アルファ・ロメオ4Cスパイダー イタリア(MR/6AT)
奇跡のロードゴーイングレーサー 2020.02.03 試乗記 専用設計のカーボンモノコックに1750ccの直4直噴ターボエンジンを搭載したアルファ・ロメオのミドシップスポーツカー「4C/4Cスパイダー」。その走りは「レースカーさながら」と表しても過言ではない、刺激に満ちたものだった。欧州でも米国でも販売終了
近年、度々移ろいできたアルファ・ロメオのビジネスプランにあって、クルマ好きからその存続が常に危ぶまれてきたクルマが4Cだ。
特にセルジオ・マルキオンネ元CEOは、2018年に急逝する直前、アルファ・ロメオの方針説明会において大胆なスーパースポーツ路線へのシフトを発表。その際、専門誌のインタビューで「4Cについては仕向け認証適合的な理由もあり存続が難しい」とコメントしていたこともあって、ディスコンは既定路線とみられていた。
そして欧州メディアが「4Cは生産終了」と報じたのが昨2019年11月の話だ。早速イタリアやアメリカのアルファ・ロメオのサイトをのぞきにいくと、確かに4Cの姿は消えている。タイミング的にはマセラティの「グラントゥーリズモ」シリーズ生産終了の発表と重なっていたので、並行して4Cや「8C」の生産も担ってきたモデナのチーロ・メノッティ工場の設備や体制に変化があるのかもしれない。
が、日本のアルファ・ロメオのサイトをみると4Cは健在だ。その辺りの事情をインポーターに尋ねてみると「4Cは排ガス規制のため欧州をはじめとして販売を終了していますが、その他の国については可能な限り販売を継続する予定です」とのことだった。
異様なまでにショート&ワイド&ロー
4Cの存在が公に示されたのは2011年のジュネーブモーターショーだ。発売は2013年、日本上陸は2014年になる。いちスポーツモデルのライフとしては意外にも長いが、“目慣れない”こともあっていまだに鮮度は高い。
発売後に日本の路上で乗った4Cの印象は鮮明に覚えている。クルマの側から「踏め踏め」とけしかけられるがままに調子こいて思慮なくぶっ飛ばしていると、相当ヤバいことになる。そんな気配がぷんぷんと漂う。イタリア車にはその情熱と表裏で魔性が潜んでいるなんて悪女的な言われようをされて、皆々がそれにときめいていたのは1980~1990年代のことだろうか……と、その時代の感覚がよみがえった。乗るだけでこんなにヒリヒリする感覚のアルファ・ロメオって、なんか似てるのあったよなぁと思い起こせば、くしくもそれは90年代のミステリアスな一台、ES30の「SZ」だ。
往年の「ティーポ33」のエッセンスをまとったとされる4Cは、それよりも断然王道のスタイリングだが、スタンスはちょっと尋常ではなく、ホイールベース/トレッド比は前輪ベースで1.45と、かの「ランチア・ストラトス」さえ超えている。そこに加えてわれわれに身近なホンダで例えてみれば、「フィット」と同じ全長に「アコード」超えの全幅、そして「S660」並みの全高と、見た目の印象はスーパーカー同等のタダならなさがある。
最大の技術的特徴であるプリプレグ製法のカーボンモノコックタブは、ぶっといサイドシルの割に高さや開口形状が工夫されていることもあって、乗降性は想像よりは悪くない。似たようなコンセプトのモデルとして筆頭に挙げられる「ロータス・エリーゼ」と同等以上という印象だ。
このパッケージで右ハンドルであればペダルオフセットはある程度割り切らなければならないが、それでも下半身をよじるほどではない。そして2ペダルということもあり、左右ピッチは大足の僕でも踏み違えない程度に確保されている。
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スーパーカーよりはるかに手ごわい
むしろくせ者なのは床側から生えるブレーキペダルのコントロール性で、踏量重視で動作は重め。そしてサーボアシストも弱く、カカトをフロアに置いてのイージードライブには向いていない。繊細な操作には靴を選ぶのは、その趣旨を鑑みれば仕方のないところだろう。そのぶん、4Cのブレーキタッチは秀逸だ。ペダル類の支持剛性の高さはあまたの市販車とは別次元で、そのフィードバックの鮮やかさは踏み込むほどにディスクをパッドでギューッと締め込むサマが足の裏からのぞけるかのようだ。
その点で言えば、ステアリングのタッチも素晴らしい。前輪の旋回力の立ち上がりやねじれ感などが手のひらを通して生々しく伝わってくる。が、それは多分にノンアシストの効能であって、据え切りや走りだしでは憂鬱(ゆううつ)なくらいに舵は重く、わだちや不規則な凹凸などを拾ってはそれを常に腕っぷしで押さえ込む必要もある。タイヤも低偏平(へんぺい)で逃げが小さく、そのキックバックはなかなか強烈だ。昔のクルマを知る向きにはなんてことはないだろうが、今日的な感覚で言えば、そこらのスーパーカーよりよっぽど手ごわいと思っておいたほうがいい。
