BMW M850i xDriveグランクーペ(4WD/8AT)
直球あっての変化球 2020.02.28 試乗記 BMWのラグジュアリークーペ「8シリーズ」に、4ドアバージョンの「グランクーペ」が登場。リアシートの使い勝手や2ドアモデルとの走りのちがい、さらにBMW自慢の「ハンズオフ機能付き渋滞運転支援システム」の仕上がり具合などをリポートする。見事なパッケージレイアウト
8シリーズの実質的な前身モデルといえる「6シリーズ グランクーペ」が「5シリーズ」では飽き足りない人向けだったとすれば、この8の4ドア版は「7シリーズ」にはちょっと違和感をおぼえる富裕層に向けた商品ということができる。かつての5と6とでは価格設定が明確に6のほうが上だったが、同じパワートレインを積む7と8を本体価格で比較すると、細かい装備差はあるにしても、その差はわずか。というより、モデルによっては7のほうが高価な場合と、逆に8の価格が上回るケースが混在する(くらいに両車は近い)。
8シリーズ グランクーペの全高は2ドアの「クーペ」に対して、フロントウィンドウ角度をわずかに立てることで60mm高くされている。合わせて長さ方向はホイールベースで205mm、車体全体で230mm長い。こうしたバランスのおかげで、8のグランクーペを単独で見るかぎりクーペや「カブリオレ」とのファミリー感もきちんとあり、とにかくベターッと低い。8シリーズ クーペでも特有の、まるでナイフで削り取ったかようなリアクオーターやルーフの造形も健在である。
8のグランクーペでのパッケージレイアウトの仕事は見事なものと思う。こんな見た目でありながら、後席は驚くほど広い。前後方向に十二分な余裕があるのは数値でも想像できる。身長178cmの私が前後に座っても後席で足が組めそうなレッグルームは、実寸でも7シリーズの標準サイズより広いくらいだ。しかし、本当に驚くのは上下方向。日本人としてはけっして小柄ではないのに、典型的な胴長体形の私がリアシートに深く腰かけても、ヘッドルームは必要十分である。まあ、広々としているわけではなくても、不足もないのだ。
あくまでドライバーズカーとしての用途で、自分より目上の人間を日常的に後席に座らせるのでなければ、この8グランクーペは7シリーズの代替に十二分になりえる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
2ドアモデルとの走りのちがい
4.4リッターV8ツインターボ「N63」型は「M8」が使っているBMW最強エンジン「S63」と基本設計を共用するものの、「クロスバンクエキゾースト」などは不採用。結果として最高出力はM8比で70PS低いのだが、750N・mの最大トルクは、おそらく変速機の許容トルクの問題なのだろう、M8と変わりない。
そんなこともあって、日常域では「M850i」だろうがM8だろうがトルクが湯水のように湧き出る。アクセルペダルをちょっと深めに踏んだだけで、背筋がゾクッとするほどの加速Gがお見舞いされる。
ホイールベースが長くて開口部も多い4ドアでありながら、単独試乗における剛性感で2ドアに大きく引けを取らないと感じるのは、背骨となるセンタートンネルにカーボン強化複合樹脂(CFRP)を配した独自の車体構造「カーボンコア」によるところも大きいのだろう。ちなみに、7シリーズも同様のカーボンコアをうたうものの、その構造設計やCFRPの使いかたはそれぞれ異なり、8シリーズはあくまでカブリオレも含めたバリエーションありきの専用構造なのだ。
電子制御ダンパーをコンフォートモードにすれば高級サルーン、スポーツモードならスーパースポーツ……という、乗り味における二面性キャラは8シリーズすべてに共通するものだ。
まあ、高速巡航などではクーペ/カブリオレなどの2ドアよりわずかにフラットな安定感が増したいっぽうで、たとえば山坂道をコンフォートモードで走ったときなどは、2ドア比でロールがわずかに速く、その後の収束もゆるい気がしないでもない。それはおそらくホイールベースと全高、それに合わせこんだフットワークの調律によるものだろう。
自在に操れるブレーキ
……といったクーペ/カブリオレとの客観的なちがいはあるものの、さすがに8シリーズのようなレベルになると、あえて重箱のスミを突いてツッコミを入れても意味はあまりない。優秀なアクティブトルク配分4WDもあって、とにかく足のしっかり着いた安定性とグリップとで、ガンガン踏める。山坂道でもすこぶる安定して、コーナリングが決まったときの、お尻をわずかに沈めた美しい姿勢での脱出加速は快感そのものである。
高速域でのグランクーペが2ドア系よりもわずかに安定感が増しているのは前記のとおりで、おそらく200km/hでも鼻歌まじりで延々と……という“アウトバーンエクスプレス”の片りんは日本の高速道でも感じられる。かわりに、山坂道ではクーペよりも「長いものを振り回している」という運転感覚がわずかにあるのも事実だが、あくまでこのクルマ単独で評価するなら、そこに鈍重さはまるでない。ホイールベースの長い4ドアだからといって、機動性が犠牲になった感もほとんどいだかせない。
そこにはクーペ比でリアのみ30mm拡幅されているトレッド設定や、低~中速域で逆位相に切れる後輪操舵の最大角もクーペより大きい……といったグランクーペ専用のチューニングも効果的なのだと思われる。
