第644回:同じ車名なのに全然違う! 新旧「シビック」の試乗を通して感じたホンダの“今”
2021.03.27 エディターから一言 拡大 |
1972年に登場した初代「シビック」と、最新の「シビック タイプR」に試乗! 両モデルのキャラクターと、ホンダコレクションホールに展示される歴代モデルの姿に記者が感じたこととは? “ホンダを映す鏡”こと、シビックが歩んできた足跡に思いをはせる。
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現存するホンダ最古のモデル名
メーカーが公式にアナウンスしているわけではないので、間違っていたら申し訳ない。記者が調べたところ、シビックというのは現存するホンダ車のなかで、最古の車名らしい。単純に“古い”という意味では「バモス」や「ライフ」というペットネームもあるが、これらは長いこと断絶の期間があったし、今はラインナップから消えている。1972年7月の誕生以来、半世紀近くにわたり車名が受け継がれてきたホンダ車というのは、やはりシビックしかないのだ。
折を見てモデル名を変えたがる、移り気な(失礼!)ホンダにしては珍しい例で、それだけ大事な名前なのだろうと思う。そもそも語義がいいよね、シビック。市民のクルマですよ。
現在、そんなシビックの歴代モデルを一堂に集めた企画展「CIVIC WORLD 受け継がれるHondaのDNA」が、ツインリンクもてぎのホンダコレクションホールで開催されており(2021年5月31日まで)、その見学を含むメディア取材会がこのたび催された。なんでも、完売御礼の「シビック タイプR リミテッドエディション」や、まさかの初代シビックにも試乗できるというのだから行かないわけにはいかない。これもメディアの末席を汚す者の役得である。読者諸兄姉の皆さま、どうだ。うらやましいでしょう。
冗談はさておき、それにしても、なぜ今シビックなのでしょう? 誕生50周年を祝うなら2022年だし……。などと首をかしげていたら、昨2020年11月に米国で新型シビックが発表されていることに思い至った。これはもしや!? と思いなじみの広報さんに尋ねたところ、「今回のイベントは、『これからもシビックをよろしくね』というのが趣旨でございます」とやんわり否定された。11代目となる新型シビック、日本でお目にかかれるのはまだ先のようである。
シビックの皮をかぶったハイパーマシン
気を取り直してイベントのリポートを。ツインリンクもてぎでまず記者が体験したのは、シビック タイプR リミテッドエディションの試乗だった。場所は外周1.265kmの南コース。ホンダコレクションホールの動態確認テストで、宮城 光氏がF1マシンとかGPレーサーとかをぶっ飛ばしていた、あそこだ。
試乗に供される車両はいずれもナンバーなしで、クローズドエリア以外の走行は不可能なシロモノ。もちろん今後もマーケットに出回ることはないという。脳内で「モッタイナイ」というワンガリ・マータイさんの声が再生されてしまうのは、記者の貧乏根性の表れか。それにしてもワタクシ、現行シビック タイプRには乗ったことはあるが、リミテッドエディションはこれが初だ。
3周の完熟走行を終えて先導車がピットに引っ込み、いよいよ試乗スタート。「ストレートは100km/h以下」という条件以外、特に制約がなかったので、(記者のウデの範囲内で)いろいろ試してみようと意気込んだ。
ホームストレートを3速、100km/hで過ぎたら、減速しつつ複合の1、2コーナーに突撃する。次いで3コーナー手前でがっつりブレーキングし、2速にギアダウン。安心・盤石のブレーキフィールと自動で回転合わせをしてくれるブリッパーの優秀さに、思わず「おお!」と声が出た。
その先の25RのS字では、ヒタ、ヒタと決まる切り返しの姿勢に感服。ミシュラン自慢の「パイロットスポーツ カップ2」は、20Rの180°コーナーでも、10R、15Rといったタイトコーナーでも路面を捉えて離さないし、ウラの高速コーナーでもまったく音を上げない。その100Rを3速で抜けたら、どーんとブレーキングしてまた2速。最終コーナーを立ち上がり、再びホームストレートに戻る。
感想は、「すげえな、これ」である。批評も何もあったもんではない。
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同じ「シビック」なのに全然違う!
