BMW M8グランクーペ コンペティション(4WD/8AT)
おもてなしのM 2020.07.03 試乗記 BMWの「M8」シリーズに「グランクーペ」が追加された。もちろん、単純な運動性能という観点では先にデビューした「クーペ」に分があるのは間違いないだろう。では4ドアクーペならではの魅力はどこにあるのだろうか。高出力版「コンペティション」に試乗して考えた。ハイパワーだが紳士的
オーソドックスなセダンの「7シリーズ」と並んでBMWの最高峰に位置するのが「8シリーズ」。その最上級モデルがM8グランクーペ コンペティションである。すでにM8のクーペと「カブリオレ」、さらに「8シリーズ グランクーペ」は日本に導入されていたが、最後に真打ち登場となった。7シリーズにはもっと高価なモデルも設定されているが、M8グランクーペ コンペティションはBMWのブランドイメージを支えるフラッグシップと呼ぶべきだろう。
2ドアのクーペに対し、4枚のドアを持つのがグランクーペである。4ドアハードトップと言ってもいい。スポーティーでアクティブなユーザーをターゲットにしている点で、セダンとは一線を画す。Mの名を冠するのだから、搭載されるのは最強のパワーユニットだ。BMW Mが開発した4.4リッターV8ツインターボエンジンで、チューニングは2種類。M8グランクーペの標準車で最高出力は600PS、試乗車はコンペティションなのでさらに25PSが上乗せされている。価格差を見て1PSあたりいくらだろうか、などとみみっちいことを考える人は、こういうクルマは買わない。
とてつもないハイパワーを確実に路面に伝えるため、「M xDrive」という4輪駆動システムが用いられている。後輪駆動がベースとなっていて、電子制御で最適なトルクを4輪に振り分ける機構だ。トランスミッションは8段ATの「Mステップトロニック」。「ドライブロジック」付きで、シフトセレクターに備わるボタンでシフト特性を変更することができる。
625PSという数字からは荒々しく野性的な性質を思い描いてしまうが、M8グランクーペは至って穏やかで紳士的なたたずまいだ。外観からはマッチョさは感じられない。後端に向かって緩やかなカーブを描いて下がっていくルーフラインは、あくまでもエレガント。筋肉を上質な衣でくるんでいて、汗くささとは無縁である。
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余裕のサイズで十分なスペース
伸びやかな印象を与えるのは、3025mmという長いホイールベースの恩恵だろう。クーペよりも約200mm延長されており、必然的に全長も伸びて5mを超える。全幅と全高もクーペを上回っていて、堂々とした構えだ。余裕のあるサイズのおかげで、後席にも十分なスペースがある。クーペという言葉にはドライバーズカーの含意があるように思えるが、ほかの乗員にも同じように快適な空間が提供されているのだ。
後席の足元にも頭上にも、思いがけないほどの余裕がある。座っていて不自然な姿勢を強いられることはない。後席からもエアコンのコントロールができるようになっていて、USBソケットも完備。おもてなし空間と呼んでも差し支えないだろう。その代わり、荷室にしわ寄せがきてしまった。奥行きはあるが浅い構造で、容量は440リッター。大荷物を運ぶ状況は想定されていない。
内外装にはふんだんにカーボン素材が用いられている。ルーフやドアミラー、リアスポイラーなどがカーボン製だ。インテリアにもセンターコンソールなどの目につく部分にカーボンが使われている。軽量化に貢献しているだけでなく、上質感や高性能を印象づける効果もあるようだ。カーボンは見えないところにも潜んでいる。カーボンファイバー強化樹脂(CFRP)を使ったカーボンコアと呼ばれるボディー構造を採用しているのだ。ドアを開けると「Carbon CORE」という文字が記されたカーボン製のプレートが隠されていた。
キドニーグリルはダブルバーをあしらったM専用のスタイル。4本出しのエキゾーストパイプや「M8 Competition」のバッジが特別なクルマであることを示しているが、控えめである。自信があるからこそ、あからさまにアピールするような下品なことはしない。以前「X4 Mコンペティション」に乗った時は普通に走っていても前を走るクルマに道を譲られてしまったが、このクルマではそういう場面はなかった。うまくオーラを消しているということだろうか。
サーキット走行にも対応
内装はシルバーストーンという輝くような白い革が選ばれていて、とても上品なイメージ。シートやドアトリムには繊細なドット加工が施されており、アルミニウム製のスピーカーカバーとのマッチングがアーティスティックな印象だ。メーターパネルはM専用で、ステアリングホイールには「M1」「M2」と刻印された赤いボタンが備えられている。プリセットした設定をワンタッチで呼び出せる便利な仕組みだ。
モード切り替えは、シフトセレクターの右側にある「Mモード」スイッチで行う。「ロード」「スポーツ」「トラック」の3種があり、ドライバーアシスタンスシステムの設定が異なる。トラックを選ぶには、スイッチを長押ししなければならない。すべての運転支援機能が無効になって駆動方式が完全なFRに変更されるのだから、文字通りトラック=サーキット走行用と考えたほうがいい。セットアップスイッチを使ってエンジン、シャシー、ステアリングなどのモードを個別に設定することもできる。
