第641回:「ランドローバー・ディフェンダー」と「ジャガーIペース」でスキーゲレンデに挑む
2021.03.09 エディターから一言![]() |
「ランドローバー・ディフェンダー」と「ジャガーIペース」で長野県白馬村のスキーゲレンデにアタック! いかにも楽しめそうなディフェンダー……、それに対してクーペのようにスタイリッシュなIペースは、果たしてどんな戦果を挙げられるのだろうか。
![]() |
![]() |
![]() |
やはり野に置けディフェンダー
冬季恒例のジャガー・ランドローバー雪上試乗会に参加した。試乗会場は長野県白馬村にあるスキー場そのもの。コースの一部をディフェンダーやIペースで走ってよいという。今季はどこもスキー客が少なく、例年は外国人のスキーヤー/スノーボーダーに人気が高い白馬は特に少ないということで、交渉がまとまったそうだ。
ゲレンデで見るディフェンダーはカッコいい。これはゲレンデで会った人の見た目を実際以上に高く見積もってしまい、後日街なかで会ったときにガッカリする、いわゆるゲレンデマジックではない。東京で見てもディフェンダーはカッコいい。ただ、オフローダーを都市部で見てカッコいいと感じるのは“逆に”のパターンであって、やはり大自然にあるほうがしっくりくることを再確認した。
2019年にデビューし、2020年に日本導入されたディフェンダーは、前作からシャシーがラダーフレーム式からモノコック式へ、足まわりが前後車軸式から四輪独立懸架式へと切り替わった。つまり名前は受け継いだが、メカニズムの面では連続性のない存在となった。軍用としても使われた前作とは用途も使命も違うし、そもそも時代があまりにも違う。しかしディフェンダーと聞いて人々が期待するだけの悪路走破性は確保された。雪上ではどうか。ゲレンデへ乗り入れた。
まだまだ余力たっぷり
試乗したのは2月末。寒さのピークを過ぎていたうえにしばらくまとまった雪が降っていないとあって、雪の状態はベチャベチャだ。踏むとキュッと音がしそうな新雪と違って滑りやすい。積雪量自体は多いので抵抗感があり、やっかいだ。そんなゲレンデを、スタッドレスタイヤの「ノキアン・ハッカペリッタR3 SUV」を装着したディフェンダーはグイグイと登っていく。ところどころ設置されたパイロンに従ってジグザグに登っていく。タイヤの3分の1程度が雪に埋もれるほどの積雪とあって、ステアリングを切ると抵抗となってトラクション能力は下がるはずだが、速度が失われることはなく、狙ったラインをトレースし、確実に進んでいけた。ATセレクターレバー脇にあるスイッチを操作してロードクリアランスを最高の361mmにまで高めたので、車体と雪面との間にはわずかに隙間がある。ありがとうエアサス。
さまざまな状況に合わせたセッティングを呼び出すことができる「テレインレスポンス」は最初に「スノー」で、次に「コンフォート」で走らせたが、どちらでも同じように走行できた。副変速機でローを選ぶこともできるが、ハイのままで走行できた。まだまだ余力がある。
この日のゲレンデは、結構降った後に好天が続いた地域の、主要でない道路にありがちな状態だ。そのような路面をディフェンダーなら余力を残して走行できる。ただし全幅1995mm、トレッド1700mm(フロント)と大変ワイドなので、田舎のあぜ道は苦手だということは覚えておかねばならない。このクルマの悪路走破性を最大限に引き出す必要のある状況は日本の公道にはほとんどないだろうが、災害時などに役立つかもしれない。そうした能力を秘めていることに価値を見いだす人には魅力的なクルマだ。
Iペースでもゲレンデに挑む
ディフェンダーの雪上走破性が高いことは容易に予測できた。今回、ゲレンデを走らせて驚いたのはピュアな電気自動車(EV)のジャガーIペースのほうだ。SUV然とした格好ではないが、エアサスのおかげでロードクリアランスを最大230mmにまで高めることができるので、一部のなんちゃってSUVとは悪路走破性の面で一線を画す。固く引き締まった雪ではなく、前述の通り、積もってから時間が経過したシャーベット状の雪はクルマにとっては手ごわい。スキーヤーにはとってはつまんない。そういう路面でも確実に前へ進んでいくのは、電子制御うんぬんの前にロードクリアランスがしっかり確保されているからにほかならない。悪路走破に大事なのは、1に4WD、2にロードクリアランス、3にサスペンションストロークだと思う。もしかすると1と2は逆かもしれない。ほんとに一番大事なのは慎重さだが。
Iペースの機構はシンプルだ。前後車軸に同じモーターが配置され、通常は50:50の前後トルク配分で走行する。必要に応じて「アダプティブサーフェイスレスポンス」という機能が働き、トラクションを失った車輪にブレーキをかけ、きちんと接地している車輪にトルクを配分してくれる。純内燃機関車だと反応しないほどわずかなアクセル操作に対しても、モーター駆動車だとビビッドに反応してくれるため、発進時にガバッと踏む必要がなく、余計なスリップを減らせるのがよい。もちろんあえて強く踏んで空転させながら脱出したいような状況ではトラクションコントロールを切って深く踏めばOK。
Iペースでつかんだ手応え
ジャガーとランドローバーお得意の“悪路クルコン“こと「オールサーフェイスプログレスコントロール」も備わっている。悪路走行時にクルマが一定速度を維持してくれるので、ドライバーはステアリング操作に集中できる。
EVの重い車重は悪路走破に限らず、あらゆる場面でネガティブな要素であることは事実だが、半面、エンジンがなく、バッテリーをホイールベースの間の低い部分に薄く配置するIペースは、低重心で、前後重量配分も50:50と理想的でもある。その結果、運動性能が高く、ハンドリングは素直だ。モーターの大トルクによって加速中は重さを忘れる。減速時に思い出すが。
先日、英ジャガー・ランドローバーが発表した新グローバル戦略 「Reimagine(リマジネ)」によると、ジャガーを2025年からピュアEVのラグジュアリーブランドとして再生するそうだ。Iペースはそののろしだったということか。この決断を下したということは、彼らはIペースの開発で将来に対する手応えをつかんだということだろう。雪上を走らせてIペースの懐の深さを感じたのは確かだ。とはいえ、あと数年で電気屋に舵を切るとは大胆じゃないか。“伝統を守ることと変わらないということはイコールではない”というのはよく聞く言葉だが、とにかく大注目だ。
(文=塩見 智/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

塩見 智
-
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して 2025.10.15 レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。
-
第848回:全国を巡回中のピンクの「ジープ・ラングラー」 茨城県つくば市でその姿を見た 2025.10.3 頭上にアヒルを載せたピンクの「ジープ・ラングラー」が全国を巡る「ピンクラングラーキャラバン 見て、走って、体感しよう!」が2025年12月24日まで開催されている。茨城県つくば市のディーラーにやってきたときの模様をリポートする。
-
第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す 2025.10.3 2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。
-
第846回:氷上性能にさらなる磨きをかけた横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤ「アイスガード8」を試す 2025.10.1 横浜ゴムが2025年9月に発売した新型スタッドレスタイヤ「アイスガード8」は、冬用タイヤの新技術コンセプト「冬テック」を用いた氷上性能の向上が注目のポイント。革新的と紹介されるその実力を、ひと足先に冬の北海道で確かめた。
-
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ 2025.9.18 BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。