第664回:旧型「ジムニー」は誰も手放さない! イタリアで人気の低年式中古車3台
2020.07.17 マッキナ あらモーダ!ジムニー「2020年分完売」の背景
今回はイタリアで根強い人気を維持している、3台の中古車について記そう。
その前に「スズキーノ(小さなスズキ)」のニックネームを持つ「ジムニー」に関する話をひとつ。
2019年に現行の4代目ジムニーがイタリアで大好評をもって迎えられたことは、本欄第614回で記したとおりだ。
ところが2020年7月現在、こちらでジムニーは購入できなくなっている。スズキ・イタリアの公式サイトには「Coming back 2021」と記されている。念のため筆者が住むシエナのスズキ販売店に行ってみたが、ショールームには1台も展示されていない。
スズキ・イタリアは2020年1月22日付で、以下の文を発表している(原文はイタリア語)。
「2020年の年明けからわずか数週間で、今年のイタリアに割り当てられたジムニーの全ロットは完売しました。この偉大な小型オフロード車を発売して以来の旺盛な需要は生産能力を超えてしまい、予想をはるかに前倒しでそれを達成してしまいました。
そのため、販売店での“小さくても、とどまるところを知らないスズキ製オフロード車”の受注はできなくなります。
多くのお客さまにジムニーを選んでいただいたことに感謝するとともに、スズキおよびスズキ・イタリアに興味を示していただいた皆さまにおわびを申し上げます」
ところが、複数の欧州メディアがより深い事情を報じている。
背景にあるのは欧州連合(EU)が新車に課す二酸化炭素(CO2)排出量基準である。
この基準では、乗用車1台あたりのCO2排出量を95g/kmと定め、超過1gあたり95ユーロ(約1万1600円)のペナルティーを科している。CO2の超過量に販売台数を掛け、平均値を算出したうえでメーカーに支払いを命ずる。
ただし、車種体系の中で車両重量の合計が軽いメーカーに対しては、より厳しい基準のg/kmが適用される。
このルールは小型車が多いスズキにとって不利だ。さらに、欧州仕様のジムニーに搭載されるエンジンは1.5リッター自然吸気のみで、そのCO2排出量は178kg/km。これ以上の台数を販売すると、ブランド全体としてのペナルティーが増してしまう。
こうした基準は2020年から全体の95%の車両に適用され、2021年には全面的に実施される。
それらから総合的に判断し、2020年のジムニーを完売扱いにしたというわけである。
そうした状況を如実に反映しているのは、現行型ジムニーのイタリアにおける中古車価格である。欧州を代表する中古車検索サイト『アウトスカウト24』を参照すると、出品数は全国でわずか71台。さらに、7000~8000kmを走行済みにもかかわらず、新車価格と同等かそれを上回る3万ユーロ(約365万円)前後のものも見られる。
「生命線」にもなる初代スマート
さて、本題である。
イタリアで昨今の中古人気車に初代の「スマート・シティークーペ」がある。イタリアの有名中古車サイト『アウトスーパーマーケット』では、3000ユーロ(36万円)前後が中心価格帯だ。
最も高年式でも17年落ちのクルマとしては価格が維持されている。それどころか、2代目の「スマート・フォーツー」が同じ3000ユーロ台からちらほらあるのを考えると、決して安くはない。
人気の背景にあるのは、そのコンパクトさであろう。2代目は全長×全幅が2695×1559mmなのに対して、初代は同2500×1510mmだ。195mm短く49mm狭い。
ささいな違いと思われるかもしれないが、駐車場環境が過酷な市街地では、全長は少しでも短いほうがよい。中世・ルネサンス時代の歴史的旧市街によくある馬小屋を改造した車庫では、全幅の狭さが極めてありがたい。
筆者の知人、エリザベッタさんも6年ほど前に初代スマートを手に入れた。彼女の場合は、ボディーサイズ以外の理由もあったという。
エリザベッタさんが運転を始めたのは二十数年前。結婚して、クルマがないと不便な郊外に引っ越したときだった。
ただし運転は苦手だった。18歳で運転免許を取得したが、市街地生まれだったので自分のクルマを所有する必要も、運転する必要もなかったからだ。
1台のフィアット製小型車が家にあったものの、彼女にとっては十分に大きかったうえ、彼女の言葉を借りれば「エンジン音を聞き分けて変速するのが得意ではなかった」という。
以来、運転を中断してしまった。
「やがて、とにかく小さくて、かつオートマチックのクルマが、私の生活の生命線と思うようになったのです」
医師である夫に相談すると、シーケンシャルシフトを持つ初代スマートがいいだろうという結論に達した。
「夫の友人である修理工場経営者に、『スマートの中古車が出たらすぐに知らせて』と頼んでおきました」。
