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BMW M8クーペ コンペティション(4WD/8AT)

これならヤれる! 2020.06.24 試乗記 青木 禎之 スーパーカー級のハイパワーを誇る、BMWのフラッグシップクーペに試乗。価格も同ブランドの中でトップクラスだが、ラグジュアリーとスポーツを高次元で両立させるその走りは、最強の一台と呼ぶにふさわしいものだった。

血統を感じるルックス

駐車場から「BMW M8クーペ コンペティション」を引き出して、狭い道が続く住宅街をノロノロと行く。低く構えたクーペボディーは、20インチに35偏平の薄いラバーを巻いたアグレッシブな足まわりを持つが、意外や乗り心地は悪くない。路面の凹凸を上手に吸収しながら、しかし2t近い1910kgの車重でゴリゴリとアスファルトを踏みしめながら進む。4.4リッターのV8ターボは静かに喉を鳴らしているだけ。スペシャルなM8は、あたかも野生の大型猫種が獲物ににじり寄っていくように……と、スイマセン、高級スポーツモデルに乗っている興奮からか、思わずカッコつけちゃいました。

M8クーペ コンペティションの運転席からの眺めは、強く寝かされたAピラーゆえ天地は狭いが左右は広くて、それなりに大きなクルマに乗っている感がある。ステアリングホイールを握って徐行しながら、「なるほど、これは『8シリーズ』だなァ」と、ふと懐かしく思い出した。「70スープラ」に似た、などと言うとビマー(BMWファン)の人に怒られそうだが、1990年代初頭に登場したかつての8シリーズは、大排気量・多気筒にしてビーエムの名に恥じない高性能車だったが、クルマ好きからの評価はいまひとつだった記憶がある。いかにも大柄で、見ても乗っても少々シャープさに欠けていた。

もちろん、21世紀の8シリーズとは何の関係もない。現行8シリーズは、モデルの系譜からいうと「6シリーズ」の後継にあたるが、これまでの「5シリーズ」のクーペという立ち位置を嫌ってか、新たに“8”の数字が与えられた。バイエルンとしては、ニューモデルをフラッグシップたる“7”のパーソナルバージョンに格上げしたいのだ。

8シリーズのボディーは3種類。「クーペ」「カブリオレ」、そしてホイールベースを延ばして4ドアとした「グランクーペ」である。それぞれに高性能版のM8があり、さらに高いチューンが施されたM8コンペティションが、やはり3種類のボディーで用意される。つまり試乗車のM8クーペ コンペティションは、最上級のラグジュアリークーペにして、最強のMモデルというわけである。ぜいたくですね。

BMWの「M8クーペ」は、「8シリーズ クーペ」をベースとするハイパフォーマンスモデル。今回試乗した「コンペティション」モデルはその性能をさらに先鋭化したもので、最高出力や走行モード、ドレスアップパーツなどに差異がある。
BMWの「M8クーペ」は、「8シリーズ クーペ」をベースとするハイパフォーマンスモデル。今回試乗した「コンペティション」モデルはその性能をさらに先鋭化したもので、最高出力や走行モード、ドレスアップパーツなどに差異がある。拡大
ブラックとシルバーストーンのハイコントラストが印象的な、試乗車のインテリア。ハンドルの位置は左右が選択できる。
ブラックとシルバーストーンのハイコントラストが印象的な、試乗車のインテリア。ハンドルの位置は左右が選択できる。拡大
高級なメリノレザーで仕立てられた「Mスポーツシート」。ヘッドレスト部には照明付きの「M8」エンブレムがあしらわれる。
高級なメリノレザーで仕立てられた「Mスポーツシート」。ヘッドレスト部には照明付きの「M8」エンブレムがあしらわれる。拡大
車体の高い位置にあるルーフを軽量なカーボン製とすることで、運動性能の向上が図られる。この「Mカーボンルーフ」は標準装備となっている。
車体の高い位置にあるルーフを軽量なカーボン製とすることで、運動性能の向上が図られる。この「Mカーボンルーフ」は標準装備となっている。拡大
ブラックのグリルやハニカムデザインの大型エアインテークが、迫力あるフロントまわりを演出する。
ブラックのグリルやハニカムデザインの大型エアインテークが、迫力あるフロントまわりを演出する。拡大
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“ふつうの8”とはあれこれ違う