それはそうと、今回あらためて感心したのはブレーキだ。個人的な好みも加味して評させていただければ、これは絶品に近い。市街地での弱めの制動では踏みはじめから優しく上品にきいて、停止寸前の“ぬきブレーキ”も決めやすい。それでいて、強く深く踏み込むと、まるで巨人が上から押さえつけたように減速するのだ。このクルマのブレーキは直列6気筒エンジンモデルの「Mスポーツ」のそれより、さらに大径の専用品だそうである。
時々やってくる憩いの瞬間
BMW自慢の「ハンズオフ機能付き渋滞運転支援システム」は8シリーズにも備わる。
その概要をあらためて記すと、日本でハンズオフ走行の対象となるのは高速道路(=○○自動車道)や首都高速だけであり、首都圏でいうと、圏央道や東京湾アクアラインなどの自動車専用道路は対象外だ。また、高精度3Dデータで走る日産の「プロパイロット2.0」とは異なり、あくまで車載のレーダーやカメラによる前方情報に頼った走行なので、60km/hを超える高速や単独走行ではハンズオフできず、渋滞追従走行にかぎられる。
よって、現実には「高速道路や首都高速でアダプティブドライブ走行(=アダプティブクルーズコントロールとレーンキープアシストの両方を使った半自動運転状態)時に、前走車によって車速を60km/h以下まで下げられたとき……」にのみハンズオフ走行が可能となる。ここまで書けば想像できるように、使用パターンによっては、ハンズオフできる機会にそもそも遭遇しにくい人も少なくない。だから、走りだす前から「ハンズオフしてやるぜ~」と鼻息を荒くしすぎると、見事に肩すかしを食らいがちなのは事実だ。
ただ、上記のアダプティブドライブ走行時に条件が整うと「今ならハンズオフ、できまっせ」とばかりに、メーター内に警告音とともにハンズオフのアイコンが点灯する。そうなれば、あとはボタンをひとつ押すだけでハンズオフ走行がスタートする。
実際のハンズオフ走行はまだ少したどたどしい面もあるが、なんとか車線中央をキープしながら走る様子は健気でかわいらしくもある。最初に過度な期待をいだかず、日ごろからアダプティブドライブを重宝して使っていれば、思わぬところでハンズオフが訪れて、ちょっとだけ憩いの瞬間が味わえる。現時点ではこのためにクルマ選びを変えるほどのものではないが、これはこれでクルマにこれまで以上の愛着がもてるキッカケにはなるだろう。
7と8とでトップエンドを支える
かつてのBMWは、権威主義者に好まれるメルセデス・ベンツより、良くも悪くもスポーツ的で軽快、カジュアルな商品づくりを売りにしていた。ただ、熾烈な競争関係が長くなり、時代も変わっていくなかで、そうした“BMW vs メルセデス”の旧来の構図が崩れはじめている。
たとえば、今の7シリーズのフロントグリルは「Sクラス」のそれより明らかに居丈高である。このデザインはハイエンド高級車の世界では間違いなく一定の支持を受けるであろうし、7シリーズが王者Sクラスに対抗するには、これもひとつの手法である。しかし、いっぽうで前記のようなカジュアルでシャレていたBMWを好んでいた層には、今の7シリーズは「らしくない」と拒絶される可能性もきわめて高い。
ただ、こうして8シリーズ グランクーペを前にすると、7シリーズがあれほどの神殿フェイスに思い切ることができた理由も理解できる。つまりは7と8の二枚看板戦略が取れるようになったからだ。8シリーズ グランクーペはこれまでのどの7シリーズよりもスタイリッシュで、ある意味で旧来のBMW的な高級4ドア車である。この二枚看板に明確なヒエラルキー差もないから、ハイエンドBMWサルーンをご所望の向きは、7と8のお好きなほうをどうぞ……ということなのだろう。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW M850i xDriveグランクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5085×1930×1405mm
ホイールベース:3025mm
車重:2090kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:530PS(390kW)/5500rpm
最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1800-4400rpm
タイヤ:(前) 245/35R20 95Y XL/(後)275/30R20 97Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ3 ZP)※ランフラットタイヤ
燃費:8.1km/リッター(WLTCモード)
価格:1715万円/テスト車=1963万9000円
オプション装備:BMWインディビジュアルボディーカラー<フローズンブルーストーン>(52万1000円)/BMWインディビジュアルフルレザーメリノインテリア(56万2000円)/BMWインディビジュアルアルカンターラルーフライニング(16万4000円)/BMWインディビジュアルインテリアトリム<ピアノフィニッシュブラック>(4万1000円)/パノラマガラスサンルーフ(28万8000円)/Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(61万1000円)/BMWナイトビジョン(30万2000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:3318km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:448.2km
