第607回:2021年モデル以降の全車を180km/h制限に ボルボの安全宣言が未来のクルマ社会を変える!?
2019.11.23 エディターから一言![]() |
ボルボ・カー・ジャパンは2019年11月13日、東京・港区のボルボ スタジオ 青山において、安全に関するセミナーを開催した。“セーフティーリーダー”を自認する同メーカーが、未来に向けて発信する新たな取り組みとは?
![]() |
![]() |
![]() |
すべてのボルボ車の最高速を180km/hに制限
ボルボでは2007年に安全な未来への指針として、「2020年までに新しいボルボ車に搭乗中の事故における死亡者または重傷者をゼロにする」ことを目指した「VISION 2020」を発表している。しかしながら、技術面だけでは難しいことを認識し、今後はドライバーの行動面にも焦点を当てていく予定だ。
そこで今回は、「VISION 2020」の提唱者でもあるヤン・イヴァーソン氏が来日し、今後の対策についてのより詳しい説明が行われた。
その中心に据えられるのが、2021年モデル以降のすべてのボルボ車の最高速度を180km/hに制限する、という思い切った対策だ。ハイパフォーマンス仕様となる、ポールスターのエンジニアードモデルもその例外ではない。
同時に、任意で速度を制限できる「ケア・キー」を発表、こちらも2021年モデル以降のすべてのボルボ車に標準で装備される。
スピード超過以外の酒酔いや酩酊(めいてい)、注意散漫に対処するために、車内カメラの導入も行う。具体的には、ドライバーの目の動きや姿勢、ステアリング操作やブレーキ操作を始めるまでにかかる反応時間といった操作パターンを解析し、ドライバーが警告に反応しないなどの危険状態にある場合には、ドライバーの意思に反してでも減速、完全にクルマが停止するまで介入する。
ボルボのスピード対策
では、なぜ制限速度を180km/hに設定したのか。
イヴァーソン氏はこう答える。
「いろいろな検討をしましたが、一般的なドライバーのスピードレンジを考慮しました。速度制限をするのは、運転による自由を感じるうえで敏感になりやすい問題です。とはいえ、180km/hまで出すという人は通常はいないでしょう。もっと設定速度を上げることも考えましたが、若い人で検討したところ、スピードが上がれば上がるほど状況が悪くなるという結果が出ました。そこでトップスピードを180km/hに設定しましたが、そこからまた変えていく可能性もあります」
まずは180km/hでやってみるというスタンスだが、この取り組みをきっかけに、速度制限に対する議論を始めたい考えだ。
実は、ボルボの速度制限に関する試みは、2014年に欧州で発売された新世代「XC90」からすでに始まっている。「レッドキー」という、その名の通り赤い鍵だが、車載システム上で親キーと一緒に設定を行うことで、レッドキーを渡された息子や娘といったドライバーが、必要以上にスピードを出さないよう制限できるというものだ。
現時点では55~250km/hまでの速度域で設定できるが、ヨーロッパで他メーカーが販売したISA(インテリジェント・スピード・アシスタンス)搭載車のように、アクセルを踏み増すことでリミッターがキャンセルされ再加速する、といったことはない。
こういった試みはあったものの、2016年に日本でXC90が導入された際には、レッドキーが大きくアピールされることはなかった。ボルボ・カー・ジャパンの広報によれば「説明書に記載されている程度」だったというが、2019年3月の「ボルボ・カーズ・モーメント」で発表された取り組みや、日本国内で高齢者による事故のニュースが重なったこともあり、現在は問い合わせが増えているという。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
セーフティーリーダーとしての自負
全車に180km/hの速度制限を導入するというのは、話をスピードに限れば、クルマに対する“去勢”とも捉えられかねないし、ネガティブな意見が飛び出すことも考えられる。実際、イヴァーソン氏の発表の中では、この方針を打ち出した際に「クルマが180km/h以上で安全に走れないなんて、弱さの証しだよ」「自分のことは自分で決めたい。おせっかいな国は嫌いだね。自分のクルマで自由に走れないなんておかしい」といった意見があったことも紹介された。
とはいえ、氏は力強くこう続ける。
「こういったネガティブな意見は、60年前に3点式シートベルトを装備したときにもあったんです。でも、今ではほとんどの人が使っていますよね」
ボルボがここまで思い切った改革に踏み切った背景には、「2022年以降に販売される新車にISAを義務付ける」とした欧州議会の決定によるものも大きいと推測する。が、おそらく同社もその動きに少なからず影響を与えているのだろう。決定に対していち早く対応し新たな宣言をしたところに、セーフティーリーダーを自負するボルボの覚悟が見てとれる。
3点式シートベルトから始まったボルボの取り組みは、新たなセーフティースタンダードを築くことができるのだろうか。今後の動きに注目したい。
(文=スーザン史子/写真=スーザン史子、ボルボ・カーズ)

スーザン史子
-
第848回:全国を巡回中のピンクの「ジープ・ラングラー」 茨城県つくば市でその姿を見た 2025.10.3 頭上にアヒルを載せたピンクの「ジープ・ラングラー」が全国を巡る「ピンクラングラーキャラバン 見て、走って、体感しよう!」が2025年12月24日まで開催されている。茨城県つくば市のディーラーにやってきたときの模様をリポートする。
-
第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す 2025.10.3 2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。
-
第846回:氷上性能にさらなる磨きをかけた横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤ「アイスガード8」を試す 2025.10.1 横浜ゴムが2025年9月に発売した新型スタッドレスタイヤ「アイスガード8」は、冬用タイヤの新技術コンセプト「冬テック」を用いた氷上性能の向上が注目のポイント。革新的と紹介されるその実力を、ひと足先に冬の北海道で確かめた。
-
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ 2025.9.18 BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。
-
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学 2025.9.17 栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。
-
NEW
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。