BMW M8クーペ コンペティション(4WD/8AT)
本物のラグジュアリースポーツ 2022.11.09 試乗記 BMWの最上級モデルならではのラグジュアリネスと、サーキット直系のテクノロジーが融合した「BMW M8」。速いだけでも、豪華なだけでもないこのビッグクーペは、私たちにどんな感動をもたらしてくれるのか? 諸元表やカタログには表れない、その妙味に触れた。ビッグクーペならではの大人の魅力
「なんてステキなんでしょう」
これから試乗する相手が最高出力625PSの4.4リッターV8ツインターボを積んだお化けクーペだというのに、筆者の心はちょっと弾んでいた。普通なら、その4.9mに及ぶ全長と1.9mを超える横幅だけでもうんざりしそうなものなのに、そんなことすら気にならなかった。
思うにそれは、このクーペが存外に美しかったからだ。PCやスマホの画面ではスケール感が伝わらないが、実物はかなりデカい。デカいのだが、だからこそ伸びやかで、美しい。そしてこの迫力と鮮やかなボディーカラーの組み合わせが、恐ろしく“ギャップ萌(も)え”させてくれる。やっぱりM8には、「M3」や「M4」では出せない大人の魅力がある。
というわけで、今回試乗するBMW M8クーペ コンペティションだが、最初に言ってしまうと性能的な面での磨き上げは、全くない。イヤーモデルで変わったのはまず外観で、ボンネットやホイールに付けられるエンブレムが、BMW M社の50周年記念仕様のバッジに変更された。さらにM仕様専用となるヘッドライトには、「シャドーライン」なるものが標準装備されたという。
インテリアに目を移すと、センターモニターが最新仕様の12.3インチに大型化されたほか、ドアスイッチ類にシルバー加飾が施され、質感が向上している。試乗車は例のごとくオプションテンコ盛りだったため、前2座席が「Mカーボンバケットシート」に変更されていた。
つまるところ、前回の紹介から見た目以外はなんら変更のないM8クーペ コンペティションだが、いつまで残っていてくれるかわからない4.4リッターV8エンジンの走りを味わえるのは悪くない。というわけで、一路山梨方面までひた走り、これを堪能してみた。
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街なかでも感じられるハンドリングのキレ
M8クーペ コンペティションを走らせてまず感じたのは、思った以上の扱いやすさだった。もちろん、車幅はとても広い。しかし運転しやすいのだ。クーペという体裁もあってAピラーはかなり寝かされている。だから前側方視界に限定すれば確かに“狭い”のだが、そのぶんグラスエリアは大きく前方も開けており、トータルでの視認性は十分に確保されている。
そしてなにより、動きが軽い。操舵レスポンスがよく、とても車重が1.9t以上あるとは思えないほど、スイスイと街なかを走り抜ける。まるでアスリートがウオームアップするかのような身のこなしだ。その理由はステアリングのギア比うんぬんというよりも、足腰の強さだろう。特にバネ下の20インチタイヤは剛性が高く、硬めのスプリングがここからの入力を支えることで、操舵にキレをもたらしている。
そのぶん乗り心地は、コツコツと固い。特に試乗車はクッションが薄いバケットシートなこともあり、ことあるごとにお尻がつつかれる。それでも通常モードでは可変ダンパーがしなやかに動くから、いやな横揺れがないのは見事。またボディー剛性が高いぶんだけこうした入力もすぐに減衰される。……のだが、あと少しで2500万円に手が届く価格帯のクルマを買うオーナーの気持ちを考えると、「これでいいのかしらん?」と、外野はいらぬ心配をしてしまう。
しかし距離を稼ぐうち、その考えは少しずつ変わってきた。バカボンのパパではないが、これでいいのだ。確かにお尻はコツコツするが、M8クーペ コンペティションを走らせていると、なぜか元気になってくるのである。
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走らせるほどに気分があがる
レーシングスピードでなくとも、M8クーペ コンペティションは走らせているだけでメンタルが前向きになって面白い。
当日は雨の試乗だったが、「4WDだから安心」なんて思っていたらとんでもない。後輪駆動をベースとする4WDシステム「M xDrive」は、降りしきる雨のなかでもM8クーペ コンペティションを、あたかもFR車のように走らせる。つまり後輪がその駆動をロスしない限りは、必要以上にフロントタイヤへトルクをスプリットしない。
フロントに大排気量のV8ツインターボを搭載しているにもかかわらず、その重さがハンドリングに表れないのは、これを可能な限りバルクヘッド側にマウントし、全幅を大きくとって重心の移動を穏やかにしているから。同じFRベースの4WDでも、このサイズが使えるからこそ、V6ツインターボで鼻先がより軽いはずの「日産GT-R」よりも、軽さと切れ味が出せる。
ウエット路面における装着タイヤの接地感が低いことだけはとても残念だったが、挙動そのものはクイックながら安定している。M4ほどの鋭さではないが、だからこそ、これを手に入れるであろう年齢層のドライバーにも楽しめるハンドリングに仕上がっている。
4座のビッグクーペ自体が少なくなった今、直接のライバルを探すのは難しいが、強いて挙げるなら「メルセデスAMG GT」あたりか。それを物差しとすると、M8クーペ コンペティションのキャラクターは、市販のベースモデルとレーシングモデルの中間あたりだ。ラグジュアリーなクーペでありながらオーソドックスなGTカーとするのではなく、よりスポーティーな走りを強調しているところがBMWらしい。
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エンジンとハンドリングにみる妙味