4Cが今日的なクルマと違うという点で言えば、乗り心地関係もそうだろう。硬すぎて乗れないというほどではないにせよ、粗い舗装面ではビリビリと振動を伝え、凹凸を越えれば正直な突き上げが車体を揺する。アルミほど鈍くはなく、スチールほど高周波でもない残響感はカーボンモノコックならではの特性だ。同様の構成を採るマクラーレンなどは凝ったサスや電子制御ダンパーでこの癖を見事に抑えているが、前述のごとく4Cは生成りの丸腰キャラゆえ、それが容赦なく現れる。
言い換えればそのフィードバックのドライさは、大げさでなく「F50」や「エンツォ」などといったフェラーリのスペチアーレとよく似ている。そういえば、重量65kgというこのタブを設計したとされるダラーラは、先日悲願の市販車を発売したが、くしくもそれは4Cのコンセプトをさらに先鋭化させたようなモデルだった。すなわち、4Cにはそういうカテゴリーが放つロードゴーイングレーサー的な刺激がある。
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クルマ好きの熱狂を体現したモデル
4Cは楽をするためのクルマではない。ナンバーやエアコンが付いてるのは棚ぼたであって、格闘としての運転をどこまでフィルターレスで精細に味わわせるかということに真っすぐに向き合ったクルマだ。最も生き生きするのはもちろんクローズドコースだし、そこではあまたのスポーツモデルとは別格の素晴らしい応答性や回頭性をしこたま楽しむことができる。そして恐らく30分も走り込めば、クルマの限界以前に自分の体力の側の限界を感じることになるだろう。
4Cのよさは、そのフィジカルなスポーツドライビングの一端を、オープンロードでも味わわせてくれることだ。同様の世界観を持つモデルは多くがサイズやパワーがとんでもない領域に達していて、もはや踏むこと自体がはばかられるようなパフォーマンスに達している。が、4Cならば早朝のワインディングで軽くひと汗流すくらいの戯れも勘弁してもらえるかなというくらいにはつつましい。“ほぼ1750cc”の4気筒ユニットは、今日びの直噴ターボらしく回転フィールやサウンドに悶絶(もんぜつ)感は乏しいが、パワー的には刺激と社会性の折り合いをうまくつけている。
趣味的観点からみれば、こんなぜいたくなクルマが希望小売価格3ケタ万円(特別仕様の試乗車は4ケタ万円だけど)で買えていたということ自体が奇跡だと思う。このご時世を鑑みるに、今後4Cのようなクルマがプロダクションのラインに載るような話は可能性として極めて低く、仮に再びそれが現れたとしても、積んでいるのは電動モーターではないかと思う。4Cというクルマは内燃機の時代を生きてきたわれわれの、クルマに対する熱狂を代弁する存在としても十分に有り難いものだ。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
アルファ・ロメオ4Cスパイダー イタリア
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3990×1870×1190mm
ホイールベース:2380mm
車重:1060kg
駆動方式:MR
エンジン:1.75リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:240PS(177kW)/6000rpm
最大トルク:350N・m(35.7kgf・m)/2100-4000rpm
タイヤ:(前)205/40ZR18 86Y/(後)235/35ZR19 91Y(ピレリPゼロ)
参考燃費:--km/リッター
価格:1130万5556円/テスト車=1151万3495円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ルームミラーモニター+リアカメラセット(9万4089円)/Alfa Romeo純正Wi-Fi対応ドライブレコーダー(4万2900円)/ETC車載器(1万0450円)/ナビゲーションシステム(6万0500円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:3048km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:161.1km
使用燃料:19.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.4km/リッター(満タン法)/8.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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