第599回:世界ラリー選手権に新チャンピオン誕生! WRC第13戦ラリーエスパーニャを現地からリポート
2019.11.04 エディターから一言 拡大 |
世界ラリー選手権(WRC)でTOYOTA GAZOO Racingのオイット・タナック/マルティン・ヤルヴェオヤ組が年間タイトルを獲得! 劇的な展開となった第13戦ラリーエスパーニャの様子を、現地からリポートする。
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エストニア人初のWRCチャンピオン誕生
カタルーニャ独立派の指導者が長期の禁錮刑を受けたことに抗議する、大規模なデモが繰り広げられるバルセロナ。そこへ降り立ったボクは、あふれるジャーナリスト魂を抑えきれず、街に繰り出そうと考えた。考えたのだけど、レンタカー屋のオヤジに「人いっぱいだし、やめたほうがよくね?」と言われ、他人の提言を尊重するボクは、市街地とは反対方向へとおとなしくクルマを走らせたのでした。
去年のこの時期はちょうどパリにいて、同じようにデモの様子を撮影しようと地下鉄でシャンゼリゼに向かい、死をも覚悟して地上に出てみたらそこは戦場ではなく普段の観光地。ジャーナリスト魂を発揮できる時は果たしてくるのでしょうか?
……と、まあそんなことは置いといて、微妙に高くて追い剝ぎのように料金を徴収される高速道路を西へ1時間ほど走り、リゾート地でもあるサロウという街へ。カタルーニャ地方で開催されたラリーエスパーニャに行ってきました。ホントは「スペインはパスして最終戦オーストラリアに行こう」と思ってたのだけど、「ひょっとしたらスペインでチャンピオンが決定するんじゃね?」と思い、急きょやってきた次第。何といってもスペインはゴハンがおいしいし、天気が良ければ仕事する気なんてなくなるほどステキなところだしねえ。
そんなこんなで、あらためまして、やって来ましたラリーエスパーニャ! 皆さんすでにご存じのことと思うので結論から言わせていただくと、トヨタのオイット・タナック/マルティン・ヤルヴェオヤ組が総合2位でフィニッシュ。今年のドライバーズ&コドライバーズタイトルが決定しました。エストニア人初のWRCチャンピオンが誕生。やったね! タナック、ヤルヴェオヤ。そして勘が当たったオレ。
ヒュンダイによる盤石の“タナック包囲網”
状況を振り返らせてもらうと、タナックはこの大会で、ランキング2位のティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)に累計で31ポイントの差をつけることができれば、最終戦オーストラリアを待たずにタイトルが決まります。それに対し、ヒュンダイはタナック包囲網として地元出身のダニエル・ソルドに、昨年ここで勝利しているセバスチャン・ローブも投入。タナックのタイトル持ち越し&ヌービルの逆転優勝に向けて、万全の布陣としたわけです。それだけでなく、スペインで事前テストを敢行し、ローブもスペイン国内戦に参戦するなどして腕を鳴らしていた次第。ドライバーズタイトルとマニュファクチャラーズタイトルの両方の獲得を目指す、本気も本気の体制でした。
で、いざフタを開けてみると、タイトルの可能性がギリギリあったシトロエンのセバスチャン・オジェがマシントラブルで早々に脱落したりといろいろあったのだけど、これまた文字数の都合で割愛。話はいきなり最終日に飛びます。1位ヌービル、2位ソルド、3位タナックの順位でスタートしたこの日、ソルドはSS15でベストタイムたたき出してヌービルを援護。パワーステージとなる最終SSは、タナックが総合でヌービルよりひとつ下の順位となるか、ヌービルより多くのパワーステージポイントを獲得すればその場でチャンピオンが決定するという、ヒリヒリとした緊張感あふれる状況で迎えることとなりました。
当初の予定から出走順が変更されて、タナックが最終走者となったこのステージ。突然の出走順の変更に「ああ、もうみんなタナックのチャンピオン決定に期待しているのね」なんて思っていたら、なぜか(失礼!)Mスポーツ・フォードのエルフィン・エバンスが好タイムでフィニッシュ。そのタイムをローブもソルドも、そしてヌービルも破ることができません。
