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ホンダN-WGN 開発者インタビュー

時代は変わった 2019.09.10 試乗記 鈴木 真人 本田技術研究所
オートモービルセンター 商品企画室
主任研究員
古舘 茂(ふるだて しげる)さん

軽ハイトワゴン市場での捲土(けんど)重来を期し、ホンダが投入した新型「N-WGN」。既存のモデルとは一線を画すデザインや、先進の運転支援システムが取り入れられた背景には、どのような理由があったのか? 軽自動車を取り巻く環境の変化をエンジニアが語る。

立派に見せる必要性は薄れた

ホンダの屋台骨を支えているのが軽自動車の「N」シリーズだが、悩みは“1本足打法”になってしまっていること。スーパーハイトワゴンの「N-BOX」が絶好調なのに比べ、他のモデルが伸び悩んでいるのだ。新型N-WGNは、ハイトワゴンでもホンダの強みを見せるという使命を担う。難しいかじ取りを任されたエンジニアに、ニューモデルの狙いを聞いた。

――N-BOXはキープコンセプトでしたが、N-WGNはかなり方向性を変えましたね。

「カスタム」はN-BOXとは違いますね。以前はいかに立派に見せるかというのが重要でした。登録車からダウンサイズしてきた人にとっては、軽自動車だからといってナメられないということが重要だったんです。でも、今は軽に乗ることに抵抗がなくなってきました。もう大きく見せる、軽じゃないように見せるという必要性は薄れたと思います。そろそろ時代が変わり始めて、今までのデザインだと3年後5年後に古く感じるかもしれない。各社さんが市場調査をして、いろいろな方向を試していますね。

――でも、強そうで怖そうな面構えがいいというユーザーもまだ多いのでは?

調査すると、地域によって違いがあるようです。立派に見せたいというお客さまには、用品で対応しています。本来の意味でのカスタム、自分でいじるほうがうれしいですからね。来年のオートサロンでは、大々的にいじっていただければいい(笑)。

2019年7月に発表、8月に発売された新型「N-WGN」。N-WGNは2017年にフルモデルチェンジした「N-BOX」に続き、「N」シリーズの第2世代モデルに移行することとなった。
2019年7月に発表、8月に発売された新型「N-WGN」。N-WGNは2017年にフルモデルチェンジした「N-BOX」に続き、「N」シリーズの第2世代モデルに移行することとなった。拡大
内外装ともにシックなイメージでまとめられた「N-WGNカスタム」。かつては、こうしたクルマにはギラギラとした押し出しの強さが求められていたが、今ではユーザーの嗜好(しこう)も変化しつつあるようだ。
内外装ともにシックなイメージでまとめられた「N-WGNカスタム」。かつては、こうしたクルマにはギラギラとした押し出しの強さが求められていたが、今ではユーザーの嗜好(しこう)も変化しつつあるようだ。拡大
<古舘 茂さんプロフィール>
1991年本田技研工業入社、本田技術研究所に配属。7代目「アコード」、3代目「オデッセイ」の車体排気設計を経て、2008年より初代「N-BOX」の先行開発に従事。2019年に2代目「N-WGN」のラージ・プロジェクト・リーダーとなり、開発を統括している。
<古舘 茂さんプロフィール>
	1991年本田技研工業入社、本田技術研究所に配属。7代目「アコード」、3代目「オデッセイ」の車体排気設計を経て、2008年より初代「N-BOX」の先行開発に従事。2019年に2代目「N-WGN」のラージ・プロジェクト・リーダーとなり、開発を統括している。拡大
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“シンプル”はごまかしが利かない

――ノーマルがレトロ感と温かみを持っているのに対して、カスタムは未来的でクールな印象を受けました。基本デザインは同じなのにずいぶん違って見えますが?

変えなきゃいけないところはしっかり変えて、ほかの部分は共用しています。どこを変えるとどう印象が変わるかを勉強しました。コスト的に大きな金型部品は変えられない中で、目つきの違いで差を出しました。一番効くんです。

――キャッチコピーで「New Simple!」とうたっているとおり、とてもシンプルなデザインですね。

シンプルというのは、しっかりやらないと安っぽくなる怖さがあるんです。むしろ、ごまかしが利かない。カスタムも、ギラギラは減らすけれどディテールにはこだわりました。タイムレスなものになると信じて、シンプルな中にシックなテイストを入れていく。決してゴージャスではないんです。要素を盛るのではなく、形を作り上げてからちょっとした面やへこみを入れていく。やりすぎないのが重要です。いろいろなパターンを試すので、時間はかかりましたね。

