エコで売るには限界アリ!? トヨタの「RAV4ハイブリッド」と「RAV4 PHV」の商品性のちがいを考える
2020.06.17 デイリーコラム500万円オーバーのトヨタ車
先日発売された「RAV4 PHV」で興味深いのは、環境性能や経済性といったプラグインハイブリッド車本来の特長では“ない”部分が話題になっていることだ。このクルマでは、トヨタ自身もあえて環境性能以外の部分を訴求しているフシがある。
RAV4 PHVでの最大のトピックは価格だろう。グレードは3種あるが、もっとも安価な「G」でも469万円。プラグイン以外はほぼ同条件のRAV4(「ハイブリッドG」の4WD)と比較すると、本体価格で約80万円高い。これは先達といえる「プリウスPHV」と「プリウス」の同等グレード同士の価格差(約65万円)と比較しても明確に大きい。
しかも、RAV4 PHVの最上級「ブラックトーン」になると539万円。ネット情報によると、それはどうやら新型「ハリアー」の最上級グレードより高額らしい。だいたい、トヨタの国内向け乗用車で500万円を超えるプライスタグを掲げるのは「センチュリー」と「ミライ」、それに加えて「クラウン」「アルファード/ヴェルファイア」「ランクル」シリーズ、「スープラ」などの一部機種しかない。RAV4 PHVはなかなか豪気な商品なのだ。
このように価格が話題といっても、RAV4 PHVのエコ度が劣っているわけではない。それどころか、プリウスPHVと比較しても、設計が新しいだけの環境性能の進化は相応に感じられる。
たとえば、駆動用リチウムイオン電池の容量をプリウスPHVの2倍以上とすることで、電気のみで走るEV航続距離が大きく伸びている。カタログ値では、RAV4 PHVのそれが95kmで、プリウスPHVは68.2km。より重くて空気抵抗の大きいSUVでありながら3割近くも伸びた計算だが、厳密にいうと前者が最新のWLTCモード、後者がJC08モードによる数値。つまり、実走行でのRAV4 PHVのリードはさらに広がるはずである。
また、同じクルマで、プラグインハイブリッドと通常ハイブリッドが用意される場合、外部電力走行分を省いた純粋な“ハイブリッド燃費”では、明確なメリットが得られないケースが多い。現行のプリウスでもハイブリッド燃費はPHVと非PHVとで変わりない。しかし、今回のRAV4 PHVは同じ2.5リッターハイブリッドのRAV4より、ハイブリッド燃費でもきちんと改善(20.6→22.2km/リッター)されている。この点は率直に評価すべきだろう。
環境では金は取れない
RAV4のPHVと非PHVの同等グレード同士の本体価格差は、前記のように額面では約80万円あるが、PHVには“CEV補助金”が国から22万円支給されるほか、環境性能割(以前の自動車取得税)も優遇されるので、購入時の支払額の差は、最終的に約55万円にまで縮まる計算になるという。
ただ、それでもRAV4 PHVは、一般のドライバーがごく普通に使うかぎり、純粋な経済性において容易に“モトが取れる”存在ではない。それはなにもRAV4にかぎったことではなく、プリウスPHVなども同じだ。
たとえば、PHVをもっとも安いエネルギーコストで運用する方法はそのクルマを純EVとして乗り、その電力をすべて自宅充電でまかなうことだ。電気料金は契約やクルマの電費によって上下するが、リーフなどの実績を考えると、年間1万kmで2.5~3.5万円といったところか。あとは出先での無料充電サービスで少しだけ圧縮する程度だろう。
ただ、普通のRAV4ハイブリッドの4WDでも、燃費はWLTCモードで20.6km/リッターである。かりに実燃費をそれより1割ほど低く見積もった18.0km/リッターとしても、1万km走るのに必要なガソリンは約555リッターで、リッター125円とすると、ガソリン代は1万kmあたり約7万円。単純計算では、10年10万kmでも購入時の差額のモトは取れないことになる。こうした構図はプリウスPHVを筆頭に、他社の市販プラグインハイブリッドも似たようなものといっていい。
現在のプラグインハイブリッド車の最大のアキレス腱は、このように、既存の環境車に対していまだに経済的優位性をもてないところだ。今のプリウスPHVも先代から一転してエクステリアデザインをPHV専用とするなど工夫はいろいろしているが、現在の国内販売台数は月間1000台前後で、発売当初の月販目標(2500台)を大きく下回っている。