M8を“ノーマル8”たる「M850i xDriveクーペ」と比較すると、8段AT、FR(後輪駆動)をベースとしたAWDシステムを介して必要に応じて4輪を駆動することは共通だが、M8には通常の8シリーズが持つ「インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング」と呼ばれる4輪操舵システムが備わらない。デバイスに頼らず、乗り手自らがコントロールして性能を引き出せ、ということか。

装備が違うので単純には比べられないが、カタログに記載される車重は、M850iが1990kg。M8、M8コンペティションとも、80kg軽い1910kgとなる。ボディーを補強しているにもかかわらず。一方、最小回転半径は、低速ではステアリングを前後逆位相に切れるM850iが5.2mなのに対し、M8はどちらも5.7mである。

Vバンクの間に過給機を押し込んだ4394ccフォーカムターボは、M850iの最高出力が530PS/5500rpm、M8が600PS/6000rpm、M8コンペティションは同じ発生回転数で625PSを絞り出す。おもしろいのは最大トルクが3モデルとも750N・mであることで、それでもアウトプットの余裕を使って、1800-4600rpm、1800-5600rpm、1800-5860rpmと次第に発生回転域が拡大される。大排気量ターボのトルクにあぐらをかかず、チューンの度合いに従って、スポーティーに8気筒を回せば回すだけ、相応にBMWを駆り立てられる計算だ。


価格は、M850iが1754万円。M8コンペティションは、無印のM8クーペより200万円ほど高い2444万円となる。今回の試乗車には、コンペティションモデルの特権であるMカーボンエクステリアパッケージ(73万9000円)、多様なドライブモードが用意され、最高速度が引き上げられるMドライバーズパッケージ(33万5000円)、グレードアップしたオーディオ(60万9000円)など、305万2000円相当のオプション装備がおごられていた。

「M8クーペ コンペティション」が0-100km/h加速に要する時間は3.2秒。停止状態から200km/hまでは10.6秒で到達する。
「M8クーペ コンペティション」が0-100km/h加速に要する時間は3.2秒。停止状態から200km/hまでは10.6秒で到達する。拡大
「BMWの量産車の中で最もパワフル」とうたわれるツインターボエンジン。1800rpmという低回転域から3000rpm以上の範囲で最大トルク750N・mを発生する。ストライプの入ったカーボン製エンジンカバーは16万4000円のオプション。
「BMWの量産車の中で最もパワフル」とうたわれるツインターボエンジン。1800rpmという低回転域から3000rpm以上の範囲で最大トルク750N・mを発生する。ストライプの入ったカーボン製エンジンカバーは16万4000円のオプション。拡大
液晶タイプのメーターパネル。走行モードにより、エンジン回転計を中央に据えたグラフィックに変化する。
液晶タイプのメーターパネル。走行モードにより、エンジン回転計を中央に据えたグラフィックに変化する。拡大
マフラーエンドは4本出し。「Mカーボンエクステリアパッケージ」を選択した試乗車には、カーボン製のディフューザーが装着される。
マフラーエンドは4本出し。「Mカーボンエクステリアパッケージ」を選択した試乗車には、カーボン製のディフューザーが装着される。拡大

ビックリするほど速い……が

一見、大きなラグジュアリーモデルと見まがう流麗なフォルムをまとうM8クーペだが、凝ったダブルバーのキドニーグリル、フロントバンパーの大きなエアインテーク、空力を視覚化したサイドミラー、そして複雑なデザインを採るアロイホイールなどがただ者ではないオーラを発散する。車両寸法は、全長×全幅×全高=4870×1905×1360mm。ロー&ワイドなフォルムを持つが、絶対的には大柄だ。(当時は)「うすらデカい」と感じた90年代の8シリーズがすっぽり入る大きさである。6シリーズとは同等の大きさながら、わずかに短く、しかし広く、低くなり、高いスポーツ性を主張する。

運転席に座って室内を見わたすと、ふんだんに使われたレザーとアルカンターラが、ぜいたく。シートのサイドサポートは、見た目にはむしろ控えだが、それでもしっかりと体を支えてくれるところが「さすが!」だ。

「“競技用”というからには、さぞや……」と覚悟して走り始めると、総体的にラグジュアリークーペの趣。あきれるほどスムーズで乗り心地がよく、そのため乗り手にことさら意識させないが、ビックリするほど速い。高速道路に乗ると、文字通り、滑空するように駆けていく。

