メルセデス・ベンツS500 4MATICロング(4WD/9AT)
風はこれから強く吹く 2021.05.05 試乗記 メルセデスが新機軸を惜しみなく投入したフラッグシップセダン「S500 4MATICロング」に試乗。48Vマイルドハイブリッドや四駆と後輪操舵の組み合わせ、先進のインフォテインメントシステム、そしてリアルタイム映像を用いた「ARナビ」など、自慢の“最新”を味わった。すぐになじむか戸惑うか?
何はさておきシートポジションを合わせようとドアトリムに備わるシート型スイッチに手を伸ばすと、あれ、動かない。物理スイッチではなく、タッチタイプに変わっていたのである。だから壊れていると決めつけて力任せに動かそうとしてはいけない。例によってとか、いつもの通りなどと言えなくなったのが現在のメルセデス・ベンツだ。
いつの頃からか、メルセデスは躊躇(ちゅうちょ)なく、しかもかなり頻繁にコントロール類のロジックや配置を変更するようになった。よく言われるのは、かつてはセンターコンソール中央の一等地から動かないはずだったハザードスイッチが、モデルによってあちこちに移動しているというものだが、新型「Sクラス」はそんなレベルではない。その程度で不満を漏らすようなオジサンたちに、この最新型のインターフェイスを使いこなすことができるか、いやそもそもその気になるかどうかすら怪しい気がする。
さすがにSクラスの場合はこの新型でもハザードスイッチはコンソールの真ん中、巨大な12.8インチの有機ELディスプレイ下にわずかに残された物理スイッチ列の中央にあるが、その隣にはスマホのホームボタンのようなタッチスイッチがある。指紋認証によるログイン用センサーだ。ほかにも顔や声、あるいはPINコードでも進化版の「MBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザー・エクスペリエンス)」にログイン可能で、さらに運転席以外でも行えるという。
今やクルマにログインする時代なのである。MBUXにドライビングポジションやメーター表示、スマホなどの個人プロファイルを登録しておけば、次からは何もする必要がないというわけだ。「ワシは最後までガラケーだ」などとかたくなだと、そろそろ新型車には乗れなくなるかもしれない。もちろん、そんな最新デバイスを無視しても走りだすことはできるが、最先端技術の恩恵にはあずかれない。
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今のところ6気筒のみ
W223型と呼ばれる新型Sクラスは、ほぼ半世紀前に初めてSクラスを名乗ったW116型から数えて7世代目にあたる。今のところ日本仕様はガソリンとディーゼルの各1種の6気筒エンジンが用意され、それぞれに標準仕様ボディーとロングホイールベース仕様が設定されている。
今回の試乗車は、ガソリンの3リッター直6ターボに「ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)」と電動スーパーチャージャーを組み込んだM256型エンジンを積む、ロングボディー仕様(ホイールベースおよび全長ともに標準型より110mm長い)のS500である。
新型のロングボディーの車両サイズは全長×全幅×全高=5320×1930×1505mmと従来型よりも若干大きくなっているが(全長は+55mm、ホイールベースは+70mm)、スリークで簡潔なデザインゆえに大型化したようには見えない。エアインテーク以外は押し出し感が強くないボディーのCd値は最良の仕様で0.22というから、メルセデスとしては初めて格納式ドアハンドルを採用しただけのことはある。
M256型直6ターボは従来型Sクラスにも搭載されていたものだが、最高出力435PS/6100rpm、最大トルク520N・m/1800-5800rpmへと従来型(同367PS/同500N・m)に比べてパワーアップしたことで、「S450」ではなく「S500」と、6気筒ながらモデル名が格上げされている。ちなみに全車4WDの「4MATIC」仕様、変速機は「9Gトロニック」と称する電子制御9段ATである。
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「Sクラスとしては」の難しさ
エンジンを始動するとわずか500rpmほどでアイドリングすることから、48V駆動のマイルドハイブリッドであると知れる。当然、極めて静粛であり、モーターとスーパーチャージャーがアシストする低中速も、主にターボが働く中高速域でも滑らかに逞(たくま)しく走る(欧州仕様標準ボディーの0-100km/h加速は4.9秒)。
