ミシュラン製クラシックタイヤの世界
2019.07.04
エディターから一言
![]() |
世界有数のタイヤメーカーであるミシュランが、クラシックカー向けのタイヤ、通称“クラシックタイヤ”を豊富に手がけているのをご存じだろうか。戦前のビンテージカーから懐かしのネオレトロまで、幅広いクルマ向けに商品を取りそろえるミシュランの取り組みを紹介する。
![]() |
![]() |
![]() |
ミシュランが「MXV3-A」を“発売”?
日々、たくさんのプレスリリースがメールで届く。なかにはジャンル違いでスルーすることもあるが、反対に妙に引っかかるものもある。「日本ミシュランタイヤ、クラシックタイヤ『MICHELIN MXV3-A』発売」のプレスリリースは、かなり気になる例のひとつだ。
ミシュランがクラシックカー向けのクラシックタイヤを販売しているのは知っていた。知人が古い「ポルシェ911」(正確には「912」だが)用にミシュランの「XAS」を日本で手に入れて装着しており、ほんの少しだが私も運転する機会があったからだ。
でも、それ以外にどんなラインナップがあるか知らなかったし、クラシックと呼ぶにはまだ新しいMXV3-Aが復活することにも興味を持った。そんな話をwebCG編集部のホッタ君にしたところ、「じゃあ、取材に行きましょう」ということになり、6月某日、日本ミシュランタイヤを訪ねたのである。
“ミシュランマン”と見まごうばかりのわれわれ取材班を迎えてくれたのは、クラシックタイヤを担当する鈴木義子さん。名刺をいただくと、所属はなぜかモータースポーツの部署となっている。謎は深まるばかりである……。
古くは1920年代後半のクルマに対応
「私たちがクラシックタイヤとして販売しているのは、1920年代後半から1980年代前半に製造された車両向けのタイヤです。さらにいまは後の年代のものまで範囲が広がってきています」
実際、先日ラインナップに加わったMXV3-Aは1992年に日本国内で発売されたタイヤで、1980年代から1990年代前半に販売された車両が対象とうたわれている。21世紀のクルマが対象になるのも時間の問題だ。
鈴木さんによると、ミシュランがクラシックカータイヤの生産を始めたのは1980年代からだという。
「クラシックカーのオーナーズクラブの方から、『戦前のクルマのタイヤがないので、つくってほしい』という話がフランスの研究部門にありました。そんなお客さまの声に耳を傾け、研究所の小ロットのタイヤラインで対応したのが始まりでした」
最初は特注品という位置づけだったが、その後、クラシックタイヤが欲しいという声が広がってラインナップが増え、ひとつのビジネスとして取り組むようになっていったのだという。
今や25パターン、95タイプを販売
現在のラインナップは、最新のMXV3-Aを含めて25パターン、95タイプ。基本的には、日本もフランス本国と同じ品ぞろえだそうだ。
「ラインナップがどんどん増えていて、今後もさらに増える予定です。これだけ幅広いラインナップを持つメーカーは珍しいのではないでしょうか」
確かにラインナップの豊富さには驚かされるが、取り組みの早さもまた驚きである。鈴木さんいわく、日本でも1980年代からクラシックタイヤを販売していたというのだ。
「当時は、通常のカタログにいくつか掲載していた程度でした。いまのようにクラシックタイヤ専用のカタログをつくるようになったのは2012年からです」
そのころに、クラシックタイヤの扱いがモータースポーツの部署に移管されたのだという。
「一般のタイヤとはお客さまの要望が違います。趣味性、嗜好(しこう)性が高く、専門的な知識も必要です。そこで、世界的にモータースポーツの部署で取り扱うことになりました」
見た目はクラシカルでも
ところで、前述のプレスリリースには、「当時の開発コンセプトと外観はそのままにミシュランの最新技術を投入することで、車両はもちろん現代の路面環境に最適化された新たなクラシックタイヤとしてラインナップします」と書かれていたが、実際にはどのようにつくられているのだろうか?
「クラシックタイヤは当時のままの外観を再現していますが、金型をそのまま使うことができないので、新たに金型を起こしています」
一方、投入される技術については、ゴムをはじめとするタイヤの技術は日々進歩しており、今日のタイヤ技術で、当時の味を再現しているのだという。
「当時の材料で再現することが必ずしも良いわけではありませんし、当時の材料のなかにはいまは使うことができないものがある、という事情もあります」
クラシックタイヤを開発するにあたっては、実際に当時のクルマに装着して走行テストを行い、可能なかぎり当時の乗り味を再現しているという。さらに、安全性や耐久性といった性能に関しては現代のタイヤと同じようにテストを行うため、ラインナップを追加するにはそれなりの時間とコストがかかるのだ。
そんな作業の積み重ねにより、ラインナップの拡大が進んでいるミシュランのクラシックタイヤ。MXV3-Aや往年の「パイロットスポーツ」など、おなじみのモデルも増えているので、ちょっと古いクルマに装着して当時の雰囲気や乗り味を再現したいという人は、カタログやウェブサイトをチェックしてほしい。また、鈴木さんいわく、いまは輸入車向けが多いが、古い日本車オーナーからの要望にも応えたいとのことだった。クラシックカーのタイヤにお困りの際は、ミシュランに相談してみてはいかがだろう。
(文=生方 聡/写真=webCG/編集=堀田剛資)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
第842回:スバルのドライブアプリ「SUBAROAD」で赤城のニュルブルクリンクを体感する 2025.8.5 ドライブアプリ「SUBAROAD(スバロード)」をご存じだろうか。そのネーミングからも想像できるように、スバルがスバル車オーナー向けにリリースするスマホアプリである。実際に同アプリを使用したドライブの印象をリポートする。
-
第841回:大切なのは喜びと楽しさの追求 マセラティが考えるイタリアンラグジュアリーの本質 2025.7.29 イタリアを代表するラグジュアリーカーのマセラティ……というのはよく聞く文句だが、彼らが体現する「イタリアンラグジュアリー」とは、どういうものなのか? マセラティ ジャパンのラウンドテーブルに参加し、彼らが提供する価値について考えた。
-
第840回:北の大地を「レヴォーグ レイバック」で疾駆! 霧多布岬でスバルの未来を思う 2025.7.23 スバルのクロスオーバーSUV「レヴォーグ レイバック」で、目指すは霧多布岬! 爽快な北海道ドライブを通してリポーターが感じた、スバルの魅力と課題とは? チキンを頬張り、ラッコを探し、六連星のブランド改革に思いをはせる。
-
第839回:「最後まで続く性能」は本当か? ミシュランの最新コンフォートタイヤ「プライマシー5」を試す 2025.7.18 2025年3月に販売が始まったミシュランの「プライマシー5」。「静粛性に優れ、上質で快適な乗り心地と長く続く安心感を提供する」と紹介される最新プレミアムコンフォートタイヤの実力を、さまざまなシチュエーションが設定されたテストコースで試した。
-
第838回:あの名手、あの名車が麦畑を激走! 味わい深いベルギー・イープルラリー観戦記 2025.7.5 美しい街や麦畑のなかを、「セリカ」や「インプレッサ」が駆ける! ベルギーで催されたイープルラリーを、ラリーカメラマンの山本佳吾さんがリポート。歴戦の名手が、懐かしの名車が参戦する海外ラリーのだいご味を、あざやかな写真とともにお届けする。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。