数カ月後、初代スマートが見つかったという連絡がエリザベッタさんのもとに舞い込んだ。
「期待通り、数カ月の間で運転の自信がつき、すべての不安が消えました。スマートのおかげで私は運転の恐怖を克服できました。小さいですが広々としていて、駐車場探しに苦労したことがありません」
そしてこう締めくくった。「すでに走行距離は11万kmになろうとしていますが、他のクルマにしようとは思いません」
最近でこそ都市回帰志向が一部で見られるが、エリザベッタさんのように郊外の広い住宅に引っ越す家族も引き続き存在する。
それを機会に運転の必要が生じる人も少なくない。そうした人にも、初代スマートは最適なのである。
キノコ狩りにパンダ4×4
しかしながらイタリアで人気の低年式中古車の横綱といえば、初代「フィアット・パンダ4×4」である。
実は冒頭で記したスズキ販売店に赤い初代パンダ4×4が展示されているのを目撃した。
数日後に行ってみたところ、すでに消えていた。筆者の知人である営業スタッフ、ジャンニさんに聞けばそれは「1998年式で、3000ユーロ(約36万5000円)の値札を付けたところ、すぐに買い手がついたよ」という。
生産終了から17年が経過し、メーカー認定中古車対象から外れて久しいこのモデル。販売店の店頭に並んでいることも珍しい。人々はどうやって探しているのだろうか?
それに対してジャンニさんは「最近はインターネットもあるけど、やはり人づてだな」と教えてくれた。
確かに、筆者が知るオーナーも、父親の旧友が手放したのを機に、タイミングよく引き取った。
ジャンニさんにパンダ4×4の人気の理由を聞くと、「フィアット車はカロッツェリア(ボディー)のデキはそこそこでも、エンジンはいつまでも文句を言わずひたすら回り続けるからね」と教えてくれた。
山あいに家や別荘を持つ人はもちろん、キノコ狩りやハンティングといったアウトドア趣味にも最適なのだという。
確かに近所のタバッキ・エディーコラ(タバコ店兼新聞雑誌スタンド)には毎週末の朝になると、そうした趣味に出発すると思われる初代パンダ4×4とその仲間たちが集結する。
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“おクルマ”としての扱いを要求しないクルマたち
そのジャンニさんが面白い話をしてくれた。
「今イタリアではジムニーが品薄なんだ」。
すでに述べた現行型の話かと思ったら、ジャンニさんは首を横に振る。「いや、過去モデルのことだよ」。そしてこう告げた。「旧型のオーナーたちが手放さないんだよ」
彼は、昭和ひと桁世代の人が歴代天皇の名前を“そら”で言うかのように、歴代ジムニーの型式名をすらすら言いながら、以下を教えてくれた。
初代(SJ20)はそもそも輸入台数が少なかったので、あまり捜索の対象にはならない。
いっぽう1982年からの2代目(SJ410/SJ413)は、1989年から2003年までスペインのサンタナ・モーターでつくられた「サムライ」も含めて品薄であり、さらに3代目もオーナーがなかなか手放さないため在庫が極めて少ないという
確かに『アウトスカウト24』で検索してみると1997年式、つまり23年落ちにもかかわらず1万2900ユーロ(約157万円)といった、強気の値付けをしたサムライを発見できる。
理由の第1は現行ジムニーの価格だ。「ある程度の装備を加えると、2万5000ユーロ(約304万円)級になる」。そうした状況に加えて冒頭の品薄もあり、従来型のユーザーが放出しないのだという。
そして、もうひとつの理由をジャンニさんは教えてくれた。
「従来型ジムニーの代替となるモデルが、他のメーカーの、たとえ新車を探してもないんだ」。
実はこれは、今回紹介したすべての中古車に当てはまることだ。
現行車と比べれば、安全性能や環境性能が見劣りするのは明らかだ。しかし機構がシンプルゆえに丈夫で、修理・維持さらに保険などのコストも安い。
同時に筆者は、それらが道具に徹し、いわば“おクルマ”としての扱いを持ち主に要求しないところが、支持を集めている理由と分析する。クルマを幼稚に面白がっていた時代を終えた、成熟社会における消費者ならではの到達点だ。
別の角度から言えば、その人気は一時の流行や投資トレンドではなく、設計思想を含めたモノとしての本質が顕在化したものといえる。
したがって個人的には、「フェラーリF40 LM」がオークションで高額落札されるよりも、ずっと痛快なのである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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