まったく不足はないのだが、「Sクラスとしては」と考えると、若干期待を下回ると言わざるを得ない。従来型の途中で追加されたISG付き6気筒ターボエンジンが艶(つや)やかに滑らかに、そして静かに回ることに驚いた記憶に比べて、この新型はそれほどでもなかったのである。アイドリングストップしない場合など、条件によってはわずかにバイブレーションも感じたぐらいなので、もう少し他の車両も試してみるまで確かなことはちょっと保留にしたい。
乗り心地にしても、従来型ほどのねっとりしなやかな感じは受けなかった。新型は全車3チャンバー式エアスプリングと可変ダンパーを備えた「エアマチックサスペンション」が標準装備されるが、それにしては、たおやかなとまでは言えない乗り心地であり、ふんわりとした浮遊感はあるものの、どのモードに切り替えてもフラット感はいまひとつで、姿勢変化もやや大きいように感じた。S500ロングは本来18インチタイヤが標準だが、試乗車は「AMGライン」(99万8000円のオプション)を装備していたのでタイヤは20インチ(ノイズ軽減タイプ)を履いていた。
デモカーはどうしてもスポーティーなオプション満載になりがちだが(初期のカスタマーは皆フルフルを望むとインポーターは言う)、Sクラスのようなクルマはまずスタンダード仕様で新型を試したいところである。もちろん、Sクラスでなければ気にならない、指摘するほどでもない上等の出来栄えだが、Sクラスは既に達しているレベルから少しでも後退することが許されないのだ。
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新機軸が多すぎる
目的地を設定すると、要所でナビの案内矢印が載ったリアルタイム映像がセンターディスプレイに現れ、ヘッドアップディスプレイにも映し出される「ARヘッドアップディスプレイ」(41万円のオプション)は、ひと昔前のSF映画のデバイスが現実になったようで新鮮な驚きがあるものの、実際に役に立つかどうかとなると、正直言ってまだ分からない。
同じくオプションの「3Dコックピットディスプレイ」(13万円)も同様。特に見やすいとは感じられず、表示スタイルのバリエーションもあらずもがなではないかと思った。
そんなものよりも、新型Sクラスにはまだまだ確認しなければならない新技術が満載されている。たとえばプロジェクターなどに用いられるDLP(デジタルライトプロセッシング)技術による130万画素相当の「デジタルライト」の効果も見ていないし、さらにまだ日本仕様にはない「E-ABC」(Eアクティブボディーコントロール)と称するアクティブサスペンションも気になるところ。無論、今後V8モデルやプラグインハイブリッドも追加されるはずだ。
世界中から注視される新型Sクラスとは、素晴らしくて当たり前、常に最高を求められる存在である。今のところは新型Sクラスがひらく新世界の第一幕、これから続々と使用可能な武器が加わって戦闘力が増えてステージが上がる。脱落せずにプレーを続けるために準備しておこうと思っている。
(文=高平高輝/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツS500 4MATICロング
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5320×1930×1505mm
ホイールベース:3215mm
車重:2250kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力: 435PS(320kW)/6100rpm
エンジン最大トルク:520N・m(53.0kgf・m)/1800-5800rpm
モーター最高出力:22PS(16.2kW)
モーター最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)
タイヤ:(前)255/40R20 101Y/(後)285/35R20 104Y(ブリヂストン・トランザT005 MO-S)
燃費:11.0km/リッター(WLTCモード)
価格:1724万円/テスト車=2002万8000円
オプション装備: AMGライン(99万8000円)/リアコンフォートパッケージ(125万円)/ARヘッドアップディスプレイ(41万円)/3Dコックピットディスプレイ(13万円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1640km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:348.4km
使用燃料:39.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.9km/リッター(満タン法)/9.0km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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