――“生活”や“暮らし”という言葉がコンセプトになっているようですが、どういう意図があるのでしょう。

2代目になったNシリーズは“暮らし”をキーワードにしています。N-BOXは“家族としての暮らし”がテーマですね。「N-VAN」は“仕事の中での暮らし”。N-WGNは暮らしの中でも1人で運転する場面に合わせています。大人数で乗るより、よく考えたら1人が多いかなという方は、スーパーハイトではなくハイトワゴンかなと。同じ日本の暮らしの中で、人によってシーンによって違うというところを突き詰めているんです。

新型「N-WGN」のデザインのコンセプトは「暮らしになじむデザイン」。親しみやすさが重視されている一方で、きちんと個性が立っているところはお見事だ。
新型「N-WGN」のデザインのコンセプトは「暮らしになじむデザイン」。親しみやすさが重視されている一方で、きちんと個性が立っているところはお見事だ。拡大
「N-WGNカスタム」のLEDヘッドランプと、細かなメッキ加飾が施されたフロントグリル。軽自動車として初めてシャークフィンアンテナを採用するなど、そのディテールは非常に凝っている。
「N-WGNカスタム」のLEDヘッドランプと、細かなメッキ加飾が施されたフロントグリル。軽自動車として初めてシャークフィンアンテナを採用するなど、そのディテールは非常に凝っている。拡大
運転席まわりでは、ステアリングにチルト&テレスコピック機構を、シートにスライド/リクライニング/座面高の調整機構を装備。幅広い体型の人が適切な運転姿勢をとれるよう、配慮されている。
運転席まわりでは、ステアリングにチルト&テレスコピック機構を、シートにスライド/リクライニング/座面高の調整機構を装備。幅広い体型の人が適切な運転姿勢をとれるよう、配慮されている。拡大
「N for family」がキャッチコピーの「N-BOX」、「N for work」がキャッチコピーの「N-VAN」に対し、「N-WGN」のそれは「N for you」となっている。
「N for family」がキャッチコピーの「N-BOX」、「N for work」がキャッチコピーの「N-VAN」に対し、「N-WGN」のそれは「N for you」となっている。拡大

トガるよりバランスを追求

――新型N-WGNが好評だと、N-BOXの市場を侵食してしまうということはありませんか?

食い合うことはないと思いますよ。デザインを離すだけでなく、家族中心と個人中心というポジショニングを考えていますから。スーパーハイトより運転しやすいけど、走りに特化するというところまではいかない。際立って楽しさを感じるほどではなく、乗っていて「なんかいいな」と感じるくらいでいいと思っているんですね。バランスのよさが大事です。

――万能とも言えますが、うっかりすると中途半端になってしまいませんか?

中途半端って言われても別にいいかなと思っていて、そんなにトガる必要はないんですよね。トガらなくてもいいというのはテキトーに開発するということではなくて、必要な機能を向上させていけば全体の性能が上がっていきます。そういうことって、乗っていただくと感じていただけるものなんです。

――自然吸気(NA)とターボの両方試乗してみて、ターボの走りがいいのは当然として、NAがしっかり走ることに感心しました。

思い切り加速するとか高速で走るとかでなければ、本当にNAだっけ? って思うくらいに仕上がっているはずですよ。N-BOXと違うのは、重量が軽くて前面投影面積が小さいこと。軽量は走りだしに効くし、前面投影面積はスピードが乗ってきたときに効きます。

――他メーカーを見ると、ダイハツは新型「タント」にオートパーキング機能を付けていました。N-WGNでは検討しなかったんでしょうか?

調査すると、軽自動車のお客さまは駐車スペースに頭から入れる方が多いんですよ。バック駐車しないんです。だから、リアのカメラをワイドにして対応しています。オートパーキングは、一度使ったらもういいという方が多いですね。普通に運転する方が使うかというと、そうでもない。やるのなら、「自動のほうが便利だね」というところまでいかないと。大きい自動車と違い、軽自動車は駐車も楽ですしね。

