絶版となった「三菱ミニキャブ ミーブ」が再登場! 先駆者の苦闘が語る軽商用EV市場の実情
2022.10.21 デイリーコラムマーケットの先駆者が1年半の休止を経て復活
2022年10月13日、三菱自動車がバンタイプの軽商用電気自動車(EV)「ミニキャブ ミーブ」の再販を発表した(参照)。前年3月に生産終了となっていた、国内メーカー唯一の軽商用EVが復活である。ムズカシイ状況のなかでこの判断を下した三菱を、まずは拍手でねぎらいたい。
皆さんご存じのとおり、三菱といえばEVのパイオニアだ。今日では新型「アウトランダー」の好調もあり、プラグインハイブリッドのほうがイメージが強いかもしれない。しかし、2009年に「i-MiEV」を上市し、世界で初めて“フツーの人がフツーに買えるEV”を世に問うたのも三菱だった。
ミニキャブ ミーブは、そんな三菱が2011年4月に発表した軽商用EVである。構造はわかりやすく、「ミニキャブ」のボディーにi-MiEVの電動パワートレインを搭載したものだ。2013年1月には軽トラバージョンの「ミニキャブ ミーブ トラック」も発売されている。
さて、そんなミニキャブ ミーブだが、今日に至る販売の推移はどうだったのだろう? 全国軽自動車協会連合会が発表した統計によると、その実績は以下のとおりである。
- 2011年:849台(バン)
- 2012年:2487台(バン)
- 2013年:1461台(バン)+602台(トラック)
- 2014年:865台(バン)+177台(トラック)
- 2015年:501台(バン)+161台(トラック)
- 2016年:193台(バン)+65台(トラック)
- 2017年:312台(バン)+13台(トラック)
- 2018年:278台(バン)
- 2019年:521台(バン)
- 2020年:1185台(バン)
- 2021年:887台(バン)
- 2022年(1-9月):953台(バン)
先述のとおり、ミニキャブ ミーブは2021年3月にいったん生産終了となっている。それなのに、2021年と2022年にもそこそこ売れているのは不思議な話だが、これは過去生産分を日本郵便など一部の法人や自治体向けに納車していたからだろう。
……そんなことより皆さん、上の数字をあらためてご覧ください。これがわが国ニッポンにおける、軽商用EVの市況ですよ(泣)。
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軽商用車EVをつくり続ける難しさと意義
最盛期でも2500台弱、少ない年だと300台を下回ることもあったミニキャブ ミーブの年間販売。四輪乗用車の統計を見慣れている身からすると、戸惑うレベルの少なさで、それこそ「二輪車と間違えたかな?」と思うぐらいの数字だ。ホンダは2018年7月に「アクティ バン」の生産を終了しているが、その前年の2017年には7375台、2018年にも3884台を販売していた。それでも廃止を決めたのだ。三菱もミニキャブ ミーブを休止したときにはいろいろ言われただろうが、上述の数字を見たら、誰が文句を言えましょう?
再販モデルが従来型とさほど代わり映えしない点についても同様だ。なにせ軽商用EVは、過去10年間ずーっと芽が出なかったマーケットである。確かに今は「環境意識の高まりもあって引き合いが増えている」とのことだが、ここで大枚をはたいたとして、開発費用を取り戻せるまで現状が続くかどうかはわからない。ましてやi-MiEVもミニキャブも現役を去った今、ミニキャブ ミーブは他車とパワートレインや車台をシェアせず、単体で採算をとらなければならない。記者が冒頭で「ムズカシイ状況のなかで~」と述べたのには、そういう理由もあるのだ。
とはいえである。日本は曲がりなりにも自動車大国なわけで、いかに先の読めないマーケットとはいえ、国内メーカーが一切クルマを用意していないのはやはり問題だろう。物流業界では小型配送車の電動化に皆前のめりで、古参の自動車メーカーがのんびりしているうちに、佐川急便やSBSホールディングスは新興のファブレスメーカーと手を結んでしまった。前者は軽商用EVを7200台、後者は小型商用EVを1万台購入するとのことで、いずれも生産を担うのは中国の自動車会社だ。
一方、国内メーカーでは、スズキ・ダイハツ・トヨタ連合が2023年度に、ホンダが2024年前半に、ともに初の軽商用EVを出すという。待ち時間はたかだか向こう1、2年だが、上述の例を見るまでもなく、その間に商機を逃す、海外に持っていかれる可能性は大いにあるわけだ。そうした状況にあって、少しでも日本車の空白期間を埋めてくれた三菱には、やはり拍手を送りたい。別に輸入車に含むところはないのですけどね。
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ライバルに対するアドバンテージはどこにある?
……とはいえである(2度目)。正直なところ、かように記者が応援するミニキャブ ミーブも、必ずしも前途洋々とはいかなそうである。なにせ基本は11年前のクルマ、車体に至っては23年も前のクルマだ。近い将来出てくるだろう次世代のライバルと伍(ご)して戦うには、ちょっとキビしい。
例えばミニキャブ ミーブは、一充電走行距離が133km(WLTCモード)でお値段が250万円弱だ。一方で、ASFが中国・五菱汽車につくらせている佐川向けの次期型軽商用EV(参照)は、航続距離が200km以上で価格は「補助金込みで150万円前後に収める」という。2024年に登場するホンダの軽商用EVも、100万円台の車両価格を実現する予定だ。未来のクルマと比べるのもイジワルな話だが、いろいろな点で、現状のミニキャブ ミーブが少しずつ見劣りするのは否めない。
それじゃあ三菱&ミニキャブ ミーブにアドバンテージはないのか? 将来現れるだろうライバルに対する優位はどこにあるのか? オンライン説明会にて開発関係者に尋ねたところ、「10年以上にわたる軽商用EVの販売で培った信頼性」と「パイオニアの経験と知見を生かしたサポート」がそれであるとの回答を得た。働くクルマ好きの記者としては、ならばこそ、この機に三菱のニューモデルを見たかった気もする。三菱が過去十余年のノウハウを詰め込んだ一台となれば、恐らくは今の日本における小型商用EVの最適解となっただろうし、後進にとってのベンチマークともなっただろうからだ。
しかし今は、ミニキャブ ミーブが復活したというだけでも十分以上の吉報である。それだけでよしとすべきでしょう。先駆者・三菱は、すでにタイやインドネシアでも同車を使った実証実験を進めており、それらが実を結ぶころには、日本はもちろん海外でも彼らの新しい小型商用EVが駆け回っている……はず。そのためにも、今は月販400台という目標を着実にこなしていき、次なる飛躍への地固めをしていってほしい。
(文=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/写真=三菱自動車、ASF、本田技研工業/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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