エンジンも、お世辞抜きにいい。90°のバンク角を持ち、等間隔で8つのシリンダーを爆発させるこのV8は、BMW製ユニットならではの滑らかな回転上昇感が特徴的だ。カーボン製のカバーを外すと見える、Vバンク内側に配された2つのタービン。ここにつながるエキゾーストは両バンクをまたぐような流路をたどり、ツインスクロール式の制御によって過給圧はきめ細かくコントロールされる。さらにこの前方には、弁当箱のように大きな水冷式インタークーラーと吸気ボックスが収まる。
そして4.4リッターという今どき大きめな排気量が、滑らかな吹け上がりに底力を与えている。背中をグーッと押し出す感じはM4よりも確実に上であり、きちんとBMW内でのヒエラルキーが守られている。
だからエンジンを5000rpmほど回しただけで、心のなかで「最高ッ!」と叫べる。ガッツリ利くカーボンセラミックブレーキのタッチには少し驚かされるけれど、ハンドルを切り返せばペタッと張り付くようなコーナリングに、気持ちが若返る。
筆者は幸運なことに、M8の前身となる「M6」のレーシングモデル「M6 GT3」を走らせた経験がある。真冬のスリックタイヤにおっかなビックリ走らせたM6 GT3は、その巨体がウソのように、これまで乗ったすべてのツーリングカーのなかでもとびきりのコーナリングマシンだった。そしてエンジニアは「だからこそドライバーは、常に全開で走らなければいけないんだ」と、その苦労も教えてくれた。要するにBMWは、レーシングカーもストレートで稼ぐタイプではないということだ。
M8には間違いなく、この血が受け継がれている。きっとステアリングの「M」ボタンを押して、このポテンシャルをサーキットで解放したら、またあの感覚がよみがえるのだろう。レースでは常に気を抜けないかもしれないけれど、趣味のスポーツカーとしてはオーナーを歓喜させるコーナリングマシンに仕上がっているはずだ。
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そのキャラクターは“ラグスポ”の腕時計に通じる
そんな妄想に駆られて、ステアリングホイールの「M2」ボタンを押してみる。即座に呼び出されるカスタマイズモードのセッティング(任意で選択が可能)は、DSCオフのFRモードとしてあったため、ほんのわずかなアクセルオンでふわりとリアが流れた。あぶないアブナイ、やっぱりコイツはモンスターだ。
しかし、だからこそ、この“コツコツ”はありなのだ。すべてのM8クーペ コンペティションのオーナーがそのどう猛さを自覚するためにも、そしてステアリングを握ったときの気分を少し盛り上げるためにも、この乗り心地は非常にうまく演出が効いている。
機械式時計の世界ではいま、“ラグスポ”なるものが大はやりしている。最高峰で言うとオーデマ・ピゲの「ロイヤルオーク」やパテック・フィリップの「ノーチラス」が有名だが、それはつまり、スポーツウオッチとしての性能を持つことは当然として、ぜいたくさや豪華さ、すなわちラグジュアリネスも兼ね備えることを意味している。M8クーペ コンペティションも、まさにそんな一台なのだと思う。
サーキットのラップタイムだけで言えばM4のほうが速いだろうけど、求めるのはそこじゃない。そう考えるといろいろなことが見えてくる。シートヒーターを使えばセンタートンネルやドアパネルの肘置きまで暖かくなる用意周到さ。このたっぷりとしたボディーサイズをして、2ドアの“2+2”として使うぜいたくさ。ストイックな速さを知るBMWだからこそつくり得る“ラグスポ”が、M8コンペティション クーペ最大の魅力というわけである。
(文=山田弘樹/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
BMW M8クーペ コンペティション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4870×1905×1360mm
ホイールベース:2825mm
車重:1910kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:625PS(460kW)/6000rpm
最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1800-5860rpm
タイヤ:(前)275/35ZR20 102Y/(後)285/35ZR20 104Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:2477万円/テスト車=2811万3500円
オプション装備:BMW Individualボディーカラー<デイトナビーチ・ブルー>(65万7000円)/BMW Individualフルレザー・メリノ アイボリーホワイト/ナイトブルー(16万4000円)/コンペティションパッケージ(0円)/Mカーボンエンジンカバー(16万4000円)/Mカーボンセラミックブレーキ(12万0500円)/ヒートコンフォートパッケージ(5万5000円)/Mカーボンバケットシート(50万円)/Bowers&Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(60万9000円)/Mドライバーズパッケージ(33万5000円)/Mカーボンエクステリアパッケージ(73万9000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2760km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:354.8km
使用燃料:41.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.5km/リッター(満タン法)/8.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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