2017年、2018年と2年連続で新車販売台数No.1に輝いた「N-BOX」。ホンダの国内販売を支える重要モデルである。
2017年、2018年と2年連続で新車販売台数No.1に輝いた「N-BOX」。ホンダの国内販売を支える重要モデルである。拡大
軽ハイトワゴンについて「そんなにトガったクルマにする必要はない」と語る古舘さん。その代わりに「N-WGN」では、荷室や収納の使い勝手、乗降性のよさ、運転のしやすさなどが徹底的に追求されている。
軽ハイトワゴンについて「そんなにトガったクルマにする必要はない」と語る古舘さん。その代わりに「N-WGN」では、荷室や収納の使い勝手、乗降性のよさ、運転のしやすさなどが徹底的に追求されている。拡大
最高出力58PS、最大トルク65N・mを発生する自然吸気エンジン。力強い走りと、従来比7%アップの燃費性能、平成30年排ガス基準75%低減レベルという優れた環境性能を実現している。(写真=本田技研工業)
最高出力58PS、最大トルク65N・mを発生する自然吸気エンジン。力強い走りと、従来比7%アップの燃費性能、平成30年排ガス基準75%低減レベルという優れた環境性能を実現している。(写真=本田技研工業)拡大
新型「N-WGN」では、加速はもちろん減速時の操作フィーリングも重視。CVTには「ジェイドRS」「ヴェゼルRS」に続いてステップダウンシフト制御を採用したほか、ブレーキペダルもリンク式とすることで操作性を改善している。
新型「N-WGN」では、加速はもちろん減速時の操作フィーリングも重視。CVTには「ジェイドRS」「ヴェゼルRS」に続いてステップダウンシフト制御を採用したほか、ブレーキペダルもリンク式とすることで操作性を改善している。拡大
5代目「ライフ」で操舵支援機能付きパーキングアシスト機能に手を付けたホンダだが、今では軽自動車へのこうした機能の採用は見合わせている。(写真:本田技研工業)
5代目「ライフ」で操舵支援機能付きパーキングアシスト機能に手を付けたホンダだが、今では軽自動車へのこうした機能の採用は見合わせている。(写真:本田技研工業)拡大

価格コンシャスの時代ではない

――運転支援機能では、ACCの制御は結構アグレッシブな設定ですが、レーンキープはあまりグイグイ来ませんね。

基本はアシストなので、強力な介入はしません。それにシャシーがしっかりしているので、自然な制御ができるんです。挙動がすぐに収まるクルマは動きが予測しやすいので、アシストも素直にできる。

――ACCが渋滞対応になったのは、要望が多かったからですか?

技術としては、常に一歩先をいかなければなりません。10年前にはありえませんでしたが、あっという間にお客さまがそういう要望を持つようになりました。安全や便利な機能にはお金をかけるんです。ホンダセンシングは一部のグレードにレスオプションがありますが、ほとんど選ばれません。実質的に標準装備ですね。軽自動車はちょっと前までは価格コンシャスのジャンルでしたが、時代が変わりました。

――スーパーハイトワゴンは乗り出し200万円超えも普通になりましたが、ハイトワゴンはもう少し安いですね。

N-WGNは最高グレードでナビを付けても、200万円は超えません。N-BOXと比べると、20万円くらい安いと思います。

――N-BOXほどの大きさが必要なければ、性能バランスのいいN-WGNのほうが便利に使える。でも、スライドドアの便利さも魅力的では?

先ほどお話ししたように、頭から駐車する方が多いので、買い物の荷物はリアハッチから入れればいいんですよ。実は、価格差はスライドドア分が大きいんです。もちろん、どうしてもスライドドアが欲しいという方は、N-BOXを選んでいただければいいでしょう。

――N-BOXとN-WGNでうまくすみ分けができると?

スーパーハイトワゴンはダウンサイザーの増加もあって伸びているジャンルです。ただ、ハイトワゴンのほうが古くからあるので保有数はまだ多い。少しずつ減っているのは事実ですが、どこかでバランスすると思っています。

(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

現行型「N-BOX」にACCを標準装備することで話題を呼んだホンダ。「N-WGN」でもACCは全車標準装備となっている(標準車の「G」のみレスオプションが可能)。
現行型「N-BOX」にACCを標準装備することで話題を呼んだホンダ。「N-WGN」でもACCは全車標準装備となっている(標準車の「G」のみレスオプションが可能)。拡大
新型「N-WGN」に装備される、ホールド機能付きの電子制御パーキングブレーキ。ホンダでは軽自動車にも、こうした安全装備を積極的に採用している。
新型「N-WGN」に装備される、ホールド機能付きの電子制御パーキングブレーキ。ホンダでは軽自動車にも、こうした安全装備を積極的に採用している。拡大
「N-BOX」の価格が138万5640円から208万0080円(福祉車両除く)となっているのに対し、「N-WGN」は127万4400円から179万3880円となっている。
「N-BOX」の価格が138万5640円から208万0080円(福祉車両除く)となっているのに対し、「N-WGN」は127万4400円から179万3880円となっている。拡大
大幅に低められた床面が目を引く「N-WGN」の荷室。脱着可能なフロアボードとスライドおよび分割可倒機構を備えたリアシートによる、多彩なアレンジも特徴だ。
大幅に低められた床面が目を引く「N-WGN」の荷室。脱着可能なフロアボードとスライドおよび分割可倒機構を備えたリアシートによる、多彩なアレンジも特徴だ。拡大
「もう『軽といえば価格コンシャスなクルマ』という時代ではない」と語る古舘さん。今や軽自動車も、安全性やデザインで選ばれる時代なのだ。
「もう『軽といえば価格コンシャスなクルマ』という時代ではない」と語る古舘さん。今や軽自動車も、安全性やデザインで選ばれる時代なのだ。拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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