ホンダCBR600RR(6MT)
間口は広く 懐は深く 2021.01.21 試乗記 ホンダのミドル級スーパースポーツモデル「CBR600RR」が復活。レースでの勝利を目的に開発された新型は、ライディングの基礎を学ぶのにも、サーキットでのスキルを磨くのにも好適な、ホンダらしい誠実さを感じさせるマシンに仕上がっていた。目標はサーキットでの勝利
新型CBR600RRの価格は160万6000円である。600ccクラスの国産モデルとしては高額で、にもかかわらず、エンジンとフレームの基本設計は2007年から変わっていない。では一体どこに手が加えられたのか?
その多くは、ピストン、クランク、カムシャフト、シリンダーヘッド、吸排気系、スイングアームの内部構造、電子制御と、はた目には分からない部分だ。従来モデルと明らかに異なるのは、すっきりした外装とそこに設けられたウイングレット(カナード)の存在感である。
ちなみに、2007年型の価格は107万6250円だった。新型はそのおよそ1.5倍だが、いくらなんでも高くなり過ぎだろうと糾弾するつもりは全然ない。仕上がりは論賛されるべきもので、パワーとハンドリングがバランスしたコーナリングマシンとしての完成度には、ちょっと驚かされた。それゆえ、可能な限り多くの人に体感してほしいと考えている。
600ccクラスのスーパースポーツはそもそも大きなマーケットではなく、近年はさらに縮小傾向にある。スーパースポーツとはすなわちスペックの高さに意義があり、その欲求に素直なユーザーは、1000ccクラスを求めるからだ。実際、ホンダがこの新型に課した国内販売計画台数は年間1000台にすぎず、ユーロ5の排ガス規制を通していないため、欧米に投入される予定もない。いわば、日本と東南アジアだけの局地戦用マシンとして用意されたのである。
目的は単純で、アジアロードレース選手権の制覇だ。そこではヤマハやカワサキが暴れまわり、ホンダは防戦を強いられてきたのである。それがどうにもガマンならない。とはいえ、そのためだけにばく大な開発コストは割けない。だったら、今あるモノを生かし、そのポテンシャルを最大限に引き上げよう。そういうプライドとビジネスのせめぎ合いの結果が、今回の“ビッグマイナーチェンジ”なのだ。
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スーパーバイクの中でも随一の“一体感”
レースで優位に立つための工夫のひとつを、フロントフォークに見つけることができる。まるで80年代の走り屋カスタムのように、トップブリッジから大きく突き出ているのだ。正確には、突き出したのではなくフォークが延長されたのだが、これがなんなのかといえば、セッティングの自由度を確保するための策なのだ。
というのも、アジアロードレース選手権ではタイヤにダンロップのスリックが指定されている。プロファイルの関係上、それを装着するとリアの車高が大きく上がり、バランスを取ろうとすれば必然的にフロントも上げなくてはならない。従来モデルではそのゆとりが少なく、セッティングを詰めることが難しかったのだ。それを解消するシンプルかつ効果的な方法として盛り込まれたのが、この長いフォークなのである。
このように、随所にレース由来の特徴が見いだせるCBR600RRだが、構える必要はまったくない。シロートお断りのイメージとは裏腹に、ひとたびまたがれば、さほど時間を要さずバイクが身体にフィット。乗り手を脅かすことも拒絶することもなく、リクエストにきちんと呼応してくれる精密さが心地いい。
優れた一体感に寄与しているのが、194kgの車重だ。この数値は従来モデルより5kg軽く、またライト類のLED化やABSユニットの小型化、燃料タンクカバーの低重心化などとも相まって、マスの集中が進んでいる。
この効果は歴然としていて、静的にも動的にも伝わってくる質量は軽い。取材日には「ホンダCBR1000RR-Rファイアブレード」にも乗っており、こちらの車重も201kgと、リッタークラスとしては最軽量の部類だった。しかしながら、CBR600RRのホイールベースはそれより80mmも短く、自在に扱える“手の内感”は圧倒的。ラインを見定め、そこへ車体を運ぶことのたやすさは、近年乗ったスーパースポーツの中でも群を抜く。
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初心者にも上級者にもすすめられる
エンジンの改良は、十分な低速トルクを維持しつつ、高回転域のひと伸びに力が注がれた。121PSの最高出力を1万4000rpmで発生し、そのままレブリミッターが作動する1万5500rpmまで回り切るさまは爽快そのもの。リッタークラスがせめぎ合う200PS超の世界とは異なり、スロットル全開を試せるギリギリのところにパワーが設定されている。
ホンダエンジンらしい高周波サウンドをよりシームレスに楽しむため、クイックシフターは装備したほうがいい。2万6950円のオプションだが、作動精度の高さと、特にシフトダウンの素早さは見事のひとことだ。新たに投入されたエンジンブレーキコントロールの巧みさも手伝って、コーナー進入時は2ストロークエンジンのように一気にギアを落としていくことができる。
ライダーをアシストする機能は他にもあり、パワーセレクター(出力値とその特性が変化)、トラクションコントロール、ウイリーコントロール、コーナリングABSといった電子デバイスをフル装備。それらが過度に先回りすることなく、セーフティー機能として働いてくれる。
一般論として、1000ccよりも600ccのほうが扱いやすいと言われれば、誰もが当たり前だと思うに違いない。ところが、ことスーパースポーツのカテゴリーに関しては、そうとも言い切れなかった。
なぜなら、600ccはエンジンの高出力・高回転化が進んできた一方、コストとの兼ね合いから電子デバイスは非装備、または簡易的なものしか与えられず、どんどんピーキーな乗り物へ変容してきたからだ。価格が障壁にならないのであれば、1000ccのほうがトルクフルで乗りやすく、楽しめる幅が広いのが実情だった。
この新型CBR600RRでは、そうしたイビツさがきれいに解消されている。スポーツライディングの基本を学ぶもよし、ストイックにスキルを磨くもよしというそのキャラクターは、600ccスーパースポーツのひとつの解である。
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ホンダの誠実さを感じる
それにしても、よくもまぁここまで仕上げたものだと感心する。冒頭、2007年型と基本設計は変わっていないと書いたが、これは一種のホットバージョン。四輪車で言うところの「タイプR」と捉えれば、車体価格も納得できる。
あるいは、既存のCBR600RRをベースにしたチューニングマシンと表してもいい。ベースマシンである2007年型をファクトリーに運び込み、エンジンを降ろしてクランクやピストンを換装。電気系をすべて見直し、空力を高めるために外装を一新して送り届けてくれた。そう思うとコストパフォーマンスは極めて高く、なによりエンジンフィーリングにもドライバビリティーにも、それに見合う快楽がある。
その意味では、これもサーキット走行を主体に楽しむべきモデルだが、CBR1000RR-Rとは違い、限界域を深追いしていない。公道を走らせた時のストレスのなさもまた、多くのスーパースポーツとは一線を画し、ツアラーとして扱っても大きな不満はないはずだ。ホンダの誠実な取り組みが感じられる一台である。
(文=伊丹孝裕/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
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【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2030×685×1140mm
ホイールベース:1375mm
シート高:820mm
重量:194kg
エンジン:599cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ
最高出力:121PS(89kW)/1万4000rpm
最大トルク:64N・m(6.5kgf・m)/1万1500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:17.3km/リッター(WMTCモード)/23.5km/リッター(国土交通省届出値)
価格:160万6000円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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