使用燃料:59.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.6km/リッター(満タン法)/7.6km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
ハーレーダビッドソン・パン アメリカ1250リミテッド(6MT)【レビュー】 2026.4.17 アメリカの大地が鍛えたアドベンチャーモデル「ハーレーダビッドソン・パン アメリカ1250」に、充実装備の上級モデル「リミテッド」が登場! 試乗して感じられた、日欧のライバルに勝るとも劣らない魅力と、どうしても気になるポイントを報告する。
-
レクサスIS300h“Fスポーツ”(FR/CVT)【試乗記】 2026.4.15 「レクサスIS」のビッグマイナーチェンジモデルが登場。もはや何度目か分からないほどの改良だが、長年にわたってコツコツとネガをつぶし続けてきただけあって、スポーツセダンとしてひとつの完成形といえるレベルに達している。“Fスポーツ”の仕上がりをリポートする。
-
モーガン・スーパースポーツ(FR/8AT)【試乗記】 2026.4.14 職人の手になるスポーツカーづくりを今に伝える、英国の老舗モーガン。その最新モデルがこの「スーパースポーツ」だ。モダンながらひと目でモーガンとわかる造形に、最新のシャシーがかなえるハイレベルな走り。粋人の要望に応える英国製ロードスターを試す。
-
ボルボV60ウルトラT6 AWDプラグインハイブリッド(4WD/8AT)【試乗記】 2026.4.13 1990年代のステーションワゴンブームでトップランナーであったボルボ。その伝統を受け継ぐモデルが「V60」だ。現行型の登場は2018年とベテランの域に達しようとしているが、アップデートされた最新プラグインハイブリッドモデルの印象やいかに。
-
アルファ・ロメオ・トナーレ イブリダ ヴェローチェ(FF/7AT)【試乗記】 2026.4.11 アルファ・ロメオのミドルクラスSUV「トナーレ」がマイナーチェンジ。走りに装備、デザインと、多方面で進化を遂げた最新型に、箱根のワインディングロードで試乗した。“CセグメントSUV”という、最量販マーケットで戦う今どきのアルファの実力を報告する。
-
NEW
スバル・ソルテラET-HS(前編)
2026.4.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバル&STIでクルマを鍛えてきた辰己英治さんが、“古巣”スバルの手になる電気自動車「ソルテラ」に試乗。パワートレインの電動化以外にも、さまざまな試みが取り入れられた一台を、ミスター・スバルはどう評価するのか? -
第57回:スズキはなぜインドに賭ける? 変わらず牛が闊歩するインドの最新工場を小沢コージが直撃
2026.4.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ小沢コージがインドへ。日本の自動車ファンにとってインドといえばスズキのイメージだが、実はスズキは現在、インドへの大型投資の真っ最中だ。なぜスズキはインドでこれほどまでに愛されるのか。最新工場を見学して考えた。 -
ボルボXC90ウルトラT8 AWDプラグインハイブリッド(4WD/8AT)【試乗記】
2026.4.18試乗記2016年に上陸した2代目となるボルボのフラッグシップSUV「XC90」の最新アップデートモデルに試乗。パワフルなプラグインハイブリッドシステムを採用する3列シートSUVの走りを、先にステアリングを握った「V60」や「XC60」との比較を交えながら報告する。 -
谷口信輝の新車試乗――ディフェンダー・オクタ編
2026.4.17webCG Moviesブーム真っ盛りのSUVのなかで、頂点に位置するモデルのひとつであろう「ディフェンダー・オクタ」。そのステアリングを握ったレーシングドライバー谷口信輝の評価は……? 動画でリポートします。 -
第866回:買った後にもクルマが進化! 「スバル・レヴォーグ」に用意された2つのアップグレードサービスを試す
2026.4.17エディターから一言スバルのアップグレードサービスで「レヴォーグ」の走りが変わる? 足まわりを強化する「ダイナミックモーションパッケージ」と、静粛性を高める「コンフォートクワイエットパッケージ」の効能を、試乗を通して確かめた。 -
ハーレーダビッドソン・パン アメリカ1250リミテッド(6MT)【レビュー】
2026.4.17試乗記アメリカの大地が鍛えたアドベンチャーモデル「ハーレーダビッドソン・パン アメリカ1250」に、充実装備の上級モデル「リミテッド」が登場! 試乗して感じられた、日欧のライバルに勝るとも劣らない魅力と、どうしても気になるポイントを報告する。


















