ありあまるほどのパワーがあるので、通常はロードモードで何も不満はない。それどころか、ひと踏みで法定速度に達してしまうから自制心が必要だ。加速は強烈だが、荒々しさはまったく感じられない。これ見よがしにパワーを誇示するような振る舞いはしないのだ。ポテンシャルを内に秘め、余裕を持って走るのが大人である。スピードメーターが330km/hまで刻まれているのを見て、自分が乗っているクルマの素性を確かめていればいい。
モードによってメーターの表示も変わる。ロードモードでは右に回転計、左にスピードメーターが示されるが、スポーツだと回転計が左右に1つずつ表示され、真ん中の速度計を挟み込むようなレイアウトになる。エンジン回転数を高く保ちながらスポーツ走行するためのモードなのだ。シフトポジションも大きく表示されるので、パドルを使ったマニュアル走行をする場合はスポーツを選ぶべきだろう。
シーンを問わず優雅に
スポーツモードではシャシーは走行性能が重視される設定になるが、ガチガチに硬い乗り心地にはならなかった。スポーツ走行時にも、乗員に不快な思いはさせないのだ。並外れた実力を持ちながらも、優雅さを忘れない姿勢が好ましい。目覚ましい加速を見せる時も車内に騒音が満ちあふれる状態にはならなかった。外で聞くとV8らしい野性的な音が響いていたので、遮音がよほどしっかりしているのだろう。
M8グランクーペには「ハンズオフ機能付き渋滞運転支援システム」が備えられているが、今回は条件に合う道路状況に出会えなかった。低速で追従走行する場合に限られた機能なのだ。高速道路でのACCは試すことができた。レーンキープは非常に正確で、ステアリング補正の仕方がしっとりしている。グイグイと強引な介入をしないのが、高級車らしいところである。
ACC走行中は、まわりの道路状況がメーター内に映し出される。車線がいくつあるのかが示され、その中で自分がどこを走っているかがわかる。前走車や斜め前方を走るクルマが同時に表示されるのだ。システムが状況を正確に把握していることがビジュアルで理解できるのは、安心感につながる。驚いたことに、車種までも認識しているらしい。アイコンにはセダンとトラックの2種類があり、システムは大きさを感知して使い分けているようなのだ。今のところどんな効用があるのかはわからないが、運転支援や自動運転の技術に資するものには違いない。
M8グランクーペが、ドライバーズカーとしてよく仕上げられていることは確かだ。高速移動は快適だし、サーキットに持ち込めば気持ちよく走れるだろう。運転を楽しみながらも、後席に陣取ってみたいとも思わせられたことが尊い。余裕のある車内空間があり、上質なインテリアに包まれる。クーペの名を持ちながらも、これは乗員全員をもてなすクルマなのだ。アグレッシブであり、ジェントルでもある。それが紳士のたしなみである。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
BMW M8グランクーペ コンペティション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5105×1945×1420mm
ホイールベース:3025mm
車重:2000kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:625PS(460kW)/6000rpm
最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1800-5860rpm
タイヤ:(前) 275/35ZR20 102Y XL/(後)285/35ZR20 104Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:8.8km/リッター(WLTCモード)
価格:2408万円/テスト車=2637万6500円
オプション装備:ボディーカラー<ドラバイトグレー>(32万9000円)/フルレザーメリノ<シルバーストーン/ブラック>(0円)/Mカーボンエクステリアパッケージ(73万9000円)/Mカーボンエンジンカバー(16万4000円)/Mカーボンセラミックブレーキ(12万0500円)/Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(60万9000円)/Mドライバーズパッケージ(33万5000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:3697km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:448.2km
使用燃料:48.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)/7.1km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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