第195回:デカ鼻、謎の効用
2020.12.07 カーマニア人間国宝への道平均10km/リッターってすごいよね?
フェラーリとランボルギーニのオーナーとなり、カーマニアの頂点に最接近した私にとって、BMWは「堅実な足」である。
現在は激安中古「320d」(先代)を普段用に使い大満足しているが、「2シリーズ アクティブツアラー」の走りに感動して以来、心の中では「BMWはFFに限る」とも思っている。
以前、そう書いたところ、「コイツはBMWファンでもなんでもない」という声を頂いた。ディープなBMWファンにすれば、「フザケンナ!」と思うのも当然か。
しかし私は、BMWの直6を味わう前に、フェラーリの12気筒やV8を知ってしまった。あまりにも味の濃いものを先に食べちゃったので、「BMWは直6」と言われても、「薄味でステキですね」みたいになってしまったのである。
それでも、BMWの3リッター直6ツインターボが登場した時は、その極厚トルクに感動した。特にE90系の「335iカブリオレ」は、ノーマルマフラーでもサウンドがウルトラすばらしく、「これは直6のフェラーリエンジンだ!」と叫んだ。ちなみに直4のフェラーリエンジンはアルファ・ロメオのツインスパーク系。直2はフィアットのツインエアです。V6や直3はまだありません。
とにかく私は、BMWの直6にそれほどの思い入れはないものの、BMW直6ターボはそれなりに特別な存在。実際、E90系の335iカブリオレも買いました(ド中古)。
私はあのクルマをとても大事にした。足グルマなのにチョイ乗りではまったく使わず、ほとんど高速巡行専用だった。売却するまでの約2年間、通算燃費10km/リッターをキープしたほどである。自分としては空前絶後の燃費レコードホルダーのつもりでいたが、車検の際ディーラーの人に自慢したら、まったく反応してくれず悲しかった……。すごいよね335iカブリオレで平均10km/リッターって! ねぇ?
まったくスピード感がない!
話はようやく新型「4シリーズ クーペ」に移る。担当サクライ君が、「今度は『M440i xDriveクーペ』で首都高に行きませんか」と誘ってくれたのです。
新型4シリーズ クーペといえば、縦長のデカ鼻が話題だが、それについては以前から肯定派なので割愛。焦点は最新の直6ターボだ。
最高出力は387PS。私が乗っていた335iカブリオレは306PSだったので、そこから3割近くもアップしている。トルクも同様に2割5分増しだ。ほぼ車名通りの増量である。
杉並区のわが家から首都高へ向かうと、エンジンはもちろんのこと、ステアリングなどすべての操作が羽毛のようにやさしく軽い。そしてまったくスピード感がない! 「328」や「カウンタック」だと、スピードメーターが表示する数値の2倍は(速度が)出ているように感じるのだが、コイツはメーターの半分くらいにしか感じない。
私:ラクだ……。なんてラクなんだ!
サクライ:ラクチンで速いですね。
私:前に乗った2台のポルシェよりぜんぜんラクだね!
サクライ:ある意味、やっぱりポルシェはポルシェなんですね。
そのようなオッサン臭い会話を交わしながら流していると、目の前に名車が!
オレ:うおおおおっ! 「R34 GT-R」だ! あのドブスなデザインが超カッコイー!
サクライ:男らしいですね。
オレ:うわあっ! 今度はサイバースポーツ「CR-X」! フツーにメッチャカッコイー!
サクライ:今日は国産旧車づいてますね。あ、あっちのアレはなんでしょう?
オレ:なんだろう……。うわあああああっ! 「アルシオーネSVX」じゃんか! スゲーっ! さすがジウジアーロ!
![]() |
![]() |
![]() |
夜の首都高では最高
平日の夜、首都高を走っているだけで、国産ネオクラシックカーショーが見られるとは、なんてシアワセなんだろう……。
特筆すべきは、彼らはそろいもそろって、ものすごくゆっくり走っていたことだ。本当にものすごぉくゆっくりと、大事なクルマをそーっとそーっと走らせていた。
こういう時、こっちも328やカウンタックみたいなネオクラシックカーだと、周囲のクルマにあまり注意を払えないが、最新の快速BMWなら、集中力の9割を周囲に向けられる。
私:サクライ君、こういうクルマもいいね!
サクライ:そうですか。よかったです。
私:夜の首都高を流すにはもってこいだ。328やカウンタックだと、夜は車庫から出すだけで近所迷惑を考えちゃうけど、これなら一切気兼ねせず、シュッと出撃してシュッと帰ってこられるもんね!
サクライ:そうですね。で、最新の直6ターボがいかがですか。
私:これで箱根のターンパイクを走った時は、ラクに速すぎて手応えがなさすぎるって思ったけど、夜の首都高では最高! ほっといても勝手にシュッと速くて快適だから、旧車見物を満喫できたよ!
サクライ:そうですか。よかったです。
まあ、これに1000万円出すなら、1000万円でフェラーリ328を買って、見られる側に回ったほうがシアワセになれると思うが、新型4シリーズ クーペに乗っていたら、夜の首都高でやたらと前のクルマが進路を譲ってくれた。夜だからヘッドライトしか見えないはずなのに、このデカ鼻が見えたんだろうか。謎。
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。