完熟走行やクーリングを含む計15周の間、シビック タイプRはドライバーの意図と自身の挙動、軌跡をぴっちり合わせ、ぶかぶかしたところをみじんも感じさせなかった。今回はコースの都合……ではなく搭乗者のウデと度胸の都合により、フル加速は試せなかったが、こと横方向の動きの一体感、キモチよさは、浅学ながらもこれまで乗ってきたクルマのなかで随一だと思う。
それにしても面白いのが、これだけリニアでサイボーグ感全開なクルマなのに、シフトが古式ゆかしき3ペダルのMTであること。「高性能車といったらDCT!」な昨今、かように緻密でデジタルなメカを、アナログ操作で操れるクルマは他にないと思う。
もちろん、そうは言ってもシビック タイプRで勝っているのは圧倒的にメカメカしい“未来感”だ。そして、その次に乗ったのが49年も前の、名前こそ同じシビックだったからこそ、記者は大いに混乱してしまった。
いや、「49年も前のクルマだから」というのは語弊のある言い方でした。単に時代が違うというだけではない。この2台には共通する感覚が、どこを探ってもカケラもなかったのだ(あくまで個人的見解です)。
貴重な初代シビックに記者が覚えた第一印象は、ほっこりした心地よさである。試乗したのは1973年製の、4ドアの上級グレード「GF」。インテリアはシートもドアトリムも上品なベージュで、緊張感がじんわりほぐれる。スタッフ氏からは、クラシックカーならではのブレーキの利きの弱さや、ノンパワステのハンドルの重さなどを注意されたが、こちとらポンコツの「ローバー・ミニ」に10年乗っていた身分である。そんなのは慣れたものよ。むしろ、ストロークに対してやたらミートポイントが近いクラッチのほうに戸惑いつつ、記者はクルマをスタートさせた。
1972年時点の“これからのベーシック”
試乗コースはホンダコレクションホールの中庭。時間はわずか10分という文字通りの“ちょい乗り”だったが、ちょいと走ると、ペダルもハンドルもすぐ手足になじんだ。
さすがは“M・M思想”を伝統とするホンダだけに、コンパクトながらも車内は広々。視界も広々。運転姿勢は快適そのもの。「重いですよ」と言われていたハンドルも、大径のステアリングホイールに(今となっては)小径・細身のタイヤもあって、なんというか普通に切れる。ブレーキについてはアクセルからのペダルの遠さに少々戸惑ったが、これも事前に注意されていたことで、わかっていればどうということはなかった。
世界の自動車史を変えたと言っても過言ではないCVCCエンジンも、その操作感は至って普通。大切に整備されているだけに、アイドリングは700rpmあたりで安定しており、アクセルを踏むと低い回転域からクルマをとっとこ走らせる。先述の、異様にミートポイントが近いクラッチを除くと(これは設計がどうというより、この個体のクラッチが減っているだけかもしれない)、トランスミッションの操作感も自然だった。
別に「そういうクルマ担当」というわけではないのだが、ありがたいことに記者は、webCGのなかでは古いクルマの取材に遣(や)られることが多い。過去に触れたもののなかには、ときに「おお、これはっ」と緊張を強いられるクルマもあったが、初代シビックはそれとは逆だった。操作にコツを要するところはなく、リラックスして運転できて、これなら普段使いでもストレスを抱えることはなかったろうと思う。
当時はまだ目新しかった2BOXのスタイリングに、FFの駆動レイアウト。ヒエラルキーにとらわれない独特のポジショニングもあって、初代シビックは若々しくて知的なクルマとして受け入れられたそうな(この辺は、記者なんぞより当時を知る読者諸兄姉のほうがお詳しいに違いない)。ただ、その目標はやはり、1972年時点における「新しい時代の大衆車(≒フツーのクルマ、みんなのクルマ)」だったと思う。
シビック=市民のクルマとは、ホントに言い得て妙。そしてやっぱり、ぶっとびサイボーグマシンである10代目シビック タイプRとは全然違うクルマだった。
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世界がホンダに寄せるイメージ
ホンダコレクションホールに展示される歴代シビックを見学しつつ、あまりにも違う2台の間にあった変遷を想像する。
おおむね2世代ごとにコンセプトを変えてきた歴代のシビックは、いずれもその時代のホンダのイメージを表したクルマだったと思う。「けん引した」とか「象徴した」とかではなく、ホントに素直に、ホンダのイメージが投影されたクルマ。
若者の憧れであり、デザインでも一頭地を抜いていたワンダーシビック。スポーティーなイメージを前面に押し出した5代目や6代目。日本ではあまり人気が出なかったが、前後席間のウオークスルーなど機能に徹した7代目も、クリエイティブムーバーで成功を収めた当時のホンダらしいクルマだったと思う。
その7代目から、8、9代目と、ホンダは世界的にシビックのご当地仕様化を進め、世界各地で“ニッポン人が知らないシビック”が活躍することになる。
10代目となる現行型は、世界的に車形が統一された久々のシビックとなったが、アメリカで26万台、中国でも20万台以上を単年(2020年)で売り上げるなど、すっかり地球規模のホンダの柱だ。独自規格の軽自動車やミニバン、あるいはコンパクトカーが幅を利かせるわが国のユーザーからしたら「?」かもしれないが、ときに“ガンダムチック”とも言われるメカっぽいデザインも、タイプRに覚えたマシン感、未来感も、世界のユーザーがホンダ車に寄せる、今のイメージなのかもしれない。
「シビック」はホンダの姿を映す鏡
それをもってして「こんなのワタシのシビックじゃない!」と嘆く向きもおられようが、日本がいささか特殊な市場であり、世界の巨大市場とニーズや使用環境が違う以上、そりゃ仕方のないことだ。
それに、かつてシビックがひとり(1台?)でガンバっていた役割は、今では「Nシリーズ」や「フィット」や「ヴェゼル」が受け持っているわけで、ここは「こんなクルマ~」と嘆くよりも、「あの子も立派になったんだねえ」と言ってやるほうが粋ってもんでしょう。
ニュースで報じられた新型シビック(4ドアセダン)の姿を見たところ、次期型は現行モデルからのキープコンセプトのようだ。前述の通り、2世代ごとに革新してきたシビックなので、次なる変革は“次の次の代”が登場するタイミングになるかもしれない。
シビックはグローバルなホンダのイメージを映す鏡。これからどんな姿となっていくか、楽しみである。
(文=webCGほった/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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