第189回:あ~、モテてぇなぁ
2020.09.14 カーマニア人間国宝への道クルマのモテ度が気になる
先日発売された「トヨタGRヤリス」。そのプロトタイプ試乗会にて初めて現物を目の当たりにした私は、強いコーフンを覚えた。
「これはモテないカーの超新星だ!」
モテないカーとはつまり、女性に不人気なクルマということ。正確には、たぶん女性に不人気じゃないかな~という予感がビンビンにするクルマ、ということである。
とある調査によれば、女性に不人気なクルマの典型は、超戦闘的な外観を持つ小型車であるという。GRヤリスはまさにそれだ。
GRヤリス プロトの走りは、それはもう凄(すさ)まじく素晴らしかったが、サーキットでこれだけしっかり感があるということは、公道では拷問レベルだろう。カイテキさをなによりも欲する今どきの女子にとって、あってはならない乗り心地である。
実を言えば、私は58歳の現在でも、そのクルマがモテそうかどうかが非常に気になる。
もちろん、クルマでモテるモテないが決まる世の中ではないことは百も承知、58歳のオッサンがモテるモテないの対象外であることも承知だが、それでも一応気になる。
いや、モテないクルマが嫌いなわけではない。私が崇拝するフェラーリ様は、現在では典型的な「モテないカー」の一員となっている。今どきの女子は、車高の低いスポーツカーや音の大きいクルマ、オープンカーをすべて嫌う。わが「フェラーリ328GTS」と「348GTS」は、それらモテない資質をすべて網羅したモテないカーのど真ん中だ。モテないカーマニアとして有名なwebCG編集部ほった君の「ダッジ・バイパー」ともいい勝負だろう。
女性にモテるクルマとは?
なぜ、GRヤリスやフェラーリやバイパーがモテないのか?
それはつまり、「自己愛が強そう」ということではないか。このヒト、私よりも自分が好きそうだわ。正確には、私よりクルマが好きそうだわ→だってクルマ好きにとって、クルマは自分の分身でしょ→つまり自己愛が強いんじゃない? というニオイを感じるのではないか。
多くの女性は、ボディービルダーの男を嫌う。私のようなもやしっ子から見ると、ボディービルダーは憧れのど真ん中。なぜ多くの女性がボディービルダーを嫌うのか理解できないが、それも自己愛が強そうに見えるからだと想像する。
GRヤリスやフェラーリやバイパーのようなクルマに乗ることは、男にとっては自分の武装化にほかならず、つまりボディービルダーといっしょなのである。
では女性にモテるクルマとはなにか。
私の経験によれば、それは「レクサスRX」である。
レクサスというブランドは、高級ではあるけれど、決してそんなにクルマ好きなニオイ(≒自己愛)はない。SUVは見晴らしがよく、守られ感も高いのでもともと女性に人気だが、レクサスの上級SUVであるRXは、装備も至れり尽くせりで大変にスバラシイ。中でもモテる装備の決定版は、夏のシートベンチレーターである。
私がかつて、モデルさんをレクサスRXに乗せた際のこと。彼女はクルマにはまったく興味がなく、レクサスRXにも一切関心を向けなかったが、シートベンチレーターのスイッチを入れた途端「えっ!? これなんですか! スゴイ! 気持ちいい~!」と目を輝かせた。
女性は、「自分よりも私を大事にしてくれる男」が大好きである。レクサスRXは、まさにそういうクルマなのだ。
真のマニアが乗るべきは
最近登場したクルマの中で、GRヤリスがモテないカーの典型ならば、モテそうカーの典型は新型「トヨタ・ハリアー」だろう。
新型ハリアーは、レクサスRXに負けず劣らず、エレガントなフォルムを持つイケメンである。ちょっと自己愛の香りがないでもないが、スピードを出しそうな感じ(≒マッチョ系)ではないからオッケーだろう。
内装の質感は非常に高く、装備も充実している。そしてトドメがシートベンチレーターだ。
新型ハリアーは、レザーパッケージを選択すれば、「快適温熱シート+シートベンチレーション(運転席・助手席)」が標準装備される。完璧やないけ!
新型ハリアー(特にレザーパッケージ)は、女性にとって、自分を犠牲にして尽くしてくれるマメ男クン。しかもかなりのイケメンだ。レクサスRXとの差は、値段を聞かなければわからないだろう。
しかし、真のカーマニアは、決して新型ハリアーに乗ることはない。確かにシャシーからなにから素晴らしくよくできているが、どんなにいいクルマでも、こういうクルマはカーマニアの心には響かない。
なぜなら、自分の分身として愛することができないタイプだからだ。私は絶対買わないし、ほった君も買わないだろう。
つーか、新型ハリアーに乗ってるほった君を想像するだけで、なんだかちょっとキモチワルイ。逆にほった君がGRヤリスに乗ってたら、カーマニアは拍手喝采だ。
私は……。いや、私は同じモテないカーでも、フェラーリでいいです。GRヤリスはちょっとタイプじゃないんで。
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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