BMW 840iグランクーペ エクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)
しみじみ上質 2022.12.06 試乗記 BMWの旗艦クーペ「8シリーズ」がマイナーチェンジを受けた。その中身は内外装の手直し、いわゆるフェイスリフトにすぎないが、乗ればやはりうならされるものがある。4ドアモデル「グランクーペ」の仕上がりをリポートする。やはり違う、という現実
今の時代、もうメカニズムによる違いなんて事実上ないでしょ? と、シンプルにロングボールを蹴り込まれると簡単にははね返せない。確かにほとんどの場合、おっしゃるとおりです。いやいや、違いはあるんですよ、と説明しようとしても、名だたるプレミアムブランドが電気自動車(BEV)を続々と投入している今、あの「クラウン」でさえ横置き4気筒のFWDベースに生まれ変わった今、昔ながらの直列6気筒エンジンと後輪駆動プラットフォームにこだわる理由をひとことで説明するのは正直難しい。そもそも当のBMWだって今では各種FWDモデルをそろえているのに、とさらに攻め込まれると言葉に詰まる。
スポーツの世界で昔から言われるあのフレーズで、すなわち経験したことのある人は言わなくても分かるが、一度も経験したことのない人には説明しても分からない、と逃げを打ちたくなるが、それではわれわれの商売あがったりなので、できるだけ簡潔に答えれば、BMWがいっぽうでいまだに後輪駆動モデルにこだわるのは、そうでなければ実現できない性能あるいは価値があるから、そしてそれを求めるカスタマーが存在するからである。もちろんそのぶん価格は上がるが、やはり高価な商品はそれ相応に見事な出来栄えである、ということを認めなければいけない。
BMWの旗艦クーペたる現行型8シリーズは、1990年代の8シリーズ クーペ(リトラクタブルライトを備える2ドアクーペ)からだいぶ間をおいて(その間は「6シリーズ クーペ」が受け持った)、2018年に復活した2世代目で、4ドアのグランクーペはその翌年に追加されたモデルである。
新グレードの「エクスクルーシブMスポーツ」
4ドアのグランクーペは2ドアの「クーペ」および「カブリオレ」とは異なり、5人乗車の大型後輪駆動クーペである。3025mmのホイールベースはクーペ/カブリオレに比べてほぼ200mm長く、全長×全幅×全高は5085×1930×1405mmとまさしくグランクーペと名乗るにふさわしい堂々としたサイズ。2022年3月のマイナーチェンジでは全車が「Mスポーツ」仕様となり、Mスポーツバンパーの採用などで外観が手直しされたほかに、ADAS系システムやコネクティビティーも最新世代にバージョンアップされている。試乗車はマイナーチェンジを機に新たに加えられた「エクスクルーシブMスポーツ」で、バイカラーのメリノレザーシートやクリスタルガラス製シフトセレクター、パノラマガラスサンルーフ、さらに20インチホイールを標準装備するラグジュアリーグレードである。
8シリーズのパワーユニットは3リッター直6ガソリンターボに3リッター直6ディーゼルターボ、そして「M850i」用の4.4リッターV8ツインターボが用意されているが、「840i」はBMW各車に使われているおなじみのB58型3リッター直6ターボで、340PS/5000rpmと500N・m/1600-4500rpmの最高出力と最大トルクも標準仕様である。BMWとしては特に飛び抜けた数値ではないが、相変わらず繊細に緻密に回り、ゆっくり流しても、思い切り踏み込んでも、見事に調律された滑らかな回転フィーリングとともにたくましいパンチを生み出してくれる名機である。
スポーティー一辺倒ではない
Mスポーツ仕様とはいえ、フラッグシップクーペともなれば当然ながら、ガツガツ飛ばして痛快なだけのクルマではない。誤解を恐れずに言えば、そこが高価なクルマの高いゆえんである。前述のように6気筒エンジンが文句なしに滑らかで力強いだけでなく、スポーツ仕様の8段ATも含めてドライバーの意図どおりにレスポンスしてくれる洗練されたマナーがずぬけている。後輪駆動(およびxDrive)BMWの最大の美点は、ドライブトレイン全体に遊びやがたつきが一切なく、それでいながら変速ショックやタイムラグも感じさせず、動かそうと思ってそのとおりに動く気持ちよさを備えていることだ。繊細なスピードコントロールを受け付ける、いわばフィット感が素晴らしい。
モーター駆動のBEVとはまた違う種類の鋭いレスポンスで、足りないところも過剰なところもない、まさにちょうどいい爽快で洗練された反応を一度経験すると、CVTモデルなどはどうしても物足りなく感じてしまう。もちろん、オープンロードでも全長5m超で車重1910kgの大型4ドアクーペにもかかわらず、鈍重な気配が一切感じられないうえに、乗り心地も上々だ。高いクルマはやっぱりいいなあ、と単純に言いたくはないけれど、それだけの価値があるとしみじみ思う。この守備範囲の広さで、ベース価格1300万円ちょっとなら、むしろ周りを見渡しても十分にリーズナブルではないだろうか。
いいものはいい
したがって渋滞のなかでもまったく苦にならない。近ごろは都心に向かう朝の渋滞同様、下り方向の東名高速も渋滞が当たり前になってしまったが、むしろハンズオフ走行機能を備えた最新世代のACCの出来栄えを試すいいチャンスだ。ミリ波レーダーに3眼フロントカメラを備えたシステムは隣の車線を走る前走車もとらえ、その画像を表示してくれるから急に割り込まれた時も安心できるし、実際に正確に対応してくれるのでストレスを感じない。60km/h以下の高速道路で作動可能なハンズオフ走行機能によって、まったく違和感なく追従走行するのでだいぶ楽をすることができる。
840iグランクーペにはアダプティプMサスペンションが備わるが、この試乗車にはアクティブスタビライザーが加わるアダプティプMサスペンションプロフェッショナルなるオプションが装備されており、標準装備の前後統合型インテグレーテッドアクティブステアリングとあいまって、実際よりも小さなボディーに感じさせる。多少気を張って山道を飛ばしたぐらいでは、まったく何ということもなく、ヒラリスルリとコーナーを駆け抜けていくばかりである。そういう場面でのステアリングフィールの正確さときめ細かさも大型BMWならではだ。そんな違いは分からないから、と端から突き放すのではなく、クルマ好きを自認するならなおさら、ぜひ一度試してもらいたいのである。
(文=高平高輝/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW 840iグランクーペ エクスクルーシブMスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5085×1930×1405mm
ホイールベース:3025mm
車重:1910kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:340PS(250kW)/5000rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/1600-4500rpm
タイヤ:(前)245/35R20 95Y/(後)275/30R20 97Y(ピレリPゼロ)※ランフラットタイヤ
燃費:11.0km/リッター(WLTCモード)
価格:1321万円/テスト車=1561万2000円
オプション装備:ボディーカラー<フローズンタンザナイトブルー>(52万円)/BMWインディビジュアル フルレザーメリノ<コニャック/ブラック>(49万3000円)/エクスクルーシブMスポーツ(0円)/アダプティブMサスペンションプロフェッショナル(36万3000円)/クロームラインエクステリア(0円)/ヒートコンフォートパッケージ(5万5000円)/BMWインディビジュアル インテリアトリム<ピアノフィニッシュブラック>(4万1000円)/リアローラーブラインド(15万7000円)/Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(60万9000円)/Mアルカンタラアンソラジットルーフライニング(16万4000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2673km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:308.5km
使用燃料:29.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.4km/リッター(満タン法)/10.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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高平 高輝
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