V8ターボを意識的にブン回すと、2速から3速に移る時点で100km/hを超えてしまうが、そんな野蛮な走りはパワーを持て余すばかりだ。穏やかに100km/hで巡航していると、8速1500rpm付近で8気筒は粛々と回るだけ。4.4リッターという大排気量にして過給機付きながらレスポンスよく、またトランスミッションも素早く巧妙にギアを選ぶので、リラックスしながらも、まるで「鈍」な感覚を与えない。優雅なサービスの裏で常に臨戦態勢を整えている。「高級なスポーツクーペとはこのことだ」と、いささか広告めいた感想を抱く。

あまりスマートでないのが各種ドライブ機能の設定である。排気音の大小、ギアボックスの反応速度、「ロード」「スポーツ」ほか、特別に「トラック」が新設されたドライブモードなど、さまざまな電子制御が増改築されたためか、設定、切り替えの“入り口”や“方法”がバラバラで、わかりづらい。そのための解決法が、「自分好みの設定をワンプッシュで呼び出せる『Mボタン』をステアリングホイール左右に設けました」というのは悪い冗談だろう。

「M8クーペ」とは異なり、「M8クーペ コンペティション」には運転をサポートするシステムをすべてカットする「トラック」モードが用意される。
「M8クーペ」とは異なり、「M8クーペ コンペティション」には運転をサポートするシステムをすべてカットする「トラック」モードが用意される。拡大
室内のデザインは基本的に「BMW 8シリーズ」と変わらないが、ステアリングホイールやメーターパネルは「M8」専用品となる。
室内のデザインは基本的に「BMW 8シリーズ」と変わらないが、ステアリングホイールやメーターパネルは「M8」専用品となる。拡大
「M」のエンボス加工が施されたシフトレバー。周辺にはインフォテインメントシステムの操作デバイスや走行モードのセレクターが並ぶ。
「M」のエンボス加工が施されたシフトレバー。周辺にはインフォテインメントシステムの操作デバイスや走行モードのセレクターが並ぶ。拡大
車両の特性は、エンジンやシャシー、ステアリングホイールなど個別に調整可能。それらの設定をあらかじめMモードとして記録しておけば、ボタンひとつで呼び出せるようになる。
車両の特性は、エンジンやシャシー、ステアリングホイールなど個別に調整可能。それらの設定をあらかじめMモードとして記録しておけば、ボタンひとつで呼び出せるようになる。拡大
ステアリングホイールのスポーク上部には、「M1」「M2」という2つのMモード選択ボタンが並ぶ。
ステアリングホイールのスポーク上部には、「M1」「M2」という2つのMモード選択ボタンが並ぶ。拡大

プレイボーイもオタクも満足

そんなことをブツブツとつぶやきながら、マニュアル片手にセンターディスプレイで、「エンジン」「シャシー」「ステアリング」……と各種設定を変更して試してみると、その振れ幅の広さに驚く。パートナーを隣に乗せての安楽ドライブから、サーキット走行を前提にしたスパルタン仕様まで、動力性能の余裕がそのままドライブモードの最適化に生かされている。ブレーキの反応をさらに鋭くできるのは、バイ・ワイヤを採用したためだ。直接的なダイナミクスだけでなく、スタビリティーコントロールはじめ、各種運転支援システムのオン・オフが含まれるのが、最新のスポーツモデルらしい。

もちろん、優しい乗り心地のまま、かみつくようなエンジンレスポンスを楽しんだり、逆に動力系を穏やかに、足まわりだけシャキッと厳しくすることも可能。「走りオタクが多い」とされるBMWオーナーにとって、この設定のしがいはうれしいんじゃないでしょうか。

625PSを4輪を介して路面にたたきつけ、静止状態から100km/hまでわずか3.2秒で加速する。一般道でも容易に理解できる高性能が、サーキットでの実力に裏打ちされているのが、M8コンペティション最大の魅力だ。そのうえMボタンを活用すれば、瞬時にラグジュアリーとスポーツの間を行き来できる。

M8のリアシートは頭上空間も足の置き場もないため、実質的には前席乗員のモノ置きだが、一方、トランクルームは幅126cm、奥行き110cm(いずれも実測値)と、望外に広い。いざとなれば、2+2の後席背もたれを倒せる。ドライブ時のパートナーが、ホテルで常にベルパーソンを呼ぶほどの荷物持ちでも安心だ。

