第151回:黒まむしスッポン丸
2019.11.19 カーマニア人間国宝への道2年半ぶりにフェラーリを購入
いつの間にか当連載も150回超え。開始から3年以上の歳月に耐えることができました。ありがとうございます。
第1回はどんなことを書いてたのかと読み返せば、タイトルは『地球史3大事件』。ずいぶん大きく出てるな……。
当時私はまだ54歳。57歳から見ればケツの青い若輩者でした。当時の愛車は「フェラーリ458イタリア」と、うーん、思い出せない。
その後かなり速いペースでクルマを買い換え、連載開始から約1年後の2年半前に、現在の「フェラーリ328GTS」「BMW 320d」(先代)、「シトロエンDS3」というラインナップが完成。以後、安定した政権を維持して参りました。
つまり私は、クルマを買うことが趣味のカーマニアでありながら、2年半もクルマを買っていなかったのです!
それに関しては忸怩(じくじ)たる思いを抱いておりましたが、なにせ年のせいかなかなか鼻血が出ない。見た瞬間に「うおおお、欲しい!」と鼻血が出なければクルマは買えない。
ところが、その鼻血が久しぶりに出た! そして買った! 買い換えました! それも、BMWとかシトロエンじゃなく、フェラーリです!
今回買ったのは、フェラーリ328GTSです!
そう、前とおんなじクルマです! ただボディーカラーが違うんです! 今度買ったのはブラックメタなんです!
赤から黒! あとはまるで同じです!
180万円で赤から黒に
赤も黒もヨーロッパ仕様。年式は赤(愛称:赤い玉号)が86年、黒が89年なので、前期型→後期型ということになり、細かく見れば微妙に違うところはあるけれど、それこそマニアレベルの差だ。
さらに細かく言うと、赤い玉号は購入時点で走行4万5000kmで、お値段はコミコミ980万円だったけれど、今度の黒は走行わずか2万3000km、お値段はコミコミ1130万円と、150万円ほど高くなっております。
ネオクラシックフェラーリは、中古価格がじわじわ上昇しておりまして、「F355フィオラノハンドリングパッケージ」のバリもんなんざ、ヘタすりゃ2000万円を超えておる由。
「328」も、「GTB」の走行距離が少ない個体は、ドーンと値上がりしておるようです。GTSはそうでもないですが、やっぱ2万km台というのはかなり希少で、1130万円は納得のお買い得価格。
ただ、赤い玉号を下取りに出すので、追い金はたったの180万円! 「計算が合わないじゃないか」と思うかもしれませんが、そこは26年来の付き合いのエノテン(コーナーストーンズ代表・榎本 修氏)とのやり取りなので、よくわからない高価下取りを発動してくれた気配だ。本当にありがとうございます……。
180万円で赤から黒にできる! 別に赤より黒のほうが偉いわけじゃないけど、私は実は心の底では黒の328が欲しかったらしく、見た瞬間にビビビと来て、差額を聞いた瞬間に鼻血ブー、試乗もせずエンジンすらかけず、信頼の絆に縋(すが)って「これ、お願いします」と申しおりました。
やっぱりクルマを買うのって気持ちいいし、コーフンするね!
スッポンパワーいただきました!
で、この買い換えを皆さまに報告したところ、当初は「なぜ!?」という反応が相次ぎました。
考えてみりゃクルマを買い換える時って、なにかしら中身が違うのを選ぶよね。でも私は色違いのまったく同じモデルに買い換えた。これはかなり珍しいことらしい!
でも、フェラーリ様の場合は、全然アリなんですよ!
そりゃ、赤い「ノートe-POWER」から黒いノートe-POWERに買い換えたら「ナゼ!?」「狂ったの!?」って感じだけど、赤い328から黒い328への買い換えはまったく自然だ。
なぜならフェラーリ様は、地上唯一の自動車芸術だから! 色が違うってのは大変な違いなのだ。
実際、赤い328と黒い328を並べると、受ける印象は大幅に違う。赤い328は我ら中高年大衆にとって憧れの結晶、あるいは夢の平均値のようなもので、それに乗る自分は純情な童貞君のように感じる。なにせ『カーグラフィックTV』のオープニングを見て憧れまくった初恋のクルマだから!
しかし黒い328だと、それなりの人生経験を経て、酸いも甘いも知り尽くした末にたどり着く終着駅って感じがしませんか? ショーン・コネリーが乗ってそうな。
とにかく、黒い328GTSを買う! と決めた瞬間、なぜか身体にパワーが漲(みなぎ)ってきた。しょぼくれたオッサンに元気が戻ってきた! まるでスッポンパワー! スッポンって黒くて平べったいし。
そして命名しました。愛称は、“黒まむしスッポン丸”です。
さあ、車庫証明取りに高井戸警察に行こうっと。ルンルン。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信、木村博道/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな 2025.9.22 清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?
-
第318回:種の多様性 2025.9.8 清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。