第159回:ビバ! ポンコツ147
2020.01.21 カーマニア人間国宝への道激安イタ車に魅せられて
アルファ・ロメオを愛するカーマニアにとって、何を買ったらいいのか難しい時代になったが、激安で気軽にイタ車を楽しもうと思ったら、数少なくなった「アルファ147」のMT車をゲットするしかないというのは、ひとつの真実と言えようか。
私の身近に、それを実行している男がいる。『週刊SPA!』の私の連載『SPA! AUTOCLUB』の担当Kである。
彼はもともと、中古アウディを2台乗り継ぐ質実剛健な青森県人だった。しかし5年前、私からポンコツ147をタダで譲られたことでカーライフが激変。以後、激安イタ車を愛する変態に成長した。
当初は、「激安イタ車なんて怖すぎる!」と思っていた彼も、私から伝授された「イタ車はポンコツほど尊敬される」とか「イタ車は故障が自然治癒する(こともある。特に電気系)」とか「オイル漏れは治そうと思うな、つぎ足せ」とか「とにかく細かいことは気にすんな!」といった奥義を徐々に体得し、今では激安イタ車をなるべく激安で延命させることが生きがいになった。
ただ、私が譲った147は、2年ほど前、15万kmを目前にして廃車になった。ダンパーは完全に抜け切ってコーナーで外側の前輪がタイヤハウス内側に干渉、超強力な外輪ブレーキングアンダーステアを発生させるようになり、クラッチやブレーキパッドの余命もわずかとなって、交換パーツ代で激安車が買えるレベルに達したため、涙の別れとなったのであった。
その後1年半ほど、これまた0円で譲られた先代「パンダ」に乗っていたが、昨年冬、通りかかった中古車店で見かけた28万円のアルファ147に一目ぼれ。その場で購入を決めたという。
イタリア車を、そしてアルファ・ロメオを愛するカーマニアとしては、「なぜまた147!?」という思いは湧く。「GTA」ならともかく、フツーの147ツインスパークはあくまで“薄味のアルファ・ロメオ”なのだから。
しかし彼にとっては初めてのイタ車が147であり、ヒヨコがニワトリの後を追うように、それが初恋の女神様になってしまった。
理想の女神「アルファ147」
彼が見つけた147は、見た目は以前とまったく同じシルバーの3ドアだが、彼によれば「まったく違いますよ!」だそうだ。
担当K:だってコレは並行ものの左ハンドルだし、エンジンは1.6ツインスパークですから! 清水さんからもらったのは右ハンドルの2.0でしたから、全然別物です!
私も、「フェラーリ328」はディーラー仕様とヨーロッパ仕様(並行もの)ではまるで別物だと断言するが、周囲から見たら「どこが?」だろうから、その気持ち、わからないではない。
担当K:やっぱり147は3ドアが断然カッコいいです! 5ドアとは違います! なにより左ハンドルのMTですから! 以前清水さんに、「真のエリートは、左ハンドルのMTを自由自在に駆使できる者だけだ」って言われて、ずっと目標でした。この147は、僕にとってはすべてを兼ね備えた理想の女性です!
左ハンドルMT神話……。確かに昔は存在したよねぇ。いまだそれを信奉してくれる者がいることに目頭が熱くなる。思えば左ハンドルのMT車、今じゃかなりレアだし、あえて買おうと思ったらけっこうお値段張りますから、それが28万円で買えれば理想っちゃ理想だよね!
というわけで、担当Kの理想の女神様・激安アルファ147だが、すでに深刻なトラブルも経験している。
昨年7月、深刻な電圧の低下が電圧計に表示され、「ここでエンジン止めたら二度とかからない!」というプレッシャーの下、発進で見事にエンスト。甲州街道のど真ん中でエンコして深刻な渋滞を発生させたのである。社会のメーワクですな……。
ポンコツを手塩にかけるよろこび
担当K:激安で買った韓国製バッテリーがハズレだったとばっかり思ったんですが、実はオルタネーターの寿命でした。純正品に交換すると10万円以上かかるって聞いて真っ青になりましたけど、eBayでドイツから取り寄せたらたったの2万円! ただ、到着に2カ月近くかかって、修理工場には迷惑かけました。
工場も渋滞である。その他右側パワーウィンドウは死亡中だが、運転席側が動けば車検は通ったため放置中。「細かいことは気にすんな!」を実践している。たぶんとっても不便だと思いますが……。
この147、以前私が試乗したときはビックリするほどパワーがなかったが、その原因はプラグにあったという。
担当K:プラグを外してみたら、全部サビサビで端子も溶けかかってました。8本(ツインスパークのため)全部交換したら加速が見違えました!
まさか今どき、プラグ交換で加速が見違えるなんてあんのか? と思ったら本当でした! 以前とはまるで別物! 2リッターと遜色ないほどパワーを感じるしフケもイイ! さすがポンコツはなにをやっても効果バツグンだね!
担当K:オイル交換でも走りが見違えるんです。そのたびにうれしくてしょうがないんです! 心が通じ合ってるみたいに感じます!
ここまで言えれば、カーマニアとして最高のシアワセではなかろうか。正直うらやましい。激安車を手塩にかけることこそ、最大限安く最大限カーライフを楽しむ方法と言えるかもしれん。失うものもないし。いいクルマを買うだけが能じゃないね! ビバ、ポンコツ!
そんな担当Kの最後の夢。それは、この147で華麗にヒール&トウをキメることだ。今どきヒール&トウが夢ってのも古式ゆかしくて涙が出るが、ペダル配置の関係で、どうしてもうまくいかない。
私が試してみたところ、確かにこれは難しい! 右ハン147ではそれほど難しくなかったが、左ハンはアクセルペダルのすぐ右側に壁があるので、そこにかかとがひっかかってしまうのだ。
それでもなんとかギリギリ決めて見せたところ「できるんだ……。僕も頑張ります!」と目をキラキラさせていた。
激安アルファ147を愛するモテないカーマニア(既婚)に、幸あらんことを祈る。
(文=清水草一/写真=清水草一、担当K/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。