三菱ミニキャブ・ミーブ 10.5kWh仕様(MR/1AT)【試乗記】
元祖EV、未来への一手 2011.05.24 試乗記 三菱ミニキャブ・ミーブ 10.5kWh仕様(MR/1AT)三菱の商用EV「MINICAB-MiEV(ミニキャブ・ミーブ)」試作車に試乗。電力不足のなかでの、EVの役割について考えた。
古いのか、新しいのか
グローブボックスを開けると、取扱説明書が3冊入っていた。「i-MiEV」と「ミニキャブバン」の市販車に用意された分厚い冊子、そしてホチキスでとじられた10ページの「ミニキャブ・ミーブ」用のものである。2011年の年末に発売される予定のこのクルマは、今の段階ではまだ試作車なのだ。
ボディシャシーはミニキャブバンのもの、動力系はi-MiEVのものをほとんどそのまま使っている。これからさまざまなチューニングが施されることになっていて、市販されるバージョンとは異なっている部分があることをご承知願いたい。
2009年6月に電気自動車(EV)のさきがけとなったi-MiEVがデビューして以来2年がたつ。今年は日産が「リーフ」を市場に投入し、アメリカから「テスラ」も上陸を果たした。ここで三菱が世に問うのが、まさかの商用車である。1999年に6代目が登場して12年を経たシリーズに、最新のパワーソースが与えられたのだ。いったい、古いのか、新しいのか。乗ってみると、新しかった。
ガソリン版はエンジンが座席の下に位置するが、i-MiEVからパワートレインを移植したこのクルマは、モーターとインバーターをリアに搭載している。リチウムイオン電池を車体中央の床下に置いていて、重量はどうしても増加する。ガソリン仕様のミニキャブバンの車両重量が900kgを切っているのに対し、この車両は1120kgだった。前軸重が530kgで後軸重が590kgだから、わずかにリアヘビーだ。ハンドリングなども相当違うはずだが、残念ながら普通のミニキャブバンに乗ったことがない。商用車の試乗会が開かれることはまれだし、試乗車も用意されていないのである。
プロのドライバーに福音
地下駐車場から音もなく発進すると、遊園地の乗り物にでも乗っているような気分になる。コンクリートのなめらかな床を走ると、音も振動もないから現実感がない。試作車とはいえ、インバーターの高周波音はきっちり抑えられている。公道に出てみると、もうEVであることは忘れて普通に運転してしまった。発進時に急にトルクがわいてきて驚くこともない。ガソリン車から乗り換えて違和感がないように制御されている。
しばらく走ってみて、気づくのだ。そういえば、振動がないぞ、と。信号で止まった時、まったく動力の気配がない。アイドリングストップのクルマもエンジンは停止するが、それとは感覚が違う。振動が消えるのではなく、もともとなかったことに気づくという感じだ。
短い試乗でも違いを感じたのだから、一日中クルマに乗りっぱなしのプロのドライバーにとっては、これはきっと大きな福音なのだと思う。常に振動にさらされているストレスが、大幅に軽減されるのだ。疲れの度合いが違ってくるだろう。この1点だけでも、商用車のEV化には意義がある。
目の醒めるような加速ではないし、最高速度は100km/hにすぎない。首都高速に乗ってみて、ちょっと物足りないような気がしたが、このクルマはそういう使い方をするのではないのだった。ごく狭い地域で荷物の配達をするのが主な使い道で、朝から晩までストップ・アンド・ゴーを繰り返すことになるはずだ。ヤマト運輸が100台のミニキャブ・ミーブを購入するとの発表があったが、すでに2台の試作車が実証実験として使われており、今のところ航続距離等に関して問題は発生していないという。
バッテリー容量は2種類
ミニキャブ・ミーブは2つの仕様が設定される予定で、違いはバッテリーの容量だけとなる。ひとつはi-MiEVと同じ16.0kWhで、JC08モードの航続距離は約150km。もうひとつは10.5kWhと3分の2の容量で、こちらの航続距離は約100kmである。もちろん、エアコンの使用などで電力を消費すると、この数字は望めない。
今回試乗したのは10.5kWhの方で、33.7km走って残り電力は、16ある目盛りのうち6つだった。試乗ということで少々元気すぎる走り方もした数字だから、仕事で使った場合なら60km以上は走れるだろう。デリバリーに使うには、これで十分だと思う。
商用車の試乗は何年ぶりかだったが、あらためてよくできているものだと思った。装備などは、必要最低限である。窓を開けるには、スイッチを押すのではなく、ハンドルを回さなくてはならない。でも、仕事をするための機能はすべてそろっているのだ。ぜいたくにカップホルダーまで付いている。車内でも鉄板むき出しのところがあったりするが、特に不自由はない。「自動車の基本」にそのまま触れるようで、新鮮だ。
ガソリンと電気のランニングコストの違いを考えても、車両価格の差を取り戻すには10年ほどかかりそうだ。それでも、商売に使う意味は間違いなくある。食品のデリバリーなどには、排ガスやらオイルやらのにおいがしないことは、大きなメリットになるだろう。花や洋服などを扱うにも、イメージがいいはずである。
乗って走れる蓄電池
震災による原発事故を受けて、EVに対して批判的な声が一部で上がっていた。電力不足なのに、電気を使う自動車とは何ごとか、というのである。しかし、それはいささか短慮というものだ。エネルギーを野放図に使い過ぎていたのは人類の文明の罪であって、ガソリン車であろうが、ハイブリッドであろうが、EVであろうが、等しく責任がある。その中で、多様なエネルギーソースを探っていき、リスクを最小限に抑えることが求められている。
EVを充電する際には、ヘアドライヤーに匹敵するほどの電力が消費される。電力の供給が危機的な時間帯には、よほど緊急性がない限り、充電は控えるべきだろう。しかし、電力に余裕のある深夜ならば、有効利用になる。太陽電池との協働も模索すべきだろう。スマートグリッドの実現を待たなくても、家庭でのスタンドアローンで、蓄電池として緊急用に使う道は早期に開けるかもしれない。経済産業省の自動車戦略研究会では、すでに自動車会社トップを迎えてEVの蓄電池利用の検討を始めている。
電力事情の悪化を心配して住宅用の蓄電池が大人気となり、品薄状態になっているという。数十万円もする製品のスペックを見ると、電池容量は1kWhとある。ミニキャブ・ミーブなら低容量版でもその10倍以上で、しかも乗って走ることができるのだ。どっちがお得か、それほど判断に迷うことはないと思う。
電気自動車を所有していれば、家庭の電気使用量の1日分を優に供給することができるのだ。これは、自動車というものがいかに大量のエネルギーを費消する存在であるかを、図らずも示しているわけであるが。
5年後の未来も完全に見通すことができない今、可能性を広げることが肝要だ。未完成な技術ではあるが、三菱がEVの潜在能力を引き出す努力をしていることには素直に賛成したい。震災後の厳しい状況だからこそ、そう思う。
(文=鈴木真人/写真=webCG)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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