5.8秒差を跳ねのけての2位入賞とタイトル獲得
暫定2位はヌービル。タナックがここでタイトルを決めるためには、パワーステージを2位以上、総合3位以上でフィニッシュする必要があります。「さすがにオーストラリアに持ち越しかなあ」と思っていたのだけど、タナックはエヴァンスのタイムを破り、トータルで5.8秒も差のあったソルドさえ逆転して総合2位! この瞬間、タナック/ヤルヴェオヤ組のチャンピオンが決定しました。1位ヒュンダイと2位トヨタがしのぎを削るマニュファクチャラーズタイトルは、最終戦オーストラリアに持ち越しです。
なに? この漫画みたいな展開。出来過ぎやろ、と思ったけど、オーストラリアには行けない自分としては、新チャンピオン決定の瞬間に立ち会えて感無量。しかも、こんなドラマチックな展開で決まるなんて。ギャラリーやメディアにもみくちゃにされながら、ヤリスの屋根に上ったタナックとヤルヴェオヤが抱き合ったシーンでウルウルきたボク。こんな姿を国際映像でお茶の間の皆さんに見られるなんて死ぬよりつらいので、カメラで顔を隠しとりました。いや、ちゃんと撮ってたけどね。
どこのラリーにもエストニアから大挙して駆けつける“タナック応援団”の喜びようときたらもう。サロウの海岸で行われるポディウムフィニッシュに向け、タバードを着てカメラを持って歩いていたら、エストニア人グループに握手やハグされまくり。これがかわいいお姉さんならよかったんだけど、以前にも触れた通り、タナック応援団の構成員はほぼおっさんなんですね。しかも酒臭い。でも、まあおめでたいから許しちゃう。みんなおめでとう! 先日の来日で地下鉄に乗る姿が話題になったカリユライド大統領も祝福のコメントを発表するなど、エストニアはそりゃもう大騒ぎとなったようでした。
と同時に、ラリーに国境や国籍なんか関係ないよねえ、などともしみじみ感動した次第。ローブ、オジェとフランス人チャンピオンの時代が続いてきたWRCですが、そんな彼らのファンはもちろん、他の国のファンも新しいチャンピオンの誕生を祝福。いやあ、ラリーって本当にいいものですね。
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まさかまさかの急展開!
……と、ここで話は終わりません。
さーて原稿も送ったし、寝るかねえとお布団に入ってもぞもぞしてると、チロリーンとメールの着信。確認したらヒュンダイモータースポーツからのリリースです。こういうメールはしょっちゅう来るし、またいつものかねえ、と寝ぼけナマコで開いてびっくり。チャンピオンを決めたタナックとヤルヴェオヤ、トヨタやめるってよ。そう、ヒュンダイへ移籍です!
確かに、カタルーニャの開催中からそんなウワサが流れていました。ボク自身も、ヒュンダイのチームディレクター、アンドレア・アダモとタナックが、ナニやら親密にお話ししている場面に遭遇。「おやおやこれは穏やかではありませんなあ」と感じてはいたのですが、まさか本当に移籍するとは。野球で言うと、アニキ金本が広島から阪神へ移籍した時級の衝撃ですね、ボク的には。
そうそう、アニキといえば、ラリーではサービスイン(車両がラリーカーの整備などを行うサービスパークに入ること)の前に時間調整をするのですが、アダモはいつもそこに出向いてクルーを激励したり、アドバイスを送ったりと、はたから見てもいかにも「面倒見の良さそうなアニキ」って雰囲気なんです。こんな人が上司なら、部下もやる気を出すってもの。他のチームのディレクターがそんなことをしてる場面は見たことがありません。
そんなアダモ兄貴のもとに移籍したタナックに加え、ヌービル、ソルド、ローブですよ。バース、掛布、岡田というダイナマイト打線級のラインナップを完成させたヒュンダイ。一方、エースのタナックが抜けたトヨタの補強も気になるところ。2019年のWRCはまだ1戦残っていますが、早くもストーブリーグから目が離せませんな。
(文と写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)

山本 佳吾
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