今回のRAV4 PHVが環境性能や経済性を強くアピールしないのも、プリウスPHVでの経験によるところが大きい。ハッキリいうと「環境では金は取れない」のが現実である。
EVだけが解決可能な諸問題
今後のクルマが電動化・EV化の道を進んでいかざるをえないのは事実だ。世界中の自動車行政はほぼ例外なく、電動化・EV化にカジをきっている。しかし、同時に、世界のどこでも、クルマの電動化やEV化は当局の思惑どおりには進んでいない。その理由は、電動車やEVは価格やエネルギー供給などでまだ課題を抱えており、末端ユーザーが当局の期待するようには買ってくれないからだ。
ただ、クルマの電動化・EV化の流れは、それなりの一進一退はあっても逆戻りすることはないだろう。なぜなら、NOxやPMなどの有毒物あるいは地球温暖化ガス(CO2)といったクルマの環境問題は、EVでしか解決しないからだ。内燃機関の燃費や排ガスをいかに厳しく規制したところで、有毒ガスも温暖化ガスもゼロになることは永遠になく、悪くいえばイタチごっこでしかない。かわりに、世界中のクルマがすべてEVになれば、その瞬間にクルマの排ガス問題は完全に消滅する。
もちろん「バッテリーの製造と廃棄、発電時に排出されるCO2を考えると、EVとて排ガスゼロではない」とか「大量のEVを毎日走らせるためには、現実的には原子力発電に頼るしかない!?」といった“エンジン車擁護論”も一理ある。しかし、クルマの環境当局の仕事はあくまで「目の前のクルマが良くないものを排出しないようにする」ことであって、地球規模でのエネルギー論議は、彼らにとっては他人事でしかない。
というわけで、トヨタも本音では「自分たちのつくるハイブリッドのほうがプラグインやEVより現実的で効率的」と思っていても、プラグインやEVをやらないという選択肢はない。そんなプラグインを今現在の市場でなんとか売れる商品とするために……というトヨタの意志がひとつのカタチとして具現したのが、今回のRAV4 PHVということだろう。
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“昔ちょっと鳴らした系”に刺さる商品性
RAV4 PHV最大の商品性としてトヨタが選んだのは、ずばり“速さ”である。そのパワートレインのシステム出力は、バッテリーとモーターの高性能化により、大台となる306PSに達する。0-100km/h加速は6.0秒を豪語。“ゼロヒャク6秒フラット”という数字は、たとえばスープラだと「SZ-R」と「SZ」の中間(のSZ寄り)、あるいは「ホンダ・シビック タイプR」の0.3秒落ち……。いずれにしてもSUVとしては屈指の俊足だ。
既存のRAV4ハイブリッドのシステム出力は222PSだから、PHVの動力性能は84PSアップという計算になる。知っている人も多いように、クルマの値づけでは昔から“1PSアップ=1万円アップ”が相場とされる。つまり、RAV4のPHV代金=約80万円は、われわれ旧世代のクルマ好きにも“約80PS分の速さの値段”と素直に説得できる設定になっているのだ。となると、その他のPHV特有のメリットは、その速さに丸ごと上乗せされるオマケみたいなものだ(?)。
しかも、今回のプラグインシステムを「E-Booster」と名づけるあたりにも、今回のPHVの企画意図がうかがえると同時に、旧世代のクルマ好きオヤジをくすぐる心憎いセンスだと思う。その「実際の仕組みはよく分からなくても、なんか速そう」とだけは思える言葉のイメージは“ターボ”に共通するものがある。
RAV4 PHVは、おそらく歴代でもっとも売りやすい量産プラグインハイブリッド車だ。ミドルクラスSUVを購入候補としているクルマ好き、とくに“昔ちょっと鳴らした系”の中高年なら「予算が許すならRAV4 PHVで決まり。これがいちばん速いし、その気になれば電気だけでも走れるし、補助金も出るんですよ」といえば、かなりの確率で落とせる気がする。
(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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