フォルクスワーゲン・パサート/パサートヴァリアント【試乗速報】
ゴルフより低燃費 2011.05.19 試乗記 フォルクスワーゲン・パサートTSIハイライン(FF/7AT)/パサートヴァリアントTSIハイライン(FF/7AT)……402万3500円/435万9000円
7世代目となる新型「パサート」の売りはずばり、燃費性能。大柄なボディに組み合わされるのは、なんと、1.4リッターエンジンだ。
それで、ちゃんと走るのか!?
ゴルフ、ピンチ!?
「パサート」は「最も玄人好みのフォルクスワーゲン」である。新型のプレゼンでフォルクスワーゲン・ジャパンの人がそう言ってたのだから間違いない。たしかに、同窓会で会った旧友のマイカーが「ゴルフ」なら“スルー”かも知れないが、「パサートに乗ってる」と言われたら、ワケを知りたくなる。いちばんミーハーじゃないガイシャをなにゆえ選んだのか、じっくり聞き出してみたい、と思うのはぼくだけだろうか。
パサートが7代目になった。海外ではフェイスリフトと報道するメディアもあるが、フォルクスワーゲンは2006年以来のフルチェンジと言っている。ボディのフォルムもサイズもほとんど変わっていないが、ルーフ以外の外板は一新されている。なにより一目瞭然(りょうぜん)なのは、セダンもワゴンも、水平基調の新しいVWマスクになったこと。元アウディ、その前はアルファ・ロメオで辣腕(らつわん)をふるった現フォルクスワーゲンのデザインチーフ、ワルター・ダ・シルヴァの“顔”である。
今回デビューしたのは4気筒モデルのセダンとヴァリアント(ワゴン)だが、最大のニュースはそのエンジンで、これまでの2リッター/1.8リッターから1.4リッターに変更された。122psの直噴ターボユニットは「ゴルフ コンフォートライン」用と同じ。ただし、ゴルフにはないアイドリングストップ機構とブレーキエネルギー回生システムが標準装備され、おかげで、10・15モード燃費(18.4km/リッター)は、Dセグメント輸入車ナンバーワンはもちろんのこと、「ゴルフ コンフォートライン」(16.4km/リッター)さえもしのぐ。つまり、ゴルフと同じエンジンを積む、ゴルフより燃費のいい中型フォルクスワーゲンである。
![]() |
![]() |
![]() |
車重を忘れる身のこなし
エンジンのダウンサイジングもあって、新型パサート(セダンで1430kg)は先代の1.8リッターモデルと比べても10kg軽い。とはいえ、同じ1.4リッターターボを積むゴルフよりは140kg重い。果たしてそれで“走る”のか、というのが今回の大きな興味だろう。
結論は、まったくノープロブレムである。セダンよりさらに40kg重いワゴンは、高速の追い越しで今ひとつパンチに欠けるきらいはあったが、セダンはむしろフツーに速い。
変速機はパサート初お目見えの7段DSG。ツインクラッチならではの素早い変速も効いているが、なにより1.4リッターターボのトルク特性が軽快さのみなもとだ。とくに発進時はグワッと力強く立ち上がって、素早くスピードに乗せる。0-400mではなく、0-40mで決着をつけてしまうのは、ゴルフ譲りの速さである。
アイドリングストップ機構の完成度は高い。静かにストップし、発進時の再始動ももたつかない。「アウディA1」のアイドリングストップ/スタートよりうまいし、「BMW M3」や「ポルシェ・パナメーラ」のようにキャンセルスイッチに手を伸ばしたくなるようなことは一度もなかった。ただし、アイドリングストップすると、パワーアシストのきれたステアリングがロックしたように重くなっている。心臓に悪いというか、クルマに見放されたみたいであまり気持ちのいいものではない。
車内も玄人好み
新型パサートの乗車感をひとことで言えば、やはり「大きなゴルフ」である。試乗車はセダンもワゴンも「コンフォートライン」より50万円高い「ハイライン」だったので、なおさらプレミアム感があった。といっても、派手になりすぎないのがパサートの伝統だ。プレミアムでもけっしてはしゃぎすぎない。高級というよりも「上質」という言葉が似合う。
ヴァリアントはセダンの20万円高。ワゴンといっても、ゴルフの場合と違ってボディ全長はセダンと同じである。リアオーバーハングを延ばす手当てはしていない。それでも、後席を畳めば、荷室奥行きはカーペットの上だけで175cmある。より大柄な「ボルボV70」より広い。そんなところも実質的だ。
自慢の燃費については、今回、満タン法でチェックすることはできなかった。だが、セダンで混んだ都心を抜け、郊外まで一般道を約50km走ったところ、車載燃費計はその区間の平均を11.5km/リッターと表示した。全長4.8mに迫るプレミアムセダンの燃費というよりも、やはり“1.4リッター車”の経済性を感じさせる。燃料タンクはゴルフ(55リッター)より大きい70リッター入りだから、航続距離も長い。
でも、「ゴルフより低燃費」という新型パサートのサプライズは、プレゼンテーションではそれほど強調されなかった。そりゃそうだ、それじゃゴルフの立つ瀬がない。しかし、ときに商品ヒエラルキーを無視して、売る側を戸惑わせるほどまじめにカイゼンを進めてくる。そういうところも実直なパサートの持ち味だろう。
(文=下野康史/写真=荒川正幸)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。