第592回:ランボルギーニ初のHV「シアンFKP 37」発表
開発責任者レッジャーニCTOがスーパーカーの未来を語る
2019.10.09
エディターから一言
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「シアンFKP 37」はランボルギーニ初のハイブリッドモデルであると同時に、マサチューセッツ工科大学(MIT)との共同開発コンセプトカー「テルツォ ミッレニオ」が示した未来の電動スーパーカーへの架け橋なのだという。同車の開発責任者マウリツィオ・レッジャーニCTOにその展望を聞いた。
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スーパーキャパシタには日本の技術も
さる2019年9月、IAA=フランクフルトモーターショーにて全世界初披露となったランボルギーニのスペチアーレ、シアンFKP 37。ちなみにFKP 37は、フォルクスワーゲングループ元会長フェルディナント・カール・ピエヒの名と生誕年を示すもので、8月末の訃報を受けてランボルギーニ側が氏への敬意を示したものだ。
そして本筋での車名となるシアンは、ランボルギーニのあるボローニャ地方での、稲妻の俗称だという。その名が示すのはすなわち、このクルマがランボルギーニ初のハイブリッドモデルであるということだ。そしてそれはありていな手段によるものではない。
「シアンFKP 37のモーターを駆動する動力源は、バッテリーではなくスーパーキャパシタです。これにより、小型軽量でエネルギー密度の高いハイブリッドシステムを構築することができました」
IAAの会場でそう語ったのは、長年ランボルギーニの技術部門を統括しているマウリツィオ・レッジャーニCTOだ。
シアンFKP 37のモーターアシストの動力源となる48Vのスーパーキャパシタはリアバルクヘッド部に搭載できるほど小さく、電力の充放電瞬発力にはたけている。そのぶん、蓄電容量はバッテリーに劣るため、EV的航続性能を重視する用途には向いていない。シアンFKP 37はスーパースポーツというキャラクターを利してその特性をうまく使いこなしているというわけだ。ちなみにスーパーキャパシタの開発は日本が先行しているが、具体的な企業名は挙げられなかったものの、シアンFKP 37にも日本企業の技術が投入されているという。
電動化は環境性能向上策にあらず
「シアンFKP 37の駆動用モーターは34PS、そしてシステム重量は34kg。つまりパワーウェイトレシオは1になります。エネルギー密度においてこれを上回るハイブリッドシステムはありません」
マウリツィオ・レッジャーニCTOはシアンFKP 37にハイブリッドシステムを導入した意図を、環境性能のためではないと明言する。
「低電圧・高電流のハイブリッドシステムを構築している最大の理由は省スペースと軽量化です。大容量のリチウムイオン電池を搭載し、電圧を800V級に昇圧するとなれば、システム保護や冷却性能も考慮することになる。つまり、パッケージや重量がクルマの性能を左右することになります。が、われわれには12気筒という象徴的なパワーユニットがありますので、それを生かし切るパワーサプライとしてこのシステムを構築したわけです」
参考までにシアンFKP 37はベースに該当するだろう「アヴェンタドールS」に対して45PS上となる785PSをエンジンのみで発生。これに件(くだん)の34PSとなる48V駆動用モーターを組み合わせ、システム合計出力では819PSを発生する。0-100km/h加速は2.8秒、最高速は350km/h以上とされるが、モーターの特性を鑑みればその真価は低中速域でアシストが加わった際にこそ発揮されるはずだ。
それを端的に示す数字として、70-120km/h加速は最新の限定車となる「アヴェンタドールSVJ」と比較して1.2秒も短縮されるという。ちなみにモーターアシストの範囲は100km/hまでというから、70-100km/hの間に強烈なプッシュが加わっているということだろう。
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電動スーパーカーへの第一歩
モーターをトランスミッション内に収めるがゆえ、ハウジングから再設計されたというシアンFKP 37のトランスミッションはグラツィアーノ製のシングルクラッチ式ISRを継承するが、電動化による副次的な作用として、ストラーダモードでのシフトアップ時のトルクの落ち込みを瞬時にモーターの駆動でカバーする機能も加えられている。また、スーパーキャパシタへの蓄電は100%減速エネルギーの回生で賄われ、短時間・極低速であればモーターのみの前進後退も可能となっている。
「われわれのモデルの根源的な魅力を削(そ)いでまで燃費性能を望むカスタマーが多くいるということはないでしょう。つまり、シアンFKP 37は12気筒エンジンの近未来の継続性を示唆するとともに、先のコンセプトカー、テルツォ ミッレニオで示したピュアEVのスーパースポーツへとつながる第一歩でもあります」
ランボルギーニのテルツォ ミレニオは、技術研究のパートナーシップを結ぶMITとのコラボレーションをもって2017年に発表された。こちらも電源はスーパーキャパシタ的な発想で、しかも自らの車体に使用するカーボン材を蓄電に使用するという大胆なコンセプトは、2035年の実現を目指しているという。
シアンFKP 37は今後ランボルギーニが向かうであろう電動化への貴重な第一歩であるとともに、12気筒を可能な限り延命させるのみならず、さらにパフォーマンスアップを果たすことを実証するモデルとして歴史に名を残すことになるはずだ。ちなみに現時点ではランボルギーニの創業年にちなんだ63の限定台数は完売。さらにごく少数、スパイダーの追加もうわさされるが、それも完売は必至だという。
(文=渡辺敏史/写真=ランボルギーニ/編集=櫻井健一)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。