宿への道すがら、少しばかり退屈したならMボタンを押して、「な、硬くなっただろ」などとささやいてもいい。シフター脇のMスポーツエキゾーストシステムのボタンを押して、「大きくもなるんだぜ」とジマンできる。BMW M8クーペ コンペティションは、昭和な言い草を許してもらえれば、つまりはスーパーデートカーである。過剰な性能はトロフィーみたいなものだ。むしろハヤすぎると嫌われるかも……って、スイマセン、高級スポーツモデルに乗ってる興奮からか、つい筆が滑ってしまいました。

(文=青木禎之/写真=田村 弥/編集=関 顕也)

「M8クーペ コンペティション」には、BMW M社が開発を手がけた4WDシステム「M xDrive」が搭載される。通常は4輪を駆動するが、DSCをオフにして完全な後輪駆動とすることも可能。
「M8クーペ コンペティション」には、BMW M社が開発を手がけた4WDシステム「M xDrive」が搭載される。通常は4輪を駆動するが、DSCをオフにして完全な後輪駆動とすることも可能。拡大
センターコンソールのカップホルダー周辺部。USBコネクターや非接触充電機能のあるトレーなど、ユーティリティーにもぬかりはない。
センターコンソールのカップホルダー周辺部。USBコネクターや非接触充電機能のあるトレーなど、ユーティリティーにもぬかりはない。拡大
後席は2人掛け。乗車定員は4人となっている。
後席は2人掛け。乗車定員は4人となっている。拡大
開口幅の広い荷室は、奥行き110cm(実測)。50:50分割式の後席を倒すことで長尺物にも対応できる。
開口幅の広い荷室は、奥行き110cm(実測)。50:50分割式の後席を倒すことで長尺物にも対応できる。拡大
今回は、市街地からワインディングロードまで約300kmを試乗。燃費は満タン法で6.2km/リッター、車載の燃費計で6.1km/リッターを記録した。
今回は、市街地からワインディングロードまで約300kmを試乗。燃費は満タン法で6.2km/リッター、車載の燃費計で6.1km/リッターを記録した。拡大

テスト車のデータ

BMW M8クーペ コンペティション

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4870×1905×1360mm
ホイールベース:2825mm
車重:1910kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:625PS(460kW)/6000rpm
最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1800-5860rpm
タイヤ:(前)275/35ZR20 102Y/(後)285/35ZR20 104Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:2444万円/テスト車=2749万2000円
オプション装備:Mカーボンエンジンカバー(16万4000円)/Mカーボンセラミックブレーキ(120万5000円)/Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(60万9000円)/Mドライバーズパッケージ(33万5000円)/Mカーボンエクステリアパッケージ<フロントエアカーテンガイド+ミラーキャップ+リアスポイラー+リアディフューザーインサート>(73万9000円)

テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1782km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:299.8km
使用燃料:48.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.2km/リッター(満タン法)/6.1km/リッター(車載燃費計計測値)

BMW M8クーペ コンペティション
BMW M8クーペ コンペティション拡大
グリルの格子にも「M8」エンブレム。特別なハイパフォーマンスモデルであることがアピールされる。
グリルの格子にも「M8」エンブレム。特別なハイパフォーマンスモデルであることがアピールされる。拡大
ホイールのサイズは前後とも20インチ。その奥に見える「Mカーボンセラミックブレーキ」はオプションで、価格は120万5000円。
ホイールのサイズは前後とも20インチ。その奥に見える「Mカーボンセラミックブレーキ」はオプションで、価格は120万5000円。拡大
トランクリッドにはカーボン製のリップスポイラーが装着される。これはセットオプション「Mカーボンエクステリアパッケージ」に含まれる。
トランクリッドにはカーボン製のリップスポイラーが装着される。これはセットオプション「Mカーボンエクステリアパッケージ」に含まれる。拡大
「M8コンペティション」には、今回試乗した2ドアクーペのほか、カブリオレや4ドアクーペもラインナップされている。
「M8コンペティション」には、今回試乗した2ドアクーペのほか、カブリオレや4ドアクーペもラインナップされている。拡大
青木 禎之

青木 禎之

15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。

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