同じ急速充電でも実態はこんなに違う!? 「アウディe-tron」で行くニッポン急速充電“記”
2020.10.26 デイリーコラム海老名は港北の1.4倍
2020年9月17日、ついに日本でもアウディの電気自動車(EV)「e-tronスポーツバック」が発売になった。その2週間後にはプレス試乗会で実力を試したのだが、その完成度の高さに驚いた! というのは、試乗記で紹介したとおりだ。
ただ、そのときは試乗するだけで精いっぱいで、充電するチャンスがなかった。一度くらい充電したかったなぁ……なんて思っていたら、たまたまとある仕事で1週間ほどe-tronスポーツバックに乗れることになり、自宅で充電できない私は、早速いろんな場所で充電してみることにした。
e-tronスポーツバックは交流200Vの普通充電に加えて、CHAdeMOによる直流の急速充電が可能だ。高速道路のサービスエリアなどでよく見かける「EV QUICK」という青い看板の設備がそれだ。
まずは、東名高速道路下りの港北PAで30分間の充電を行う。このクルマの場合、「e-tron Charging Service」カードが1年間無料で利用できるので、それをかざせば簡単に充電できるのがうれしいところ。このときは30分の充電で18.0kWhの電力が追加され、バッテリー残量は25%から47%に増えている。
ひと仕事終えての帰り道、東名上りの海老名SAでピットストップし、同じように30分間充電する。すると、ここでは25.1kWh充電できて、バッテリー残量は27%から58%となった。充電量を比較すると、港北の約1.4倍である。この差が、その後の航続距離に影響するのは言うまでもない。
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充電に要する時間はクルマによっても異なる
同じ30分の充電なのに、充電量に差が出るのはなぜか? その原因は、急速充電器の出力が違っているためだ。港北PA(下り)のものが40kWであるのに対し、海老名SA(上り)のそれは90kWと高出力なのだ。
少し面倒な話になるが、30分の充電量(電力量)を単純計算すると、港北PAは40kW×0.5時間=20kWh、海老名SAは90kW×0.5時間=45kWhということになる。ただ、実際には30分間ずっと同じ電力で充電するわけではないので、港北PAでは想定の20kWhを下回る18.0kWにとどまっている。
一方、海老名SAでは45kWhという計算値に対して実際は25.1kWhと、大幅に少ない数字である。これはクルマによって対応する急速充電の電力に上限があるからで、例えばこのe-tronスポーツバックは50kWである。25.1kWhという数字は、50kW×0.5時間=25kWhと考えると、「ほぼ予定どおり」ということになる。
こうなると「急速充電にかかる時間が気になる人、一度にたくさん充電したい人は、大電力で充電できる車種を選べばいいんだね!」という話になりそうだが、実際には「日産リーフe+」(70kW)などを除くと、日本で販売されるCHAdeMO対応のEVは、その多くが“50kWが上限”となっており、現状ではどれを選んでも変わらない。充電環境の改善には、クルマの側の進化も必要なのだ。
“時間”ではなく“充電量”で課金するべきだ
その後、東名下りの牧之原SAでは、50kW充電器で30分間充電して22.6kWhをゲット。首都高速の充電器は出力低めの35kWで時間も20分と短かったため、充電量は11kWh程度だった。
このように、一口に急速充電と言っても充電量には大きなばらつきがあり、手間を考えると(当然ながら)高出力のタイプで充電するのが有利というのがわかる。幸い、スマートフォンの専用アプリやウェブサイトを見れば、充電ステーションの位置に加えて、充電器の出力もわかるから、それを頼りに愛車の充電能力に合った高出力タイプを“はしご”しながらドライブするというのが効率的だろう。
一方、現在の充電料金は「充電器使用料」として時間で課金されるので、30分の急速充電なら18kWhでも25kWhでも同じ額となり、不公平感があるのは確か。また、皆が高出力タイプの充電器に集中してしまうと、順番待ちで思わぬタイムロスが発生することもあるだろう。充電器の管理者が電気を再販できない現状ではいろいろなハードルがありそうだが、今後は充電した電力量に合わせて課金するような料金体系に変えていくことも必要だろう。
それにしても、充電中のe-tronスポーツバックは注目度が高く、愛車ではないとはいえ、ちょっと誇らしげな1週間だった。
(文=生方 聡/写真=神村 聖、向後一宏、日産自動車/編集=堀田剛資)
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生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。